ぼっちではありません、エリートです。   作:サンダーボルト

3 / 33
残念ながら……まだ奉仕部には入りません。


こうしてエリートは凡人教師に目を付けられる

『高校生活を振り返って』

 

 

私はこの一年間、実に充実した高校生活を送れました。先生方はとても優しく勉強を教えて下さり、クラスメイトの皆さんとも和気藹々と過ごしていました。そのおかげで日々の生活にも活力が湧き、勉学に励んだ結果、学年総合一位を一年間キープすることができました。それもこれも私と仲良くしてくださった皆さんのおかげです。

 

今後もこの結果に満足することなく、より一層尽力していきたいと思います。そしてこの総武高校で送る高校生活を、もっと充実したものへと変化させていこうと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とか書いてみましたけど嘘ですから。実際、学年一位をキープした理由は私の実力以外の何物でもありません。クラスの凡人の皆さんは何も関係ありません。和気藹々とも過ごしてませんから。むしろ除け者でしたから。

 

それに学年一位になったからって良い事なんてありません。あったことといえば、いわれの無い妬みや恨みをいつの間にかお買い上げしてしまい、執拗に嫌がらせを受けた事ぐらいです。具体的には、○○さんに筆記用具を隠されたり、△△さんからどつかれたり、□□さんに変な噂流されたり……きりがないので全部は書きませんが。まあ、エリートですからこれくらいどうってことはないんですがね。担任の先生にも相談してみましたが、忙しいようで何もしてくれなかったので自分で解決しました。おおよそ二ヶ月程費やしましたが、ゴミ掃除にしては早く終わったと思います。

 

この一年間を振り返ってみて分かった事は、ここには凡人しかいないという事。偏差値が高いので私と同じエリートがいてもおかしくないと予想していましたが、悪い意味で裏切られましたね。これなら偏差値がここより低くても、信女さんと同じ高校にしておけば良かったと誠に後悔しております。何故なら、私がいくらこの学校の為に意識改革を行おうと、凡人には到底理解できないでしょうし、そもそも実行すらできないでしょうから。

 

 

結論、エリートの持ち腐れですね。

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

「……なあ比企谷、私が出した課題は何だったかな?」

 

「おや、ド忘れですか?高校生活を振り返って、というテーマで作文を書けと先日仰ったではありませんか」

 

「ちゃんと覚えているようだな。で?この舐めた作文はどういうつもりだ?」

 

 

職員室で作文を読み上げた後、睨みを利かせる国語教師の平塚静(独身)。そして立ったままの姿勢で受け答えをする比企谷八幡(エリート)。国語の課題である作文に問題があったとして、平塚静が八幡を呼び出したのである。

 

 

「舐めているとはとんでもない。ただの事実と、私自身の考えを正直に書いただけです」

 

「それがどうして、嘘と密告文と全校生徒を見下した文章になるんだ?」

 

「失礼ですが、密告ではありません。既に私刑を下してますから、この場合は事後報告というのが正しい表現です」

 

「小僧、屁理屈を言うな」

 

「小僧……まあ確かに平塚先生の年齢からすれば妥当な表現……」

 

 

平塚静の拳が八幡の顔のすぐ横を捉えた。ヒュッ、という風を切る音が聞こえる距離にもかかわらず、八幡は掠めた拳を見るどころか表情すら変えなかった。

 

 

「……次は当てるぞ」

 

「でしたら次は避けます。エリートですから」

 

 

突き出した拳を戻しながら平塚静は内心、八幡の確固とした立ち振るまいに驚愕していた。今のは当てる気が無かったと分かっていたから、微動だにしなかったというのか?

 

平塚静はポケットから煙草を取り出すと、火をつけて深く吸い、白い煙をゆっくり吐き出した。

 

 

「確か、君は部活には入ってなかったよな?」

 

「ええ。凡人の皆さんが必死で取り組んでいる事を容易くやり遂げてしまっては反感を買いますから」

 

「その不快極まりない言い回しはどうにかならないのか…。その口の悪さに加えて腐った魚のような目……友達とか、いるのか?」

 

「いますよ。メル友なら百人以上登録してあります。ほら」

 

「ははは、嘘ならもう少しマシなものを……って多いな!?」

 

 

静は八幡には友達はいないだろうと予想していたが、八幡の携帯電話の電話帳に登録された人数を見て度肝を抜いた。

 

こまっちゃん、ノブたす、銀たん、トシちゃん、総ちゃん、みっちゃん、さっちゃん、ツッキー、新ちゃん、とっつぁん、かぐりん、ヅラ、晋ちゃん、むっちゃん、かむりん、タカチン、たまたま、マダオ、あぶさん、妙たん、九ちゃん、ぴららん、くりりん、辰っちゃんetc…。

 

人数もそうだが、普段の言動からは想像できない砕けた名前で登録してある事が信じられず、平塚静は頭を抱えた。

 

 

「……その、彼女とかはいるのか?」

 

「未来の嫁ならいますが」

 

「嫁ぇ!?」

 

 

勢いよく立ち上がり、八幡に詰め寄る静。相変わらず八幡の表情に動きは無い。自分だけが騒いでいるのに若干気恥ずかしさを感じた静は、咳払いを一回して気を取り直し、八幡に告げる。

 

 

「――――よし、こうしよう。レポートは書き直しだ」

 

「はあ…まあ構いません」

 

「だが、君の心ない言葉と態度が私の心を傷つけたのは事実だ。女性に年齢の話をするなと教わらなかったのか?」

 

「それは申し訳ありません。凡人の心の脆さを考えて発言するべきでした」

 

「……まあ、いい。罪には罰を与えないとな」

 

「分かりました。今、弁護士を呼びますので慰謝料はそちらと話し合って決めて下さい」

 

「いや違う違う違う!!奉仕活動だ!君には罰として奉仕活動をしてもらうから携帯から手を放せ!!」

 

 

携帯電話で弁護士を呼ぼうとした八幡を静は慌てて止める。

 

 

「まったく…普通、高校生が弁護士を呼ぼうとするか…?」

 

「エリートにとっては当たり前のことです。何度もお世話になりましたし……おっとすいません。凡人の平塚先生には縁もゆかりもない話でしたね」

 

「……君はまた……はあ。まあいい、取りあえず着いてきたまえ!」

 

 

無駄に男前な雰囲気を醸し出しながら、静は八幡を連れて職員室を出ていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「平塚先生、折角ですからメル友になりましょう。アドレス、しずちゃんで登録しておきます」

 

「君は教師相手に……っておい!それ私の携帯!?いつの間に取った!?」

 

「寂しかったらいつでもメールしてきていいですよ」

 

「大きなお世話だ!!」




アドレスが誰の事を表しているか、全部分かる人はいるのでしょうか?結構ワンパターンなあだ名になってしまいましたが…。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。