特型駆逐艦、綾波(偽)と申します。   作:刹那・F・セイエイ

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帰るべき場所へ


俺、帰還します。

 どんちゃん騒ぎの転属お祝いパーティから一夜明け、鎮守府には元の静けさと緊張感が戻りつつあった。俺はそんな静かな鎮守府をフラフラと歩き、今後の方針をまとめる。まずは菊月と長月の捜索、これは確定だ。姉妹たちに頼まれたから、というのもあるが、交わした約束を違えるなど、特型駆逐艦の恥晒し。盟友との約束を平気で違えるような奴は、赤城の言葉を借りるなら「補助艦艇風情」でしかないのだろう。いや、もしかするとそれ以下かもしれない。

 

――あなたが何をしたいのかはよくわかります、ですが、無茶をするなら一言綾波に言ってください。その時は全力で付き合いましょう――

 

『――できれば、あまり無茶はしてほしくないんですがね。ですが、それで守りたいものを守れるというのなら、私も全力で付き合いましょう――』

 

「ありがとう、綾波、アヤナミ。俺としても、あまり無茶はしたくないが、その時が来たら、全力で付き合ってくれ」

 

 その頼みに、綾波たちは「わかってますよ」と苦笑しつつ応えてくれる。今日は前線基地に帰る日だが、どうやって帰ろうか。三笠さんは艤装を失い、海へ浮くことのできなくなった身。誰かが背負っていけば何とかなりそうではあるが、それでは体力が持たずに帰る途中で沈んでしまう。小さい輸送船でもチャーターできれば、三笠さんを安全に前線基地まで送れるのだが、そう簡単に船の一隻も借りれたら苦労はしないだろう。そんな俺の不安は長門秘書艦の一言であっさりと氷解する。

 

「輸送船?荷物扱いされるのが好きか?そもそも、送るのは荷物じゃないんだ。そう大きくはないが、クルーザーを借りることはできるぞ」

「そう大きくないって……そりゃあ超弩級戦艦の長門さんからしてみれば、軽巡洋艦クラスのクルーザーなんて、おもちゃみたいな大きさでしょうけど……」

 

 帰る足が手に入ったのはいいが、このビッグ7の天然ボケには少々笑わせられる。当人にその気はないのだろうが、やはり天然ボケをやらかすところがかわいい。これがギャップ萌え、というやつか。とりあえず、快適に変えるための足は手に入った。まずはそこを喜ぼう。とりあえず、朝ごはん食って、荷物積み込んで、俺たちの家へ帰るとしますか。ここに残るというのも一つの選択肢だが、俺の帰る場所はここではない、俺には俺の帰る家がある。

 とりあえず、サラッと朝食を済ませ、荷物をクルーザーに積んで、護衛の第三水雷戦隊とともに前線基地へと向かう。もともとが金持ちのボンボンが持っているような大型のクルーザーだったためか、居住性はそれなりによく、さらには俺たちを退屈させないための配慮か、食堂に当たる部屋には少ないながらもお菓子とジュースが置いてあった。これはありがたい、細やかな心配りに感謝したくなる。

 

「このおやつ、食べてもいいのかな?」

「たぶん、鎮守府側からのささやかな差し入れだろう。ありがたくいただこう」

「食べ過ぎて、お昼ごはん食べれなくなっても知らないからね」

 

 置いてあったおやつでワイワイ騒いでいると、後ろからややあきれた口調で三笠さんが釘を刺してくるため、「わかってますよ」とだけ返す。周辺の警戒は三水戦の面々に任せていいだろう、そう思った俺は、目の前にあるパウンドケーキを一つつまんだ。




知らぬ間に、前線基地が劇的ビフォーアフターしてたらどうしよう……

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