地霊殿に向かう事にした。
地霊殿に行くことになり、黎人、霊夢、魔理沙、妖夢、早苗、惣一、豺弍の7人はそこに行くために、妖怪の山に向かっていた。地霊殿に行くためには、まずそこの麓に行かないといけない。
「地下から温泉が湧き出てくるという異変が起きてな。それがキッカケで地下に繋がる大きな穴が出来たということなんだぜ」
「なるほどな。冥界と言い月と言い、本当になんでもありだなココは」
魔理沙からその異変についての説明を受けている。黎人や惣一、豺弍は地霊殿に行った事すら無いのだ。
「で、地霊殿ってどういうところだ?」
そのまま、黎人は自分の中で疑問に思った事をそのまま尋ねた。その質問に霊夢は簡単に尋ねた。
「…嫌われ者の巣窟ってところよ」
「それはまた妙な雰囲気だな」
「でも事実よ。人から嫌われているあまりに地上に行くことも出来ないみたいだし」
「なるほど」
何となく黎人は理解した。地霊殿とはいったいどういうところなのかを。
全てを受け入れるとは言ってもそれはあくまで幻想郷の話であり、そこに住んでいる人がそうであるとは限らない。人間であるなら感情はあり、何かを怖がったり嫌がったりすることも当然ある。
そうして嫌われたものが集まるところが地霊殿なのかと認識した。
「…ねぇ、妖怪の山って天狗がいるところだっけ?」
すると移動している途中で、豺弍は尋ねた。妖怪の山は天狗がいるところなのかどうかという、幻想郷に住んでいる者なら当然知っている事だ。
「?はい。天狗と…あと河童と言われる種族がいるはずですけど…」
「ここまで一体も見当たらないんだけど、どうかしたのかな?僕の聞いた話だと、天狗はプライドが高い種族らしいし、僕たちに襲いかかってくると思ってたんだけど…」
「それは…博麗の巫女である霊夢さんがいますし、黎人さんや惣一さんがいるから、手を出そうとは思わないのでは無いですか?」
豺弍はこれまで全くその姿を見ていないことに疑問を抱いているようだった。
それに対する早苗の推測は、間違っていないと全員思った。いくらプライドが高いと言っても、いまの幻想郷の現状からすると、そのようなものを掲げている場合では無いと誰であっても考えるだろう。博麗の巫女や幻想郷でその強さが知られている黎人や惣一に喧嘩をふっかけてくる天狗がいるとは考えづらい。
「うーん…そうは思わないんだけどなぁ。ちょっとこの辺り調べといて良いかな?」
「別に構わねぇぞ」
「あ、良かったら私も同伴させてください」
だがあまり納得のしていない豺弍は、妖怪の山の周辺を調べることにしたようだ。そして妖夢は彼と一緒に行動することにした。
妖夢と豺弍が、空中から森の中に入っていき、それ以外のメンバーはそのまま地霊殿を目指す。
「大丈夫でしょうか?」
「豺弍がいるし、大丈夫だろ。アイツの力は既に確認済みだ」
「なら良いんですけど」
早苗が彼らの心配をしていた。なので黎人は心配する必要はないと伝えた。豺弍の戦いを見た彼はあまり心配していない。
それなら、と早苗は納得したような返答をする。心配がなくなったわけではないが、黎人が言うなら少しは大丈夫かと考えたのである。
「さて、もうすぐで着くぜ。私たちの目指している地霊殿の入り口が」
しばらくして、彼らは目的地に近づいていた。
当然彼らは空を飛びながら移動しており、歩くよりも断然速い。なのであっという間に近づくことが出来るのだ。
「…ん?だれかいるぞ?」
だが地霊殿の入り口に着く前に、ひとりの何かが空中に浮いているのを発見した。それを確認した彼らは、その前で止まる。
そしてその阻んでいるものを確認する。
「…人間?」
それは、人間だった。天狗や河童などの妖怪ではなく、それも一見平凡な人間だった。
この妖怪の山は、その名の通り妖怪が住んでいるところだ。当然妖怪が沢山いるところであるし、その中には人間を襲う妖怪もいる。人間が住める場所ではないし、まして近づく人間はいない。
じゃあなぜその人間はそこにいるのだろうか。その場の全員がそう考えていた時…
「……どうも」
その男から、弱々しく声をかけられる。声が小さくて、もしこちらが喋っていたら聞こえなかっただろうと思わせるほどだった。あまりにも低姿勢な態度に、逆にどうしたら良いのだろうかと躊躇ってしまう。
「お前、何者だ?」
そんな空気の中、黎人がその男に尋ねた。この微妙な空気の中、容赦なく話しかけられるのは彼ぐらいである。
「…ドベル・カージオイドです。いま、DWに所属してて…えーと、ちょっとした用事で、あの、その…ここにいます」
「…あがり症かよ」
何者かを答えるだけだと言うのに、緊張しているからなのか、全く喋る事が出来ていない。言葉に結構詰まってばかりで、コイツ本当に大丈夫なのかと心配してしまう。
「…DWって事は…私たちの相手をしに来たと言うわけ?」
そんな中、霊夢が彼に尋ねた。DWという単語は何回も聞いた事がある。現在戦っている団体の一員であるという事は、ここで戦おうとしていると言うことにも考えられる。
「…はい」
その推測は、間違ってなかった。やはりこの男は、自分たちと戦いに来たと言うことなのだろう。そして…
「…まさかあんたの仲間、地霊殿に行ってるってこと?」
霊夢は、自分たちが向かっている地霊殿に、DWも向かっている事なのだろうかと考えた。それは根拠のある推測ではない。彼女お得意の、直感である。
「…いや、それは…」
「ねぇ?」
「は、はい…」
((打たれ弱っ!!))
ドベルが誤魔化そうとするが、霊夢に睨みつけられ折れてしまった。魔理沙と早苗はそれを見て可愛そうとさえ思ってしまった。
「…あのさ。悪いこと言わねぇから、戦うのはよした方が良いぜ。事態が事態だし、私たちはいま手加減できそうにねぇぞ?」
あまりにも可愛そうだったため、魔理沙が直ちに退散する事を提案した。いまの状態で手加減出来るほどの余裕はない。
「…それは、しません。ここで止めるように、言われたので」
だがドベルには、退く気は無いようだ。
その目を見て、説得は無理だと悟った。たとえ臆病者であったとしても、本気の目をしているときは決して折れない。
そうなった以上、戦うしかない。
「…しょうがねぇか。じゃあ行くぜ」
説得する事を諦めた魔理沙は、あるものを取り出した。彼女がよく使っている、ミニ八卦炉である。いきなり彼女の全力をぶつけようというのだ。
ミニ八卦炉を、構える。直ぐにでも、超特大の弾幕を放つ事が出来る。その間も、ドベルに動きはない。
「マスター…」
いつも通り、掛け声を言う。気合いと一緒に弾幕を、まさに吹き飛ばすように放つ瞬間だった。
◇
「そんな…」
霊夢たちと離れてから、森の中に入っている妖夢は、呆気にとられていた。何しろ、彼女は信じられないものを見たのだから。
「天狗さんたちが…
やられている」
森を暫く歩いていると、豺弍が何かに気づいたようで、とある方向に走っていった。それを見た妖夢は彼に続けて後を追う。
木の隙間を通り抜けたとき、彼女が見たのは、何人かの天狗の死体だった。
それも、かなりえげつない。単純に攻撃を受けた、などのようなものではなく、体をバラバラに斬られている。
その近くの木や地面は、天狗たちの血で真っ赤に染まっており、天狗の体の部位が地面に転がっている。その様子から、被害にあった天狗は、20人は下らない人数であると察してしまう。
その惨状たる現場で、豺弍があらゆる所を調べている。
「抵抗しなかったと言うわけでもないみたい。地面に転がっている剣は鞘から抜き取られているし。
血は固まっていないから、そんなに時間は経っていない。
そしてここから見ると酷い様子だったけど、上空から見ると全く分からなかったんだから、空中で殺されたんじゃなくって、地上で乱闘したんだ。
地面にも跡が残っているみたいだから、乱闘にはなったんだろうね」
現場に残されている手がかりから、豺弍は色々と分析している。かなり注意しないと発見できないほどの小さな手がかりを見つけ、更に精密な分析をしている。その仕事ぶりはまさに、手練れであると確信してしまうほどのものだった。
「…何の目的があって、こんな事…」
妖夢はその惨状を見渡しながら思った。どうしてここまで酷い殺し方をしたのだろうかと。
彼女も剣士であり、少し前なら考えるより先に斬りかかるという猪突猛進なところはあったが、体をバラバラにするまで切り刻もうとは思わない。
だから、目の前の惨状を作り出した男の気持ちが分からないのである。
「…多分、目的があってこうしたんじゃないと思う」
そう思っている彼女に話しかける声があった。その現場を調べ続けている豺弍である。
「バラバラになっているという事は、死んでもまだ斬り続けたという事で、戦いとは全く別の理由。
それに1人残らず解体したという事は、そうしないといけなかったということにも取れる。
けどそうしないといけないほどの作戦とか計画とかもない」
話しかけている豺弍に近づく。何か理由があってバラバラにした訳ではないという彼の推測について、その理由は一体何なのかを知りたかった。
「まぁ、勘だけどね」
「勘ですか!?」
思いのほかザックリとした解答を聞いて唖然とする。真剣な表情で、まるで自分の推測に自信があるように言ったのに、その根拠がよりによって勘とは思わなかった。そういうところは霊夢に似ているなと考えてしまった。
「え…と、じゃあ、豺弍さんはこの惨状についてどう考えていますか?」
気を取り直して、豺弍に聞いてみる。目的がないと考えていると言う事は、彼なりに何か考えがあると言う事なのではないか。そう考えていた。
「うん。僕の予想ではね…」
◇
理解が追いついていないとは、この状態の事を言うのだろうか。あっという間に起こった事が、一体何なのか…それを認識するだけでも、数秒かかってしまった。
少なくとも
異常事態が起きたと言う事は分かる。
「…そ、
惣一、さん……?」
ポツリと、早苗が言葉を出した。かなり戸惑いのある表情で、恐る恐る尋ねている。
それは、彼女だけではない。
何しろ
惣一の腕が、斬り落とされたのだから。
「…ッ!」
惣一は、苦痛の表情を浮かべている。それでも、痛みには慣れているのか声を上げて悶えてはいない。
だが、痛みや傷がない訳ではなく、手首を失った腕からは大量の血が流れている。そして斬り落とされた腕は森の中に落ちていった。
「…嘘でしょ…!?何が、起きたというの…!」
霊夢もかなり困惑している。何しろ、彼女も理解が追いついていないのだ。
数分前、魔理沙がドベルに巨大な威力を持つ弾幕、マスタースパークを放とうとした時だった。
魔理沙はもうすでにそれを発動する手前まで来ていた。その段階まで来たら溜まるだけ溜めたエネルギーを止める事は出来ない。そうすれば、目の前の敵を戦闘不能にするほどのダメージを与えただろう。
だが、その時ドベルの雰囲気が変わった。さっきまでの穏やかな雰囲気とは打って変わり、惣一は恐ろしい気配を感じた。その気配は、黎人や魏音のような、強さを感じさせるほどの気配とはまるで違う。
それはまさに、狂気だった。恐らく不気味な、気が狂うほどの気味の悪さだった。
それに気づいたのは、惣一だけだった。敵意や殺気には慣れている黎人でさえも、その狂気には気づかなかった。
それに気づいた惣一は、弾幕を放とうとしている魔理沙を押し飛ばす。魔理沙は体制が崩れ、弾幕は全くの別方向に放たれた。
それと同時に、魔理沙を押し飛ばした腕が斬り落とされた。
その腕を斬り落とした張本人は、いつのまにか目の前に現れている。咄嗟に左手に持っていた拳銃で発射したところ、消えるようにその場からいなくなっていた。
そして今に至る。
「…そ、惣一…」
動揺しながら、惣一に声をかける。いま惣一は、彼女を庇ってその攻撃を受けたのだ。責任を感じずにはいられないだろう。
「…大丈夫です。ある程度は慣れています」
惣一は気にしてないと言う。だが、なんて事ない筈がない。腕を失っているのだから、大きな損失に違いない。
黎人はその腕を斬り落とした男を見る。姿は変わっていないが、なんとなく雰囲気が変わっている事に気づいた。
「ごめんなさい。僕、ここを通る事を禁止しているわけじゃないんです」
ドベルは話し始めた。さっきまでと同じ声で、全く異なる話し方で。
さっきまでのイメージは、もう既にない。黎人はその男を警戒する目で見ていた。
「別に通っても良いですよ。ただし通るなら…
あなた方の内臓、全部置いていってください」
虚ろ
彼の目を見て、黎人は思った。
少し前まで持っていた緊張感も無くなり、読み取れるのは、悍ましい狂気だった。
「…とんだサイコ野郎だな」
◇
「解体欲求…ですか?」
豺弍から、目の前の惨状を生み出した男に関する推測を聞いた。
「外の世界に、そういう人が居たんだよね。人や動物の体を解体する事に快感を感じ、沢山の生き物をバラバラにする人がいるんだ。そういう人がこの現場を作ったんじゃないかなって思う」
全く妖夢には考えつかない話である。体を解体したいという欲求を抱くなど、考えたこともない。
「この予測が当たっていたら、かなりヤバい」
豺弍は少し警戒している。もしまだその男がこの現場にいて、自分や黎人たちの前に現れたら、ヤバいのではないかと。
「これも僕の勘なんだけど…
多分みんな、そういうタイプと戦うの、苦手な気がする」
ドベルが登場しました。いわゆる、解体好きなタイプです。かなり苦戦すると思われます。