特型駆逐艦、綾波(偽)と申します。   作:刹那・F・セイエイ

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昨日のやつ、今日の分は頑張る。


俺、様変わりした前線基地に戸惑います。

 春雨たちと昼食を待つ間、好意で置いていてくれたおやつをつまみつつ、現在の前線基地がどうなっているかで話に花が咲く。陽炎は畑が広がってると言い、不知火は防衛のための砲台(トーチカ)が並んでいると主張、夕立は漁業が盛んだと予想し、春雨は地下都市があると夢のあることを言っていた。綾波はどうなのだとその場にいた全員に聞かれ、行く前よりだいぶ大御所帯になっているのだろう、と返した。

 

「まぁ、何はともあれ、帰るの楽しみだね」

「もしかしたら、妹たちに会えるかもしれません」

「けど、みんな優しくしてくれるかなぁ?怖い人ばかりだったら、どうしよう……」

「心配しすぎよ、姉さん。きっとみんな優しくしてくれるって」

 

 陽炎と不知火はようやく帰れる家がどう変わっているかと期待に胸を膨らませ、夕立と春雨は新たな家となる前線基地に不安を募らせている。不安なのは致し方のないことだが、もう少しくらい期待してくれてもいいのではないだろうか。そうでなければ、せっかくこれから仲間になるというのに、ギスギスした空気で過ごさねばならなくなる。仲間をスカウトしたと思ったら、不穏分子を連れてきたなんて展開、真っ平ごめんだ。

 

「すみません、今まであの鎮守府から一歩も外へ出たことがなかったものですから……」

「うん、半ば監禁に近い感じで鎮守府の中にいたの」

 

 おいおい、正気か?仮にも、先の大戦の英雄たちの転生体なんだ、もっといい思いをさせてあげてもいいのではないか?仮にそうでないにしろ、人類に協力してくれているんだ、それなりに好待遇で迎えないと愛想を尽かされて協力してくれなくなる恐れもあるのだ。人類はそこをわかってなさすぎる、今は人間同士で揉めあっている場合ではないのだ、新たな協力者とともに、人類の新たな脅威を何とかするほうが先決ではないか?人間同士の争いごとは、そのあとでもいいはずだ。

 そんな頭の痛い問題ごとをひとり抱えつつ、俺たちは塩むすびを頬張る。なぜこれかというと、周囲を警戒している三水戦の全員にも同じものを配ったからだとは三笠さんの弁だ。つまり、戦闘糧食であるが、塩むすびだけではいささか物足りない。せめて、たくあんかおかずになりそうなものがひとつふたつあってもいいのではないかと思う。なにかないものか、と探していると、ぱかりと缶詰の開く音が聞こえてきたため、そちらを見てみると、春雨が牛缶の蓋を開けているのが見えた。

 

「戦闘糧食といえば、銀シャリとこれでしょう。あとたくあんがあればよかったんですが、贅沢は言っていられませんからね」

「銀シャリって……まぁ、戦闘糧食といえば、このラインナップだよな」

 

 これがゆで卵とレタスなら、ガダルカナル島飛行場攻撃の際の戦艦金剛のメニューになったのだろうが、卵なんてないので我慢するしかない。もっとも、その後も深海棲艦と会敵することはなかったので、取り越し苦労で済んだと本気で思っている。三水戦から前線基地が見えてきたと報告が入ったため、俺はさっそく基地が見える位置に向かう。さて、愛しの我が家はどうなって……って、なんじゃこりゃ。あっちこっち砲台とレーダーだらけじゃないか。不知火の予想が見事に的中していたようだ。帰ってきたのだ、まずはあの言葉でみんなに挨拶しよう。

 

「ただいま」




今回の話、書いてて腹が減ってきた。

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