「妖精さんたちはお湯が沸いたとは言ってたけど、シャワー使えるんかなぁ……」
木の皮で編んだ手製のバスケットに加賀さんから借りたお風呂セットを放り込み、入渠施設の大浴場に向かう俺。リヤカーから降りた加賀さんが、お尻をさすりつつ座り心地の悪さにぶつくさ文句を言っていたのは印象的だった。今度誰かを乗せるときは、座布団のひとつでも用意しておこう。
脱衣場に着き、脱いだ服を手早く籠へと放り込む。思えば、初めて風呂に入ろうとしたときは大変だった。勝手が違いすぎて何もかもがわからないのだ。あまりの勝手の違いに右往左往していると、見るに見かねたのであろう『綾波』が「一度しかやりませんから、よく覚えていてください」と彼女らしからぬ口調で吐き捨て、肉体の制御権を
大浴場へと入り、シャワーを頭から浴びる。長い髪を洗うのに少々苦労したり、ある一部分――どこかは聞かないでほしい――を洗うときに多少の興奮を覚えたりといろいろあったが、綾波が口を挟まなかったのは決して機嫌が悪かったからではないだろう。そうして、たっぷりのお湯を満載した浴槽に入り、俺は一息つく。
「ふぅ、やっぱりお湯はいいな。水風呂じゃ身体が冷えてかなわん」
――ボイラーを焚く燃料も確保できたわけですし、これで寒い思いをせずにすみますね――
どうやら、『綾波』も同意見だったのか、一息ついてだらけた声を出す。着の身着のままだったため、替えの服がなく、こうして入浴中に洗濯してもらい、乾いたら上がるのサイクルだったため、水風呂だったときは冷えた身体を抱えて服が乾くのを待つしかなかったため、昨日などはあわや風邪をひきそうになった。妖精さんが――タブレットを作るついでに造っていたのであろう――ドラム式洗濯乾燥機を感謝したくなる。
「あやなみさん、せんたくしたふくがかわいたのです」
洗濯した服を持ってきた妖精さんがわざわざ中にまで入って報告してくれる。さて、もうそろそろ上がろうか。早くしないと、昼飯が冷めるし、待たせている加賀さんにも悪いだろう。
「ずいぶん、長風呂なのね」
「すみません、実は着の身着のままなんで……」
「替えの服がないのね?それは困るでしょうね」
ええ、と苦笑交じりに『綾波』が答えると、加賀さんは何やら考えているようだ。何を考えているのかは不明だが、箸を片手にぶつぶつと何かを呟いている。小声だったため、詳しい内容までは聞き取れなかったが、「提督」という単語を聞いた途端、妖精さんたちの態度が変わったのを感じた。表情こそ変わらなかったものの、あからさまに不愉快そうなオーラを滲み出している。提督に何の恨みがあるんだ?
「それはそうと、肉じゃが食べませんか?冷めますよ?」
「ええ、そうね」
俺に指摘され、加賀さんは思い出したように肉じゃがに箸を伸ばす。そうして昼食も終わり、加賀さんと二三約束を交わして明石とともに加賀さんは夕方ごろ鎮守府へと帰って行った。ハイパーズに関しては、墓標にかけてあった
はてさて、明日は何が起こるのやら。俺は明日への不安と期待を抱きつつ、眠りについた。
(・ワ・)「あやなみさんはわたさないのです」