ぼっちではありません、エリートです。   作:サンダーボルト

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さきさき編では、エリートっぽさが十分に発揮されてればいいなぁ…。


襤褸切れドレスのシンデレラ(前編)

「……偶然ですね小町さん。それでそこの男は誰なのでしょうか?返答によっては私が前科者になってしまうかもしれません」

 

「ちょいちょいちょい!何しようとしてるのか知らないけど落ち着いて!ただ話を聞いてあげてただけだから!」

 

 

瞳に殺気を漲らせながらゆらゆらと歩く八幡の前で、小町が通せんぼをしながらなだめる。小町に庇われた男は八幡の目を見て少し怯えながらも、おずおずと頭を下げて自己紹介を始めた。

 

 

「は、初めまして、川崎太志っす。比企谷さんとは同じ塾なんすけど、ちょっと相談させてもらってて…」

 

「相談って何です?来月までに返すから五万円貸してとかですか?そんな事この兄の目が腐っているうちは許しませんよ」

 

「それって一生許してもらえないってことじゃん…。ていうか、こうなったらお兄ちゃんも話聞いてあげてよ。ほら、奉仕部って部活やってるんだしさ」

 

「お願いします、お兄さん!もうお兄さんしか頼れる人がいなくて…」

 

「あなたに兄と呼ばれる筋合いは…」

 

「まあまあ、八幡落ち着いて。とりあえず話を聞いてあげようよ。小町とそこの君も座って?」

 

「信女さーん!」

 

 

兄と呼ばれて殺気が増した八幡を信女がなだめ、小町が名前を呼びながら信女に抱き着いた。ソファに座りなおした面々は自己紹介を開始する。

 

 

「やー、どうもー。比企谷小町です。兄がいつもお世話になっております!」

 

「八幡の妹さん?初めまして、クラスメイトの戸塚彩加です」

 

「あ、同じくクラスメイトの由比ヶ浜結衣です」

 

「雪ノ下雪乃です。比企谷君の……比企谷君の何かしら……クラスメイトでも友達でもないし……誠に遺憾ながら、知り合い?」

 

「エリート捕まえて遺憾とはね。むしろ居る事に感謝してほしいんですが」

 

「やー、エリートエリートうるさいと思いますが、仲良くしていただけるとありがたいです」

 

「安心していいわ……ええと、小町さんと呼ばせてもらっても構わないかしら」

 

「あ、はい。同じ比企谷ですからややこしいですよねー。皆さんも小町と呼んでください!」

 

「ありがとう。では小町さん、安心してもらっていいわ。比企谷君の更生は私が請け負っているから」

 

「おー、それは頼もしいですね!良かったねお兄ちゃん、こんな綺麗な人にかまってもらえて!」

 

「ここではい、と答えたら未来の嫁に斬り殺されてしまうんですが…」

 

 

慈愛に満ちた笑みを浮かべる雪乃を見てテンションを上げる小町だが、キラーパスを受けた八幡のテンションは逆に下がっていった…。

 

と、ここで置いてけぼりをくらっていた太志が声を発した。

 

 

「あ、あの…俺はどうすればいいっすかね?」

 

「……ああ失礼、君の存在を失念していました。それで、相談とはなんでしょうか」

 

「はい、あの、比企谷さんと同じ塾に通ってる川崎太志っす。相談っていうのは、最近、姉ちゃんが不良になったっていうか……あっ、姉ちゃんは皆さんと同じ総武高の二年で、川崎沙希っていうんすけど…」

 

 

太志の姉を名前を聞いて、何かを思い出したように結衣が手をポンと叩く。

 

 

「あー、川崎さんでしょ?ポニテの、ちょっと怖い系っていうか…」

 

「偶然にも同じクラスでしたか。話したことはありますか?」

 

「んー、あるけど……あんまし仲良くはない、かな」

 

「僕も無いなあ……というか、川崎さんが誰かと仲良くしてる所、見たこと無いような…」

 

「ふむ、戸塚君もそうでしたか…」

 

 

結衣が遠慮がちに言い、彩加が顎に手を当てて川崎沙希の記憶を探しだす。八幡も同じく沙希についての情報を思い出すが、答えは彩加と同じものであった。

 

 

「あ、でも最近遅刻が多くなったよね。今日もそれで呼ばれてたし」

 

「そういえばそうだね。不良っていうのかどうかわからないけど…」

 

「遅刻くらい誰でも……と言いたいところですが、確かに回数が重なっていますね」

 

 

遅刻が多い、という新しい情報が出され、雪乃は少し思案してから太志に話しかけた。

 

 

「お姉さんが不良化したのはいつぐらいからかしら?」

 

「は、はいっ!えっと、姉ちゃん、総武高行くぐらいだから中学の時はすげぇ真面目だったんす。それに割と優しかったし、よく飯とか作ってくれたんす。高一ん時もそんなに変わんなくて……。変わったのは最近なんすよ…」

 

 

年上で美人の雪乃に聞かれて緊張した面持ちの太志だったが、話すにつれて姉への心配が募って表情が曇っていく。

 

 

「変わったのは二年生になってから……何か思い当たることはある?」

 

「無難なところでクラス替えじゃない?F組になってから」

 

「つまり、比企谷君と同じクラスになってからということね」

 

「さっき川崎さんは誰とも仲良くしてないって言ってましたよね。私は原因ではないと思いますが。一緒のクラスにいるだけでおかしくなるとか、病原菌じゃあるまいし…」

 

「あなたが原因なんて言っていないわ。被害妄想が過ぎるわよ、比企谷菌」

 

「懐かしいですね、それ。小学生の頃に鬼ごっこと同じノリで周りがやってましたよ。比企谷菌ってバリア効かないんですって。バリア貫通持ちなんてあらゆるゲームで重宝されますよね」

 

「そんなゲーム誰も買わないわよ…」

 

 

小学校の頃の黒歴史とも言える事を平然と言う八幡。あまりにもポジティブな言い草に雪乃は呆れた表情を浮かべる。

 

 

「でもさ、帰りが遅いっていっても何時くらいなん?あたしも割と遅かったりするし、高校生ならおかしくないんじゃないかな?」

 

「はぁ、まあそうなんすけど……でも五時過ぎとかなんすよ…」

 

「遅っ!それもう朝になってんじゃん!そんなんじゃ遅刻もするよ…」

 

「そ、そんな時間に帰ってきて、ご両親は何も言わないの?」

 

「うちの両親って共働きなんすよ。それに下に弟と妹いるから、あんま姉ちゃんには口うるさく言わないんす。それに時間も時間なんで滅多に顔合わせないし…。まあ、子供も多いんで結構暮らし的にいっぱいいっぱいなんすよね」

 

「君は話していないんですか?」

 

「たまに顔合わせてもなんか喧嘩になっちゃいますし、俺がなんか言っても、あんたには関係ない、ってキレるし…」

 

「……成程」

 

 

深刻そうに肩を落とす太志。八幡は腕を組んで天井を仰ぎ見ながら思案を始めた。

 

 

「(人との交流がないのなら、誰かに悪い影響を受けて不良化したとは考えにくい。家族である太志君の証言通りの性格なら、自ら悪い道に堕ちたとは考えられない。少なくとも心の底から悪くなってはないのでしょう。優しい姉があんたには関係ないって言ったなら、家族を巻き込みたくないか、十中八九その人に関係ある事か……だとすれば……)」

 

「家庭の事情、ね…。どこの家にもあるものね」

 

「……雪ノ下さん?」

 

 

思案に耽っていた八幡を現実に呼び戻したのは、雪乃のいつにない暗い声音だった。その顔はともすれば、今にも泣きだしそうな程に陰鬱なものだった。俯いたせいか、太陽を雲が隠したせいか、八幡が名前を呼んだタイミングで雪乃の顔に影がかかり、表情を詳しく見る事は叶わない。しかし、力なく肩を落とした様子から、短い溜息が漏れた事は想像がついた。

 

 

「何かしら?」

 

「……ああ、いえ、なんでも…」

 

「そう…」

 

 

顔を上げた雪乃の表情はいつもと変わりなかった。あの一瞬、雪乃の表情に影が差した事を頭の片隅に押しとどめ、再び太志達の話に耳を傾けた。

 

 

「それに、最近、なんか変なところから姉ちゃん宛てに電話がかかってくるんすよ…。エンジェルなんとかっていう、多分お店なんすけど……店長って奴から」

 

「……何か変なの?」

 

「だ、だって、エンジェルっすよ!?もう絶対やばい店っすよ!」

 

「え、全然そんな感じしないけど…」

 

「いやいや、私には分かりますよ、川崎太志君の気持ち」

 

「太志。男の子なら当然だよね、そう思うのは」

 

「い、今井さん!お兄さんっ!」

 

「できれば兄と呼ばないで欲しいんですがね。ついうっかり撃っちゃいそうなので」

 

 

エンジェルという単語に過剰に反応する太志を理解できない結衣。しかし、八幡と信女はその単語にほのかに漂うエロティシズムを理解して肯定する。信女に至ってはサムズアップをする始末である。

 

 

「とにかく、どこかで働いているのならまずはそこの特定が必要ね。学生が朝方まで働いているのはまずいわ。早く突き止めてやめさせないと」

 

「事はそう簡単ではないと思いますがね」

 

「うん…ただやめさせるだけだと、今度は違う店で働き始めるかもしれないし…」

 

「ハブとマングースですね」

 

「……それは、いたちごっこと言いたいのかしら」

 

「小町さん、馬鹿が露呈するから多人数が集まっている中で不用意に発言するなと言っているでしょう?それにハブとマングースは天敵でも何でもないです。出会ったところでまず戦いません」

 

 

見当はずれの事を言った小町の言葉を雪乃が訂正し、八幡が口を開くなと釘を刺す。しかし当の本人は八幡に向けて舌をペロッと出して誤魔化していた。

 

 

「つまり川崎さんに対して、対処療法と根本治療を同時にやる必要があるということね」

 

「……ちょっと待ってください。相談された私はともかく、何故あなた方が参加するんですか?」

 

「いいじゃない。川崎太志君は本校の生徒の川崎沙希さんの弟なのだし、ましてや相談内容は彼女自身の事よ。奉仕部の仕事の範疇だと私は思うけれど」

 

「そうだよ。川崎さんとは仲良くはないけど、もう色々聞いちゃったし、見て見ぬふりなんてできないよ」

 

「僕は、奉仕部じゃないけど……でも何か力になれるかもしれないし、お邪魔じゃないなら付き合いたい、な…」

 

「私だってきっと力になれる。仲間外れはいや」

 

「みんなでやろうよ。ね、お兄ちゃん?」

 

 

矢継ぎ早に繰り出された言葉の波に、さしもの八幡も返す言葉が見当たらず、静かに首を縦に振った。

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

翌日、奉仕部に集まった四人は早速作戦会議を始める。信女がエンジェルと名の付く市内の店の情報を調べている間、奉仕部は沙希自身に問題を解決させるように動くことになった。ちなみに肝心の沙希は今朝も遅刻をし、遅刻指導で静に呼び出されてお説教をされているためまだ学校にいる。

 

 

「それで、具体案は何かあるのでしょうか」

 

「アニマルセラピーって知ってる?」

 

「あー、動物と触れ合ってストレス解消!みたいなやつ?」

 

「ええ。それで誰か猫を飼っている人はいないかしら?」

 

「えっと…僕は飼ってないなぁ…」

 

「うち、犬ならいるけど…」

 

「できれば猫の方が好ましいわ」

 

「その方面は詳しくないので分からないのですが、何か猫の方がいい理由でもあるんですか?」

 

「特に無いけれど……とにかく犬は駄目なのよ」

 

 

ふいっと視線を逸らした雪乃を怪しんだ八幡だが、特に追及することなく放っておいた。

 

 

「なら、うちの猫でも持ってこさせますかね。今の時間なら小町さんも家にいるでしょうし」

 

「ええ、お願いできる?」

 

「まあ、大丈夫でしょう」

 

 

小町に電話をかけてから二十分ほど校門で待つと、小町がカマクラを入れたキャリーケースを片手に持って颯爽と現れた。

 

 

「ごめんなさいね、わざわざ来てもらって」

 

「いえいえー、雪乃さんの頼みとあらばこれくらい!」

 

 

キャリーケースの上部を開け、中にいるふてぶてしい顔の猫、カマクラを抱えて小町が笑う。雪乃の立てた算段は、このカマクラを段ボール箱に入れて沙希の前に置いておき、その反応を窺うというものだ。もしも沙希の心が動かされたならば、きっと拾うと予想したらしい。雪乃が司令塔、彩加と結衣が見張り、小町が連絡役、八幡が段ボール箱を沙希の前に置く係と役割を分けて待機する。

 

校門近くで待機していた、段ボール箱に入ったカマクラの近くにある人影が近づいてくる。他でもない、雪ノ下雪乃である。雪乃はきょろきょろと周りを見渡し、誰もいない事を確認するとしゃがみこんでカマクラに目線を合わせる。

 

 

「ニャー」

 

 

カマクラが鳴き声を上げる。雪乃は少し頬を赤く染めると、

 

 

「にゃー」

 

 

と鳴き返した。

 

 

「ニャー」

 

「にゃー」

 

 

今度は同時に鳴く。

 

 

「ニャー」

 

「にゃー」

 

「はい、にゃーご」

 

 

カシャッ、というカメラのシャッター音がしたとともに、雪乃が勢いよく振り返る。そこにはいつものように携帯をいじっている八幡がいた。

 

 

「うちの猫、そんなに気に入りましたか?飼い主として鼻が高いですね」

 

「比企谷君、盗撮で訴えられたくないなら今すぐ撮ったものを消しなさい」

 

「別に猫が好きなのなんて恥ずかしい事でもないでしょうに…」

 

 

怒りか羞恥か、顔を赤くしながらもその声はいつも以上に冷たかった。八幡はピッピッピッとボタン操作をすると、携帯をたたんでポケットに戻した。

 

 

「そもそも、あなたには待機命令を出したはずだけれど、そんな簡単なこと一つ…」

 

「ああ、そのことですけど、太志君情報で川崎沙希さんは猫アレルギーだそうです。だからそれを伝えに雪ノ下さんを探してたんです。どうせあなた、私のメールなんて見ないでしょうから」

 

 

八幡に向けた怒りの感情が一気に冷め、固まって棒立ちになる雪乃を後目に八幡は踵を返す。

 

 

「由比ヶ浜さん達にはもう伝えてますので、もう中止でいいですよね、この作戦。私は先に皆さんの元に戻ってますから、十分くらい戯れててもいいですよ」

 

 

返事も聞かずに立ち去った八幡。雪乃はカマクラの鳴き声で正気に戻り、たっぷり十五分戯れてから合流した。

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

雪乃がカマクラの入った段ボール箱を抱えて合流すると、結衣と小町が目を輝かせながら雪乃に熱い視線を送っていた。彩加の視線も心なしか優しい。

 

 

「……何?私の顔に何かついているの?」

 

「……こ、これ!ヒッキーから送られてきたの!」

 

 

興奮気味の結衣が携帯の画面を雪乃に向ける。

 

 

 

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From 八っちゃん

 

Sub 激写

 

 

ゆきのんがうちのカーくんと一緒に鳴いてたお☆(=^・・^=)<にゃー

 

ギザかわゆす☆☆☆

 

もうゆきのんじゃなくてゆきにゃんだネ。登録名変えようかにゃー?

 

 

 

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八幡からのメールには当然、さっきの画像が添付されていた。雪乃はわなわなと震えて八幡を睨むが、感極まった結衣と小町が雪乃に抱き着いた。

 

 

「ゆきにゃあああああん!!!」

 

「ゆきにゃんさああああああん!!!」

 

「きゃっ!?」

 

 

カマクラも交えて揉みくちゃになる三人を見て、八幡はまた写メに撮ろうかと思ったが、彩加の諫めるような視線を受けてそっと携帯を閉じた。

 

しばらくして抱き着いた二人が満足して雪乃を解放し、小町が良い笑顔でカマクラを連れて帰っていった。次の方法を考えていると、彩加が恐る恐る手を挙げて発言する。

 

 

「あの、平塚先生に言ってもらうっていうのはどうかな?ご両親だと距離が近すぎるから言えないような事でも、他の大人になら相談できるんじゃないかなぁ?」

 

 

彩加の真っ当な提案に雪乃と結衣は納得する。しかし、八幡は同意しかねていた。

 

 

「方法はさておき、平塚先生は……」

 

「平塚先生は他の教師に比べて生徒への関心は非常に高いと思うわ。人選としてはこれ以上ないんじゃなかしら」

 

「まあ、それはそうなんですけどねェ。あの人、たまに授業でも結婚できない事とか、未だに独身なの嘆くくらいですから…」

 

「結局、何が言いたいの?」

 

「端的に言えば、舐められてるのではないかと」

 

「…………」

 

 

親しみがあると言えば聞こえはいいが、裏を返せば教師としての威厳が無いともとれる。心当たりが無いとも言い切れないのか、雪乃だけでなく結衣と彩加も黙ってしまった。

 

 

「……ま、一応連絡しておきますよ」

 

「……お願いするわ」

 

 

不安な空気の中とりあえず昇降口に静を呼び出して状況を説明すると、不敵に笑って八幡の肩を叩く。

 

 

「我が校の生徒が深夜まで働いているのならゆゆしき事態だ。今回に限っては私が解決しよう。なあに、君達は見ていたまえ。来る直前に川崎は解放しておいたから、あと二分ほどでここにくるだろう」

 

 

静の宣言通り、沙希は気怠そうな足取りで欠伸を漏らしながら昇降口に現れた。八幡達が隠れて様子を窺う中、静は沙希に声をかける。

 

 

「川崎、待ちたまえ」

 

「……何か用ですか?」

 

 

呼び止められ、振り返った沙希の目は半目に細められていて、まるで睨んでいるような印象を受ける。声も妙に刺々しく、まるで威嚇されているみたいだった。

 

 

「君は最近家に帰るのが遅いらしいな。一体、どこで何をしているんだ?」

 

「それ、誰から聞いたんですか?」

 

「クライアントの情報は明かせないな。それよりも質問に答えたまえ」

 

 

余裕の笑みを崩さない静に対し、沙希は気怠そうにため息を吐いて言葉を返した。

 

 

「別に、どこでもいいじゃないですか。誰かに迷惑かけたわけじゃないし」

 

「これからかけるかもしれないだろう。君は仮にも高校生なんだぞ?補導でもされたら、ご両親も私も警察から呼ばれることになる。君は親の気持ちを考えたことが無いのか?」

 

「……先生」

 

 

真剣な面差しで沙希を真っすぐと見て言葉をぶつける。沙希はその剣幕に一瞬たじろぎ、そして同じく静を真っすぐと見つめた。

 

 

「親の気持ちなんて知らない。ていうか、先生も親になったことないからわかんないでしょ?そういうの、結婚して親になってから言えば?」

 

「ぐはぁっ!」

 

 

沙希の言葉は静に悪い意味で届いたようだ。精神ダメージを受けた静はバランスを崩してよろめいた。そこに沙希の追撃が襲う。

 

 

「あたしの将来の心配より自分の将来の心配した方がいいって、結婚とか」

 

「……ぐっ、くぅぅ……」

 

 

静は瞳をうるわせて返す言葉も出ず、精神ダメージで膝をやられてその場に崩れ落ちた。なまじ敵を倒すためだけの言葉ではなく、本気で何割か心配されているのも効いたようだ。沙希はさっさと駐輪場に消えていき、その場にはすすり泣く静が残された。

 

 

「先生可哀想…」

 

「……比企谷君」

 

「我々は何も見ていません。そう、結婚していないせいで教え子にズタボロにされた先生なんていませんでした。そういう事にしておきましょう。それがお互いのためです」

 

 

雪乃に何とかしろと背中を押されたが、エリートでもどうにもできないので無かったことにした。

 

 

「そんな事よりたった今、信女さんからメール来ましたよ。どうやら千葉市内で名前にエンジェルと付くバイトを募集している店は二ヶ所あるようです。一ヶ所は『メイドカフェ・えんじぇるている』というメイド喫茶。もう一ヶ所は『エンジェル・ラダー 天使の階』というロイヤルホテルの最上階のラウンジバーです」

 

「そう…なら、そのどちらかでバイトしている可能性があるわけね」

 

「ええ。恐らくはラウンジバーの方でしょうが」

 

「え?なんで?」

 

「同じ時間帯でも、バーの方がバイト代が良いんですよ。こんな無茶な稼ぎ方するほどお金が欲しいようですから、少しでもバイト代が多く出る方を選ぶはずです」

 

「そっか…」

 

「なら、一旦家に戻って着替えた後にホテルで落ち合いましょう。こういう場所は大人しめな格好でないと入れないわよ」

 

「ゆ、ゆきのん……あたし、そういう服持ってないかも…」

 

「ぼ、僕もあるかどうか…」

 

「……それなら、由比ヶ浜さんには私の服を貸してあげるから一緒に来て。戸塚君は悪いけれど、家に無かったら諦めて頂戴」

 

「わ、分かった…」

 

「ゆきのんの家に行けるんだ……ちょっと楽しみかも」

 

「じゃ、ホテル・ロイヤルオークラで合流ということで」

 

 

傷を受けた静が駐車場に消えたのを知らぬまま、八幡達は着替えに一旦家へと戻った…。




色々と省略しましたが、問題はきっちり解決しますよ。

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