特型駆逐艦、綾波(偽)と申します。   作:刹那・F・セイエイ

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遅刻分、すまぬ。


俺、出撃します。

 長門秘書艦に出撃の許可をもらい、艤装を借りにドックへ向かう俺だったが、ある問題が残っていることを忘れていた。それは、綾波の艤装がこの鎮守府にあるかどうか、である。綾波の艤装があればそれを借りればいいし、なければないで、ほかの誰かから借りるしかない。だが、そうそう自分の艤装をホイホイと貸し出すとも思えず、俺は途方に暮れていた。艤装がなければ、海へは出られない。

 

「まずいな、艤装がなきゃ海に出られんぞ」

 

――このL.ホークが艤装と認められれば、このまま海に出られるんですが……――

 

 そう、問題点といえばそこだ。艦娘は艤装がなければ洋上に浮くことができず、戦力になりえない。だが、出撃を具申した以上、艤装を探さねばならない。ドックに綾波の艤装があればいいのだが、早々都合よくあるとも思えない。とりあえず、艤装を探しにドックへ向かおう。運がよければ、綾波の艤装を借りられるかもしれない。そんな淡い期待を抱いてドックへ向かうが、残念ながら綾波の艤装を借りることはできなかった。その代わりに、面白いものを借りられたのだが。

 

「VLS?」

「そう、性能実験も兼ねて、綾波に貸し出そうと思って。ついでで悪いんだけどさ、稼動データ採取して持って帰ってきてくれない?」

「いつから私は兵装実験艦になったんですか……そもそもこの仕事は夕張さんか明石さんの仕事でしょう?」

「いや、海に出て試し撃ちしたいのは山々なんだけどさ。今の私、長門秘書艦から海に出ること禁じられてるからそれができないのよ」

 

 聞くところによると、以前資材を使い込んで資材庫に穴を開けかねない勢いで開発を乱発したせいで今もなお海に出られないよう通常開発に従事させられているとのことだ。だが、それに関しては残念だが当然と言わざるを得なく、擁護(フォロー)のしようがない。っていうか、偶然の産物とはいえよく『あんなもの』を開発できたな、この変態が。こっちはこっちで、縮退炉とかそのうち開発しそうで怖い。核融合炉を開発して、なおかつ安定起動にまで漕ぎ着けたうちの言えることではないのだろうが。

 

「ところで、あなた出撃するんじゃなかったの?」

「あっ、そうでした。VLS、お借りしますね」

「ちょっと、主砲は?」

「L.ホークがあります」

 

 そんなこんなで何とか艤装を借り、出撃ポートへと急ぐ。今回随伴する艦隊は誰がいるのだろうか、見知った人ならいいのだが……と考えつつ向かうと、そこには自分の会ったことのないメンバーばかりで構成されていた。重巡洋艦高雄を筆頭に、航空母艦飛龍、蒼龍、軽巡洋艦球磨、多摩、駆逐艦時雨の五名である。せめて、この中に見知った人がひとりでもいてくれれば、少しは気も紛れたのだろうが、全員が俺の知識の中にあるだけで、この世界では一度も会ったことのない艦娘ばかりだったため、一抹の不安がよぎる。うまくやってけるかなぁ?

 

「はじめまして、綾波さん。私が今回の艦隊の旗艦を勤めさせていただきます、高雄型重巡洋艦一番艦の、高雄と申します」

「私は蒼龍型航空母艦、蒼龍。昨日の射的で隣にいたんだよ、覚えてるかな?」

「飛龍型航空母艦、飛龍です。今日は、一緒に頑張りましょう」

「球磨型軽巡洋艦一番艦、球磨だクマ。何か困ったことがあったら、この球磨おねーさんに何でも相談するクマ」

「同じく、球磨型軽巡洋艦二番艦、多摩にゃ。一応言っておくと、猫じゃないにゃ」

「僕は白露型駆逐艦二番艦、時雨。妹の夕立がお世話になってるみたいだね、ありがとう」

「特Ⅱ型駆逐艦一番艦、綾波です。今日はよろしくお願いいたします」

 

 俺とは初顔合わせになる五人が自己紹介をし、俺はそれに対して職場体験に来た実習生よろしくたどたどしい返答で返す。そして出撃してしばらく周辺海域をぶらぶらと航行(クルージング)して楽しむ。その日は運がよかったのか、長門秘書艦の読みが外れたのか、敵艦隊と会敵することなく鎮守府に戻る。戦闘こそなかったが、俺としては隊列を組んだときのペースを覚えることには役に立った。それが得られただけでも、今回の出撃は無駄ではないはずだ。

 なお、陽炎と不知火も出撃したそうだが、「艦隊のペースを酌んで合わせるのが大変だった」とのことだった。




次回は大本営に赴く予定。

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