「綾波ちゃん、パーティーの準備ができたわ。来てくれる?」
「ああ、今行く」
綾波ちゃんを呼びに行き、彼女から返答が返ってくる。返ってきた声が少々弾んでいたことから考えて、どうやら楽しみでワクワクしているらしい。これは早く連れて行かないと機嫌を損ねてしまいそうだ。今日のパーティーの主役を連れて、如月は食堂へと戻る。手筈としては、綾波ちゃんたちが食堂へと入ったタイミングを見計らって参加したメンバー全員が一斉にクラッカーを鳴らして彼女たちを祝う算段になっている。むろん、私も鳴らすメンバーに入っているため、クラッカーは携帯している。
「ほら、何してるの?今日の主役はあなたたちよ?」
「うん、そうだね。綾波ちゃん、春雨、いこっか」
「姉さんは、早く料理にありつきたいだけでしょう?まぁ、いいですけど」
そう春雨が言って食堂の扉に手をかける、あとは開けたらこのクラッカーを鳴らしてあの子たちを祝うだけだ。そして、春雨が扉を開けて三人が中に入る。よし、今だ。
「綾波(ちゃん)、夕立(ちゃん)、春雨(ちゃん)、転属おめでとう!!」
「転属おめでとう、みんな新しい門出を祝いたいんですって」
綾波ちゃんはそれを聞いて、たどたどしくも「あ、ありがと……」と礼を言ってくる。きっと、こういうことには慣れてないのだろう。頬を染めてたどたどしい謝礼を舌に乗せるあたりがなんともかわいい。初々しいというか、なんというか、とにかく突っついてかわいがりたい感じだ。そんなことを三水戦のメンバーにもみくちゃにされている綾波ちゃんを眺めながら考えていると、隣から今回のパーティーの準備の一番の功労者である加賀さんがグラスを片手に声をかけてくる。
「あの子たち、楽しんでくれてるみたいね。もともと、前線基地にいたころからあの子たちは楽しいことに目がなかったから、こういうどんちゃん騒ぎには食いついてくるとは思っていたわ」
………ん?今加賀さん、なんて言った?私の聞き間違いでなければ、今加賀さんは「前線基地にいたころからあの子たちは」といったはずだ。「前線基地に」といった以上、話題にしているのはおそらく綾波ちゃんだろう。クラッカーの音を聞きつけて後から参加した陽炎ちゃんと不知火ちゃんはカウントしていないはずだ。そうなると、複数形で話題に出すのは少々おかしい気もする。加賀さんの性格からして、おそらくは本気で言っているのだろう。そもそもこんな寒い冗談を言うとは思えない。
「あの、加賀さん。「あの子たち」って、どういう意味ですか?」
「言葉通りの意味よ、あの子の中には
………つまり、加賀さんは綾波ちゃんの秘密に気づいていながら、それをあえて黙って今まで接してきたのだ。多分、綾波ちゃん本人は感づいてはいるのだろうが、あえて聞いてこないあたり黙っていてくれていることに感謝しているのだろう。まぁ、そんなことはいい。今はパーティーを楽しもう。
そう決めた如月は、加賀さんからグラスを受け取り「あーん」攻撃でタジタジになっている綾波のもとへ行った。
あえて黙っている加賀さんのやさしさ