特型駆逐艦、綾波(偽)と申します。   作:刹那・F・セイエイ

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<(゜∀。)


俺、会敵します。

 俺と暁が、菊月と長月の捜索のために前線基地を出てから早数十分。俺たちは、何も起きない海上をただひたすら航行しており、互いの間には会話もない。俺としては、何かしら話題が欲しいところだが、当の暁が口を開く気がないのか、話題のない寂しい時間が続く。なんか話題欲しいなぁ、けど、何話せばいいのかなぁ。流行りの映画とか、人気のアーティストとか、そういうのでもいいから話したいなぁ。すると、俺の視線に気づいたのか、暁が口を開く。

 

「何?何か話したいの?まぁ、退屈なのは確かね……って、さっきからその右手にグリップしてる拳銃みたいなのって何?もしかして、新しい艤装?」

「ああ、これか?こいつはブレイクガンナーって言ってな、こいつを使って変身することができるんだ。やってみるか?」

 

 「ほれ」と無造作に投げ渡し、暁が慌ててキャッチする。別に、慌ててキャッチせずとも、落としたところで沈むことはないから安心していいのだが……その辺は妖精さんの技術力で何とかカバーできてるし。そんなことを知ってか知らずか、暁は手元にあるブレイクガンナーを眺めてどうやって変身するのかと頭を悩ませている。そういえば、変身方法を言ってなかったな。説明もなしに理解できるはずもないか……

 

「これ、どうやったら変身できるの?何か、別なアイテムが必要なの?」

「ブレイクガンナーの銃口を掌に押し当てて離す、たった2ステップだ、簡単だろ?」

 

 「ええ、そ、そうね……」とどこか拍子抜けした表情でブレイクガンナーの銃口を掌に押し当て、そして離す。すると、《break up》の音声とともに敵怪人に似つかわしくないBGMがその場を満たす。見た目からは何も変化は見られないが、おそらくは内面に大きな変化がみられるのだろう。どのあたりが変わったのか気になり、そこを確認しようと暁に近づいた次の瞬間、周囲に無数の水柱が立ち、足止めを食らう。

 

「砲撃!?けど、挨拶代わりに味方に艦砲を撃つような常識外れはいないはずよ」

「つまり……会敵したってことか。暁、砲雷撃戦用意、とっとと片付けて菊月と長月を探しに行くぞ」

「こんなところで時間食ってる暇はないってのに……空気読みなさいよ!!誰かは知らないけど!!」

 

「フン、誰カト思エバ、木端駆逐艦フタリカ。コンナ雑魚デハ肩慣ラシニモナランガ、我ガスコアノ一ツニ加エテヤル、アリガタク思エ」

 

「嘘、嘘でしょ……あんなの、先輩たちの話の中でしか聞いたことないわよ……」

「戦艦レ級elite、イマイチ仲良くしようって気は見られないな。とっとと叩いて、続きやるぞ」

 

「フン、コノ僕ヲ倒ソウナド片腹……痛ッ!!ナンダ!!」

 

「ライドチェイサー、来てくれたのか。暁、後ろ乗れ。あのレ級eliteにひとっ走り付き合ってもらうぞ」

「ええ、そうね。邪魔者には退場してもらわないと」

 

 「小癪ナ!!」とレ級eliteが吠え、砲撃を撃ち込んでくるが、もう遅い。こっちはバイク、水の抵抗を極限まで減らした素晴らしいマシンがある。悪く思わないでくれよ、こっちは急いでるんだ。まぁ、恨むんなら、こんなところで喧嘩吹っ掛けた過去の自分を恨むべきだな。ブレーキを握りながらアクセルを吹かし、エンジンに活を入れる。暁は左腕を俺の腰に回し、右手でブレイクガンナーを握りしめて攻撃態勢に移っている。これで戦う準備はできた。

 アクセルを全開にして空転を始めた後輪が水飛沫を上げ、どこか幻想的な姿を見せる。その幻想的な姿は、俺たちにとっては勝利を祝福する虹色の水幕(カーテン)、レ級eliteにとっては死を誘う水幕(オーロラ)。だが、こんな状況においても自分が死ぬと思っていないのか、レ級eliteは余裕綽々といった表情で見下してくる。一度でいいからさぁ、そのにやけスマイルを崩してみたかったんだよなぁ。その顔を、恐怖と絶望に染めてみたかったんだよなぁ。だからさぁ、暁よぉ。

 

()るぞ、アレ」

「無論、当然でしょ」

 

 俺はその応えを聞いた瞬間、握っていた前輪のブレーキを離して全速力で突っ走る。ブレーキを離した瞬間、ふわりと浮いた前輪に暁が小さく悲鳴を上げたのがかわいかったが、今はそれどころじゃない。あのレ級eliteに引導を渡してやるのが先だ。だが、あの崩さない嫌味なにやけスマイルがどうも気に食わない。いったい何を企んでる?何か隠し玉でもあるのか?そう考えていた次の瞬間、周囲の時間が急激に遅くなる。確か、これって……

 

重加速(どんより)か……だが、なんで深海棲艦がそんなモノを?」

「わからないわ、けど、どちらにせよあいつを倒さない限りどうにもならないのは確かね」

 

 「だろうな」と同意する俺の視界の隅で、駆けつけたのであろうテンリュウたちが重加速に巻き込まれて困惑している姿が見える。ご愁傷さまだな、テンリュウ。まぁ、ここまで来てもらった以上、手伝うものは手伝ってもらうが。とりあえず、そのためにはあのレ級eliteに退場してもらって……と攻撃しようとした瞬間、横合いからの砲撃で俺たちはライドチェイサーから振り落とされてしまう。テンリュウたちの砲撃なら、どんよりの影響下にあったからすぐにわかったはず。つまり、この砲撃は……

 

「すでに、稼働状態にあるロイミュードがいるってわけか。厄介なことになったな……」

「ロイミュード?もしかして、あの川内さんのこと?このどんよりって空間の中で動ける以上、たぶん間違いないと思う」

 

 俺たちの驚きをよそに、その川内を模したロイミュードと思われる存在は、レ級eliteを手早く始末し、その体内から出てきた数字のない銀色の物体――おそらく、ロイミュードのコア――を回収して手早く離脱する。手際がいいな、あのスマートな動き、まさに忍者と呼ぶにふさわしいだろう。今見た限りでは、チェイスとメディックの役割を足して2で割ったかのような印象を受ける。まぁ、今後会うこともないだろうからどうでもいいんだけど。

 

「とりあえず、脅威は去ったみたいね。菊月と長月の捜索に戻りましょ」

「普通の深海棲艦と会敵する可能性を忘れるなよ」

 

 俺はそう暁に忠告し、テンリュウたちを新たに加えて菊月と長月の捜索を再開する俺たち。道中、如月に頼まれたほうではなかったが、菊月を保護することができた。だが、だいぶやせ細っているようだ。しばらくはうちで保護して、それから所属先の鎮守府に連れて行こう。だが、敵にロイミュードが現れるとは想定外だったな。

 

「これは、こっちも早急に対策を練らんといかんな……これは、敵のロイミュードを一体鹵獲するしかないのか?」




もうそろそろ演習させんとマズいか?話的に。

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