特型駆逐艦、綾波(偽)と申します。   作:刹那・F・セイエイ

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重雷装駆逐艦、綾波。


俺、深海棲艦と戦います。

「ふぁ……今日で五日目か。早いとこ、航行と砲雷撃を覚えたいんだがな……」

 

――会敵した際には、全力でサポートしますから安心してください――

 

 俺が綾波となってから今日で五日目、RPGも真っ青なイベントフラグ乱発の日常に辟易しながらも、なんだかんだ言ってそんな波乱万丈な日常を楽しんでいた。現在時刻は05:00、総員起こしの60分前だ。この島は日本より南に位置するためか、日の出がやたらと早い。そのため、必然的に朝食の時間も早まる。食材については、綾波だけで過ごすなら主食に関しては当分持つだろう。さて、今日の朝食はなんだろうか……

 そんなことを考えつつ、本来なら多数の艦娘で賑わうはずだった食堂へ入り、がらんどうとした室内に一抹の寂しさを覚える。だが、いないものはいないでしょうがないじゃないか。それに、ここには艦娘はいなくとも妖精さんたちがいる。寂しくなんかないはずだ。

 

「あさごはん、よういできたのです」

「きょうもいちにちがんばるのです」

「きょうはどんなおきゃくさんがくるですか?」

 

「いや、まだ誰かが来ると決まったわけじゃないだろう。もしかしたら、誰も来ないかもしれないし」

 

 そう、そもそも放棄された前線基地であるここへ誰かが来ること自体がおかしいのだ。昨日帰って行った加賀さん曰く「ここに前線基地があったことを知っているのはほんの一握りもいない」と言っていたため、よほどの物好きでもない限り、来ることはないだろう。とりあえず、朝食が終わったら次は航行と砲雷撃の訓練だ。

 14サンチ単装砲と五連装酸素魚雷発射管をすべて装備し、航行の訓練に入る。最初はゆっくりと、そして次第にスピードを速く。航行の訓練を始めてから二日、今のところ、安定して航行できる速力は20ノット前後だが、進歩としては格段に早いほうなのだろう。さて、次は砲雷撃の訓練に……と思ったところで、遠くから火薬と硝煙の匂いが潮風に乗って運ばれてくる。どうやら、近海で戦闘があるらしい。

 

――この近海で戦闘ですか、ぶっつけ本番になりますが、砲雷撃戦については実戦形式で覚えていきましょう――

 

 すると、事態を冷静に観察していた綾波が戦線に介入しようとでも言いたげな感じで行動を促そうとしてくる。どうやら、俺は初めての砲雷撃戦を行うことになるらしい。その前に、各武装をチェック。砲弾よし、機銃よし、魚雷よし。これでいつ会敵しても大丈夫だ。

 両足の制御権を綾波に譲渡し、戦闘のあるポイントまで急ぐ俺たち。おそらく、艦娘が深海棲艦に追われているのだろう。もしかすると、これから仲間になってくれるかもしれない未来の仲間を見捨てるのは、俺としても綾波としても寝覚めが悪い。多少綾波が傷物になる可能性はあるが、そこはこの際目を瞑ろう。

 

――見えました、戦艦ル級を中核とした機動艦隊です。周囲の駆逐艦や軽巡洋艦は雷撃でとっとと片付けてしまいましょう――

 

「はいはい、全砲門、撃て(Fire)!!」

 

 それは金剛さんのセリフです!!という綾波の突っ込みを無視し、俺は片舷50門にも及ぶ酸素魚雷の雨を敵艦隊に降らす。こちらにとって予想外だったことは、その開幕魚雷が圧倒的過ぎて旗艦の戦艦ル級を除いてそのすべてを片付けてしまったことか。魚雷のパワーってスゲー。

 その後、反攻に転じた軽巡洋艦三隻と駆逐艦三隻によって戦艦ル級もまた、あえなく撃沈させられる。状況終了、さぁ帰ろうとなったところで、艦娘の部隊に捕まってしまう。神通を筆頭に、川内、那珂、吹雪、夕立、睦月と続く。アニメ艦これの第三水雷戦隊か。よく見ると、全員艤装も服もボロボロとなっている。さぁ、どうしようか……

 

「危ないところを助けていただき、ありがとうございます。私は川内型軽巡洋艦二番艦、神通です」

「特型駆逐艦、綾波です」

「とりあえず、どこか休めるところないかな?みんな疲労もたまってて倒れそうなんだ」

「でしたら、私が住んでいるところへご案内しますよ」

 

 綾波の厚意に、神通はありがとうございます、と深々とお辞儀をして礼を述べる。今日のお客さんは第三水雷戦隊か、とりあえずお風呂を沸かしてもらおう。そう思った俺は、スマホでお風呂を沸かしてもらうことと昼食の準備を頼むこととした。




三水戦がボロボロだった理由:疲労困憊で敵襲に気がつかなかったから

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