特型駆逐艦、綾波(偽)と申します。   作:刹那・F・セイエイ

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遅刻した、すまぬ。



俺、いじられます。

 夕立と春雨に食堂へと連れられて手近な席に座らされ、動き出さないようにと春雨に見張られる。いや、そんなに心配しなくても俺無理して動きませんが……なんて言ったところで春雨は聞いてくれるはずもないだろう。その証拠に、顔はニコニコしてるくせに目が妙に爛々と輝いている。少しでも妙な動きを見せたら、ここで首をへし折られかねないため、うかつに動くことができない。前線基地に帰る前に、盟友に引導を渡されたのではたまったものではない。

 

「無理しちゃいけませんからね、夕立姉さんと一緒に食べさせてあげますね」

「いや、俺左手まだ使えるんだけど……右手はともかく、無事な左手は使わせてくれない?」

「ダメです、どんなことでも無理はさせられません」

 

 ………ダメだ、取り付く島もないとはこのことか。せめて、もう少し話を聞いてくれるだけの余裕があれば、なんとか左手も使えるのだろうが、当の春雨は「あーん」をさせたいのだろうか、頑なに左手を使わせようとしない。そうして夕立が昼食のトレイを持ってきてくれたのだが、その夕立も「あーん」させる気満々で、すでにお箸を握って待機している。………ダメだこりゃ、夕立と春雨はもうすでにいじる気満々でいる。誰か助けて……

 

『――こんな恥ずかしいイベントがあるなんて、思ってもみませんでした……――』

 

――想定外です、こんなの想定外です……――

 

「綾波、もしくはアヤナミ。頼むから代わってくれ」

 

――嫌です――

 

『――恥ずかしいのでお断りします――』

 

 この薄情者……俺だってこんな恥ずかしいイベントやだよ……「あーん」されるなんて、俺も想定外なんだから。っていうかお前ら、そんなにニコニコすんな。俺怪我人ではあるけど、動かんわけではないぞ。そうこう考えているうちに、俺の目の前にハンバーグが突き出されているのが見える。あのー、そのフォーク貸してください、春雨さん。俺、自分で食べますんで……いや、だから左腕は大丈夫なんで……あのー、もしもし?春雨さん?だからフォーク……

 

「どうですか?」

「………結局「あーん」された……」

「春雨って、結構押しが強いからね」

「春雨、その前に帽子なんで脱がないの?」

 

 今まで気づいていなかったのか、誰も指摘してこなかったからかは不明だが、俺が突っ込んだ途端にサッと取ったところを見るに、誰も突っ込んでくることはなかったのだろう。別に縦の繋がりを重要視しているわけではないので、罰則を設ける気はないのだが、やはり最低限のマナーは守ってほしいと思う。もはや無法地帯に等しかったアニメ艦これを見ていたせいで、余計にそう思ってしまうのだ。自称一人前のレディや、舐めプ一航戦と、中途半端にマトモなせいで悪い点ばかりが目立ってしまっている。特に一航戦に関しては目に余るものもあり、中途半端にいいところを見せるくらいならいっそのこと吹雪に対して「ワシントン海軍軍縮条約のおかげで生を受けたような補助艦艇風情が」と罵っていたほうがまだマシだったのかもしれない。もっとも、その場合はその場合で「吹雪がかわいそう」とか「血も涙もない冷血女」とか別種の非難を浴びていたのだろうが。

 

「はい、綾波さん。あーん」

「いや、だから俺……むぐっ!!」

 

 俺の受難は、当分続きそうだ。




もう「わるさめ」って呼んでいいんじゃないかな、この春雨。

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