東方羅戦録〜世界を失った男が思うのは〜   作:黒尾の狼牙

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前回のあらすじ
劉が強い。


95 向いてないよ

「ゲホ…!」

 

妖怪の山にて、爆風に巻き込まれたロッタが膝をつく。致命傷だったようで、かなり苦しそうにしていた。

跪いた彼が顔を上げると、その爆発を起こした本人である劉がいる。あの男が出した紋章によって爆風が起こり、ロッタの弾幕が消えたのだから。

 

「…テメェ…魔法か!?」

「まぁな、フィールド内の弾幕をその場で爆発させるものだ。いくつかの弾幕を透明にしておいて、お前の周りにばら撒いてたんだよ。全く分かんなかっただろ?既に囲まれていたことに」

 

劉の話を聞いて、惣一と早苗は驚きを隠せなかった。彼がやった事には、3つの仕掛けがあったのだから。1つは、弾幕を爆発させる紋章を発動した事、1つは、屈折によって弾幕を透明化させた事…もう1つは、弾幕を飛ばさずにいた事だ。

通常、弾幕は飛ばすものだ。勿論、勢いのない弾幕はあるし、その場で止まる弾幕もある。だが、あれだけの激闘の最中、止まる弾幕を丁寧に敷き詰める、それは簡単に出来るものではない。

ロッタに能力を明かしたのは、正しく、能力の原理を知られても勝てるという事だったのだろう。劉は、能力が強いのではなく、その使い方が上手いのだ。その力は、かなり有利なものになるからだ。

 

「ふざ…けんなァァ…!」

 

突然、ロッタの様子が変わった。表情はかなり険しくなっており、雰囲気もさっきまでの様子とは打って変わり、かなり怖い雰囲気が漂っていた。

 

ゆっくりと、ロッタが立ち上がる。今からすぐに、目の前の男…劉を倒すために。

だがついさっき、劉にかなりボロボロに敗れたばかりの男だ。普通に攻撃を仕掛けただけでは勝てないだろう。

 

だが次の瞬間、あり得ない事が起こった。ロッタの髪が、急激に伸びて膨れ上がっているのだから。

 

「な…なんですか、アレ!?」

 

早苗は慌てて叫ぶ。もともと少し髪が長かったが、その長さとは比にならないくらい大きくなっている。しかもただ伸びているだけではない。伸びているその髪は、よく見ると動いているのだから。

 

「…へぇ、それが『髪を操る程度の能力』か。面白い」

 

ロッタの伸びている髪を見て、劉は面白そうに言う。彼は、ロッタの能力の事を知っていた。そしてその伸びた髪は、ムチのように攻撃したり、相手を縛り付ける事が可能である事も知っている。両手に銃を持つ。先ほどまで能力を発動してくれなかったから、少し物足りなかったのだ。

 

両者が構えている。これから、第二ラウンドが起きるのだ。ロッタは銃を向けている劉に向かって攻撃を仕掛ける

 

事が出来なかった。

 

「…うあ!?」

 

突然、ロッタが崩れる。それに伴って、彼の髪も元の長さに戻ってしまった。あまりにも突然で、劉も少し怪訝そうな表情をしている。

 

「テメェ…どう言うつもりだ、瑛矢!」

 

ロッタが睨むようにして1人の男の名前を言う。それは、先ほど惣一と戦い、その結果戦闘不可能な状態になっていた瑛矢であった。

惣一の発動していた電磁波の効力がなくなり、GARDERが使えるようになり、チェバリアーマーで彼の後ろに来て、()()()()()()能力を抑えたのだ。

 

「…指令だ。ここはもう引き上げるぞ」

「ああ!?このまま帰れって言うのかよ」

「集団のルールに逆らうな。2度は言わないぞ」

 

瑛矢は指令だと言って、その場から引くように言った。ロッタはそれに不満があるようだが、集団として撤退と言われている以上、それに逆らう訳にも行かなかった。

瑛矢は痺れて動けないでいるファトラスの近くに行き、担ぎ上げる。少し重いが、別段支障が出るほどではない。

彼らはそのまま撤退しようとしていた。

 

「…なんだよ、逃げんのか?」

「逃げはしない。これはお預けだ。…いずれはかたをつける。()()()とも…惣一とも」

 

瑛矢がそう言い残して去る。彼が話していた『お前ら』とは、恐らくは神界の者らの事である。劉はやはりと言う顔をしていた。彼らの狙いは…

 

「劉さん、ありがとうございます。お陰で助かりました」

 

考え事をしていると、惣一から声をかけられる。よく見ると早苗も一緒にいた。2人とも感謝を伝えに来たのだろう。この真面目な2人ならそうするはずだ。

 

「気にすんな。事のついでだ」

「…ついで?」

「ああ、ここに来たのは2つ理由があるんだ」

 

劉は惣一たちと話しながら、歩き始める。その方向には、倒れている1人の男がいた。そう、刃燗だ。瑛矢との戦いであっさり負けた男だ。

 

「1つは…この男の回収だ」

「え!?なんで…」

「まぁ聞きたくなる気持ちも分かるが、こいつは俺が預かる。別に変なことはしねぇよ。少しコイツに確認するだけだ」

 

劉の言ったことになんでと早苗は聞く。なぜ刃燗を連れて行くのだろうか。彼は怪我をしたばかりで、いますぐに治療しないと不味いと言うのに。

だがその理由は、劉は話さなかった。その様子だと、少し不安だ。味方であるとは分かっていても、早苗は劉を完全に信頼した訳ではない。そんな男に、刃燗を連れて行かせるのは、不安でしかなかった。

 

「…もう1つは?」

 

だが、惣一は引き止めなかった。彼は劉のことを疑ってはいない。寧ろ信頼しているため、刃燗を連れて行ったとしても、悪いようにはしないだろうと感じる。その様子に、早苗もおとなしく引き下がった。

惣一は聞いた。劉がここに来た、もう1つの理由を…

 

「…そーだな、ちょっと聞きてぇ事があるんだが…

 

無縁塚ってどこだ?」

 

 

 

 

 

博麗神社前、黎人の爆弾発言のせいでリーフが暴走し、彼女の猛攻によって地面がかなり崩れている。その上で、いつもとは違う雰囲気で、黎人はそこに立っていた。

彼は緑色のマントを纏っており、その手には何もなかった。いま彼が発動している『森林』は『木』の進化形態であると本人も言っていた。だとするならば、『木』の時に使っていた鞭も無いといけないはずだが、それすらもなく手ぶらである。

 

「…そういえば、『火炎』とか『金塊』とかの能力もあったわね。すっかり忘れていたわ。それで?何も持っていないあなたに何が出来ると言うのかしら?」

 

リーフはそこで思い出した。リヴァルとの戦闘の時に、黎人は人格や能力が大きく変わった事があり、そればかり意識していたため、もともとの能力、『五行を司る程度の能力』も未知数である事を忘れていた。

 

「何が出来るか…それは今から教えてや《バサバサ!!》…」

 

リーフの言葉に答えるように黎人は口を開く。だが不幸なことに…マントが彼を覆ってしまった。

 

「ああ!うぜぇ!なんでこんなマントが羽ばたくんだ!」

「いやだって今日風がそこそこ強いし…」

 

マントが顔を覆ったことに、黎人はキレだす。いま現在かなり風が強く、マントは当然激しく動くだろう。当たり前の事であり、それにキレられても何とも言えない虚しさを感じてしまう。

 

「…グダグダ喋っていると…死ぬわよ」

 

付き合ってられないと言わんばかりに、リーフは体の棘を飛ばす。地面を割るほどの威力だ。まともに喰らえばタダでは済まないだろう。

だが黎人は、避けなかった。さっきから彼の顔を覆っているマントの端を持ち、思いっきり降る。すると、そのマントに当たった棘が、まるでそのマントに吸い込まれるように消えていった。

 

「…!?」

「お前、『木』の能力を把握してんじゃねぇのか?だったらその進化した形態の『森林』もその能力を持っているに決まってんだろ」

 

その事に驚いている彼女に、黎人は呆れた顔で話す。そうは言っても、そのマントが吸収能力を持っているとは思わないだろう。

『木』は手に持っている鞭が、相手の放ってきた弾幕を吸い込んでいた。その役割が、今回はその背中にあるマントなのだ。鞭に比べて表面積があるので、攻撃の防御には最適になっていると言えるだろう。

 

「チッ…!じゃあ、物理攻撃ならどうかしら?さぁ、いってらっしゃい!」

 

軽く舌打ちをして、リーフは指を鳴らした。すると、彼女と一緒にいた驥獣や男たちが、黎人に向かって襲いかかる。確かに物理攻撃は吸収する事が出来ない。マントのままで戦うことは出来ない。

すると黎人は、真っ直ぐ手を伸ばした。まるで何かを放とうとするように。その様子に怯むこともなく敵は段々と近づいていく。

 

 

だが、黎人の手から数本の緑色の蔦のようなものが現れ、それによって彼らは蹴散らされた。

 

「な…!」

 

これには流石に驚きを隠せないで、声にまで出してしまった。手から鞭のようなものが現れたことも可笑しな事だが、彼女にはそれよりも信じられないものがあった。

あれだけの驥獣や兵士を、一瞬にして倒した黎人の強さが信じられなかった。

見たところ、黎人の手から現れた鞭は9本だ。『木』の形態の時は一本の鞭で戦っていた。数が増えるほど威力が下がるのが筋だが、今のを見た瞬間、威力が上がっていると言うのが分かる。

 

「…何故そんなに鞭を出して、そんなに威力があるのかって聞いてる顔だな」

 

リーフの顔を見て、彼女が何を考えているのかを当てた黎人は、手から出していた鞭を消した。いつでも出したり消したり出来るのだろう。

 

「それなら根本から間違っている。弾幕は基本的に自分の霊力や妖力などを消費して出される。だから本数が増えれば威力が落ちると思ってんだろ?」

 

黎人の言っている事に間違っているところはない。弾幕は霊力を消費するもの、同じ霊力の量を消費して弾幕を生産したのなら、生産された弾幕の1つ1つは、大きさや威力が下がるのが定石だ。

 

「これは俺の霊力で出した鞭ではない。あの鞭の原料はお前だ」

「…なんですって?」

「さっきお前の棘を吸収したように見えただろ?あれはお前の棘に備わっていた威力を吸収したんだ。そしてこの手で、それと同等の威力を持つ鞭を作り出す事が出来る。地面にアレだけヒビを入れた棘だ。相当な威力があるだろ」

「……!」

 

そのセリフを聞いて、筋が通った。今の彼の鞭には、先ほど彼に試しに放った棘…そして、キレ気味に放った棘の威力を備えている。その棘の威力は彼女が1番分かっている。たかが9分割されたぐらいでは、弱くなる事はない。

 

「ま、そんなわけだ。悪りぃけどこっからは、思う存分やらせてもらうぜ」

 

黎人が空中に飛び上がり、一気にリーフに近づく。攻撃を仕掛けに来ていると直ぐに分かった。

彼女は両手を握り、2つの拳を作った。すると指の付け根の辺りから棘が飛び出た。しかも先ほどまでの小さな棘ではなく、細く、鋭利で長いものだ。

黎人の繰り出してくる蹴りを、その棘を使って防ぐ。まるで鉤爪のように扱い、恐らくはそれで切り裂くのを得意としているのだ。

蹴りを受け止められた黎人は、右手を後ろに引く。すると掌からさっきと同じように鞭が現れる。

棘に防がれている足に力を入れて、黎人は後ろに飛ぶように引く。それに合わせて右手を振った。当然、鞭がリーフに襲いかかる。

近づいてくる鞭を、リーフはその拳につけている棘で切り裂く。実体はあるようで、すり抜けるような事は無かった。

 

「なら、これでどうだ?」

 

あっさりと鞭を切られたが、黎人は焦らずにその鞭を引っ込める。そして右手をリーフに向ける。そしてその手から、鞭が現れてリーフに近づく。

 

「…舐めてくれるわね」

 

先ほどと同じように鞭で攻撃をしてくる黎人を、舐めているとリーフは思った。そして、さっきと同じように棘で斬り裂こうとしていた。

 

だが、その鞭は動きを急に変更して、曲線を描いてその斬撃を避けた。

 

「…な!?」

 

驚いている内に、鞭は勢いをつけてリーフを叩きつける。体制を崩しそうになりながら、リーフは再びそれを斬り裂こうとした。だがさっきのように、鞭はまるで蛇のように避けた。

 

「チ…!」

 

細く伸ばした棘を引っ込めて、リーフは体から飛ばす棘を生やし、鞭に向かって飛ばす。逃げる場所が無いので、流石に避ける事は出来なかった。

 

「驚いたか?意識すれば鞭の形を自在に操る事が出来るんだよ。結構疲れるけどな」

 

実に厄介だ。その鞭は、黎人が意識さえすれば自由に動く事が出来るのだ。

自由に動き回るのならば、鉤爪のように斬り裂く棘は使えない。だが飛ばす棘だとあのマントに吸収されてしまう。リーフにとってかなり不味い状況だ。

 

「…てゆーか、最初に比べて大分イライラし始めてねぇか?」

 

そこで黎人は気づいた。最初にここで戦い始めている時に比べて、リーフは明らかにイライラしている。最初は余裕そうに戦っていたのに、今は表情がかなり険しい。

 

 

 

 

 

 

「ははぁ、もしかしてお前…

 

 

 

 

 

 

 

ピンチに慣れてないんだな?」

 

 

 

 

黎人がそう言った途端、リーフは顔色を変えて黎人に突っ込む。拳から鉤爪の棘を生やし、彼を斬り裂こうとした。だが、黎人にサラリとかわされてしまった。

黎人の言っている事は、図星だった。彼女は緊急事態になるとどうすれば良いのかが分からなくなる。そのような事態になったら基本的に部下に任せていたが、いま彼女のもとには1人もいない。

 

「やれやれ…挑発にはすぐ乗るし、いざという時に頼りにならねぇし」

 

リーフの攻撃を躱し、黎人は彼女の後ろに着地した。『火』や『火炎』ほどの機動力は無いが、常人よりは高い。

 

「お前…幹部に向いてないよ」

 

リーフに言った一言、それはリーフを怒らせるのには十分すぎた。多くの男たちを従える事に喜びや誇りを感じている彼女にとって、上に立つ事に向いていないという発言は、侮辱に等しかった。

 

「…だったら、殺してみなさいよ。たかだか三流風情が…」

 

リーフが本気になった。それは明らかだった。黎人もそれ以上何を言ったりせずに、リーフの攻撃を受けようとしている。

 

 

 

 

その様子を見て、霊夢は考え事に耽っていた。その内容は、黎人のことだ。

 

ーーお前、幹部に向いてないよ

 

また、彼は核心をついた。バカなようで肝心な部分は分かっている。

 

緊急事態の対応が出来ないことは、軍を纏める者にとって致命的な欠点だ。そういう時こそ幹部や棟梁の腕の見せ所であり、それが出来ない人の部下の立ち位置ほど不安なものは無い。

捻くれてはいたが、リヴァルにはそれがあった。出来損ないである者を生け贄にして動く事であるから、褒められたものではない。しかし、上に立つための力はあったのだ。

リーフはその部分が決定的に足りていない。だからこそ黎人は言ったのだ。『幹部には向いてない』と…

 

分かっていないようで分かっている。そんな彼の様子はいままでに何回か見てきた。

だからこそ不安だ。

 

彼の目には、頭の中では、リーフがどのように見えているのか…

 

 

 

霊夢が物思いに耽っている間に、黎人とリーフの戦いはかなり進んでいた。

黎人の手から伸びる鞭を躱しながら、その手に生やした鉤爪の棘でその鞭を斬り裂く。切れなかった鞭も何本か残ってはいるが、それでも構わなかった。

刻一刻と、黎人に近づいていってるからだ。

 

(…どうやら、意識して伸ばす方の鞭のスピードはそれほどでも無いわね。なら、切り進めて行けば根本のアイツも殺せるわ)

 

腕を振り回す事で扱う鞭に比べて、意識して動かす方の鞭はかなり遅い。その事に気づいたリーフは、切り進めていきながら彼との距離を詰めていく事を選択した。

 

「チッ…!」

 

軽く舌打ちをして、黎人はその手から生やした鞭を戻す。リーフがその弱点に気づいたのが分かったからなのだろう。その攻撃は通じないと分かった。

一旦戻した後、黎人は両手を合わせる。すると手と手の間に光が溜まり、一気に手を広げれば細長い棒のような物が出来上がった。

そして、黎人を斬り裂こうとしたリーフの鉤爪を防いだ。

 

「…鞭を硬めて棒のようにしたのね。じゃあ、それごと砕いてあげるわ!」

 

リーフが続けて攻撃を繰り出す。当然、黎人はその攻撃を防いだ。

そこから暫く、リーフの猛攻が続く。鉤爪のような棘の硬さはとても強く、それを受け止めるように防いでいる黎人がかなり押されていた。

 

「…哀れね。そのまま醜く、潰れなさい」

 

ポツリとリーフが言い、棘の様子が変わる。先ほどまでは拳から一本の棘が細長く伸びていただけだったのだが、その棘から小さな棘が大量に現れている。それはまるで剣山に見えた。

 

剣山のような棘で黎人を貫こうとしているリーフに対し、その攻撃を鞭で防いだ。だがリーフの攻撃に耐える事は出来ずに、鞭が粉々に砕ける。

 

それをリーフが笑いながら見ていたが、その表情は一気に変わる。鞭を持っていない方の手に、光が灯っているのが見えたからだ。

 

「悪りぃな、まだ潰れるつもりはねぇよ」

 

その手をリーフに向けて突き出した。掌から緑色の鞭が勢いよく飛び出す。近距離では流石に避けきれず、モロに食らってしまった。

 

思いっきり吹き飛ばされたリーフは、後ろの木にぶつかり、かなり苦しんでいる。

 

「バラのように魅了するとか言ってたが…色々とブレまくっているお前には、少なくとも俺は惹かれるところが1つもねぇよ」

 

崩れ落ちるリーフを一瞥して、黎人が語った。黎人からすれば、リーフの良いところが全く見当たらないのだ。だから、リーフに惹かれた男の気持ちが分からない。

 

いや、彼の場合は、それ以前の問題だった。

 

(…こんなところで、やられる訳には行かないのよ)

 

木にもたれかかりながら、リーフは呟いた。彼女には任務があった。所謂、黎人に関する新しい情報を手に入れる事だった。今回、『森林』の能力について知ることが出来たから、それなりの成果は出てると言える。

 

だが新しい情報が手に入ったとしても、それを持ち帰らなければ意味がない。ダイガンやそれ以外の人に伝えなければ、水の泡になってしまう。

 

何より、黎人に負ける事は、プライドが許せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(こうなったら、博麗の巫女…あんただけでも殺してやるわ!)

 

リーフは殺気の向ける先を、黎人から霊夢に変えた。霊夢は何やら考え事をしているようで、リーフが自分を狙っていることに気づいていない。

 

体から棘を生やして、霊夢に飛ばす。その棘は真っ直ぐ、霊夢に向かって飛んでいく。

 

「…!しまった!霊夢!」

 

リーフが霊夢を狙っているのが分かった黎人は、大声で霊夢に呼びかける。その声に意識を取り戻した霊夢は、自分に向かって棘が飛んできている方に気づいた。

 

迂闊だったとしか、言い訳のしようがない。いまそこに立っている場所は戦場であり、戦場に立っている以上自分も狙われる可能性が十分にあり得る。だと言うのに、油断してしまったせいで自分が狙われたことに気づかなかった。

 

もう棘はすぐそこまで近づいて来ていた。もう間に合わない。避けることも防ぐ事も無理だ。その棘はいずれ、霊夢の体を貫く。

 

 

だがその前に黎人が彼女の前に移動して、マントでその棘を吸収して防いだ。

 

「…つくづく邪魔してくれるわね…良い加減鬱陶しいわよ」

「鬱陶しいのはどっちだ。さっきから卑怯な手ばっか使いやがって」

 

霊夢を殺せなかった事にリーフは腹を立てている。そんな彼女の様子はどうでも良いと言わんばかりに黎人は話した。

 

これ以上リーフと話すつもりはない。彼女の話に付き合うつもりもない。サッサとこの戦いを終わらせたかった。

 

「終わりにしてやるぜ、リーフ。お前とこれ以上話すつもりはない」

 

リーフを叩きのめそうと言わんばかりに、黎人は手から棒状の鞭を取り出す。正に叩き潰そうとしているのだろう。それを見てリーフもかなり焦り始めた。

 

 

 

 

だが…

 

 

「……!?」

 

 

 

 

突然、異変が起きた。

 

 

 

 

「え…」

 

 

 

 

 

何が起きているか分からない、と言うような表情で霊夢は呆気に取られた。それもそのはず、明らかに黎人が有利だった筈なのに、その黎人が膝をついたのだから。

 

 

 

「…何だ、コレ…!?『木』の副作用…じゃねぇ。幾ら何でも、早すぎる…」

 

 

黎人も何が起きているのか分からないでいるようだ。だがそうは言っても、意識に霞がかかり、身体も思う通りに動けなくなり始めて来た。

 

 

 

 

「フフフ…アッハハハハハハハハハハ!!」

 

それを見て、リーフは笑い出す。最初こそ焦ってはいたものの、黎人が崩れ落ちていくのを見て分かったからだ。

 

「そう言う事なのね…あなた、弾幕とかは吸収出来ても、成分は吸収出来ないようね。…正確には、取り込んでしまったって事かしら?」

 

リーフの言葉を聞いて、黎人はまさか、と言うような顔になる。『成分を取り込んでしまう』と言う事は、思いつく事は1つしかない。

 

 

「そうよ、さっき飛ばした棘は唯の棘じゃない。猛毒を帯びた棘よ。棘を食らったが最後、1時間後には完全に死んでいるわ。

本当は、博麗の巫女を確実に殺すために飛ばしたんだけど、結果オーライというやつね」

 

黎人の読みは当たっていた。リーフは猛毒を仕込んでいたのだ。弾幕や物理の威力は吸収することが出来ても、猛毒は吸収出来ない。正確には、有毒のまま取り込んでしまう。『森林』は、有毒な成分を無毒にする作用は、無かったのだ。

 

「これで充分だわ。お仲間さんが来ているようだし、私はここで退かせてもらうわね」

 

それだけ言い残して、リーフは去っていった。彼女が逃げていく背中に向かって手を伸ばしたが、その手はバタリと地面に落ちた。

 

(…クソ…)

 

心の中で悔しそうに呟きながら、黎人は意識を失った。

 

 

 

「へ…?」

 

 

 

その様子を見て、霊夢は情けないような声を出した。何が起きたか、というのは分かるが、その内容が信じられなかったのだ。

 

「うそ…でしょ?」

 

さっきまでの流れを見れば、明らかに分かることが唯一つだけある。

 

 

 

 

「黎人…?」

 

 

 

 

 

黎人が…1時間も持たない内に死んでしまうのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イヤァァァァァァァ!!!」

 

 

 




猛毒を食らってしまった黎人、この後どうなってしまうのか!?

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