ぼっちではありません、エリートです。   作:サンダーボルト

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たった一話でお気に入り30件に評価までついてる……俺ガイルと銀魂の人気すげぇ…。


エリートは犬を助ける時もエリート

朝早く、人通りが疎らな道を八幡と信女は並んで歩く。しかし世間一般のカップルのような甘々しい空気は二人の間には流れていなかった。

 

 

「……やっぱりこんなに早いと、他に人がいないね」

 

「エリートですから、凡人と同じ景色を眺めているだけじゃ駄目なんですよ」

 

「私は八幡と同じ景色を見ていたい」

 

「プロポーズですか?すいませんが成人するまで結婚はしません」

 

 

八幡のドライな反応が気に食わなかったのか、信女の頬がドーナツを口に含んだ時のように膨らむ。だがそれはすぐに元に戻った。何かを見つけた信女が指を車道に向けて指し示す。

 

 

「……八幡、犬が…」

 

「犬?……いますね。あれはミニチュアダックスフントですね。首輪にリードが付いている所を見ると、誰かの飼い犬でしょうか」

 

「あんなところにいたら危ない。いつ車が通るか……っ!」

 

 

信女が指差したのは誰かの飼い犬であろうミニチュアダックスフント。車道に飛び出していったのを信女は心配そうに見ていたが、図らずもその心配は現実のものとなってしまった。

 

八幡と信女が歩いて来た方向の反対から、黒いリムジンが走ってきた。恐らく運転手は犬の姿を捉えているだろうが、それなりにスピードを出していたためにブレーキを踏んでも間に合わない。犬は足がすくんでしまったのか、その場に伏せてしまい動かなかった。

 

犬を助けようと駆け出した信女の横を、更に早い人影が追い越す。ガードレールを軽く飛び越え、犬の首根っこを掴んで待ち上げた八幡は、スピードを落としきれずに突進してくるリムジンに向けて飛び上がり、ボンネットを踏み台にして更にジャンプ。宙返りを披露して綺麗に着地した。

 

 

「八幡っ!!」

 

「どうも、信女さん。この通り怪我はありません。犬も私も」

 

「……良かった」

 

 

八幡は助け出した犬を信女に渡し、後ろで停止したリムジンに向かって歩いていく。運転席の窓をコンコンと叩くと、窓が開いて運転手が顔を出した。

 

 

「申し訳ありません、いくらエリートといえどもあれ以外に事故を避ける手段はありませんでした。ボンネットが少々へこんでしまっているようなので、後日弁償させていただきます」

 

「あ、いえ…こちらの不注意ですからお気になさらずに…。そちらこそ、どこか怪我はありませんでしたか?」

 

「ええ、問題ありません。低い車体で助かりました」

 

「は、はあ…」

 

「……おや、どうやらあの犬の飼い主が来たようですね。それでは、これで失礼させていただきます。今回の事は、お互いに不幸だったということで、くれぐれもご内密に…」

 

 

八幡は会釈をすると、踵を返して信女の元へ向かった。しかし彼女の周りの空気が悪い。どうやら飼い主が犬のリードを手放した事を責めているようだった。

 

 

「あなたのせいでこの子が死ぬかもしれなかった。どうしてリードを放したりしたの?」

 

「それは……えと…サブレがいきなり走り出したから…」

 

「それはあなたがちゃんと躾けてなかったから。犬のせいにしないで。飼い犬も満足に躾けられないようならペットなんて飼わないで。無責任だから」

 

「……っ」

 

 

辛辣な言葉に飼い主の少女は俯く。

 

 

「落ち着いて下さい信女さん。凡人にそこまで求めるのは酷というものです」

 

「凡人の考えなしの行動のせいで、この子が危険な目に遭うのはまちがっている」

 

「ええ、その通りです。そこでどうでしょう、このワンちゃんを私達に譲りませんか?どうやら凡人のあなたには手に余るようですので」

 

「……え?」

 

 

予想だにしない八幡の提案に、飼い主の少女は固まってしまった。

 

 

「ご安心を。家には猫がいますので、動物の扱いは慣れています。このワンちゃんも、凡人に飼われるより我々エリートに飼われるほうが…」

 

「だ、駄目っ!!」

 

 

少女は信女が抱えていた犬を無理矢理ひったくった。その後にハッとしておずおずと後ずさる。

 

 

「えっと、サブレを助けてくれたのはありがとうございます…。で、でもサブレはうちの家族だから…」

 

 

そう言うと、少女は怯えた様に犬をギュッと抱きしめる。八幡はその様子をじっと見た後、口を開いた。

 

 

「そうですか、出過ぎた真似をしてしまい申し訳ありません。しかしそう仰ったからには、これからは飼い主として責任を持った行動をしていただかないと困ります。たとえまた同じような出来事が起きて、偶然にも私達がその場に居合わせたとしても、私達は一切介入しないのでそのつもりでいてください。今回、あなたのワンちゃんが助かったのは、凡人にとって一生に一度あるか無いかの幸運だったということを忘れずに」

 

「……はい…」

 

「よろしい。では信女さん、行きましょうか」

 

「うん。ばいばい、サブレ」

 

 

言いたいことを言い終わった八幡は、サブレに無表情で手を振る信女を待ったのち、再び学校へ向けて歩き出した。

 

 

その後、信女が総武校の生徒でないにもかかわらずに一緒に入ろうとした事や、

 

朝助けた犬の飼い主が総武校にいた事や、

 

携帯をいじくってばかりで一年間友達ができなかった事は、

 

エリートにとっては些事なので語られる事は無いだろう…。

 




次話で八幡は二年生になります。閑話なんて無いです。エリートの物語ですから。

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