特型駆逐艦、綾波(偽)と申します。   作:刹那・F・セイエイ

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加賀さん登場


俺、お客さんを出迎えます。

「燃料は大量に手に入ったし、これでやっとボイラーが使える……」

 

 俺が綾波となってから早四日、燃料を充分な量確保できたため、ようやくボイラーに火を焚いてお湯を沸かすことができるようになった。今まで水風呂で我慢してきただけに、これはありがたい。とはいえ、燃料があってもボイラーが動く保証はないのでそこについては不安がつきまとう。ボイラー関連の知識はあいにくと持ち合わせていないので、動かなかったらどうしようか……

 そんな不安を抱えつつ、暁の水平線を眺めながら工廠ドックへと向かう。タブレットは無事完成したのか、という不安もあるが、今はボイラーが動くかどうかということが重要だ。動くのなら、たっぷりの湯に浸かれるし、動かないのなら、また寒い思いをして水風呂に浸かる羽目になる。それはさすがに勘弁願いたい。

 

「ぼいらー?せいびはばんぜんなのです」

「ねんりょうさえあればうごくのです」

「それはそうと、たぶれっとかんせいしたのです」

 

 そう言って、妖精さんが誇らしげに渡したタブレットを手に取り、動作確認。これは期待していた以上の出来だ、獲得した資材を多く運べるようリヤカーを開発してくれたり二つ返事でタブレットを開発してくれたり、このやや広めの前線基地跡地を隅々まで掃除していてくれたり資材集めに協力してくれたりと、本当に妖精さんには頭が上がらない。今度、何かお礼でもしよう。

 (ボイラー)が温まるまで多少時間がかかるとのことなので、その間にさらに流れ着いたであろう資材や食料の山を確保しにリヤカーを引いていつもの砂浜へと向かう。やはりというかなんというか、昨日予想したとおりに海岸が漂着した物資のコンテナで埋まっていた。どうやら、今回は漂着した艦娘はいないらしい。よかったよかった。

 流れ着いた物資を燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイト、食料の五つに分け、運んでは戻り、運んでは戻りを繰り返す。こうして、すべての物資を前線基地跡地に運び終えたころには、すでに太陽が真上にまで差し掛かっていた。スマホで時間を確認すると、11:30となっている。もうすぐお昼ごはんの時間だ。今日のメニューは何にしよう。

そうして、海を眺めて黄昏ていると、水平線のほうからひとりの艦娘がこちらに向かってきているのがわかった。最初は誰だかわからなかったが、近づくにつれてそれが誰だかわかる。加賀型航空母艦一番艦『加賀』、それが近づいてくる艦娘の名だ。その加賀が何の用だ?

 

「はじめまして、正規空母、加賀です」

「特型駆逐艦、綾波です」

「つい一週間ほど前、この海域で軍の輸送船が襲撃されるという事件が発生。その輸送船を護衛していた艦娘がこの島に漂流していないか調査に来ました」

 

 なるほど、この物資の多さと先日のハイパーズの遺体は戦闘があったからか。だが、そうでもなければ改二に改装された北上と大井が死んでいるということは考えられない。加賀さんが懐から数枚の資料を取り出し、こちらに渡してくる。六人中三人には見覚えがなかったが、残る三人には覚えがあった。工作艦『明石』、球磨型重雷装巡洋艦『北上』、『大井』。明石は今療養させているし、北上と大井に関しては自ら埋葬したため忘れるわけもない。

 

「………?さっきから何の音かしら?ラジオなんてあるわけがないのに……」

 

 ラジオ?ああ、さっきから電話がかかってたのか。こっちの世界に来てから電話がかかってくるなどとは思ってもみなかったため、つい聞き過ごしてしまった。

 

「はいはいー、お湯沸いた?」

『つうしんてすともかねて、おゆがわいたほうこくなのです』

『おひるごはんも、できているのです』

『けど、はりきってつくりすぎたのです』

「ちょうどいい、お客さんが来たんだ。もてなす意味も兼ねてガッツリ食っていってもらおう、それで、今日のメニューは?」

『にくじゃがなのです』

 

 なるほど、肉じゃがか。これなら加賀さんも喜んでくれるだろう。そう思い、俺は加賀さんに提案をする。

 

「そちらの艦隊所属かどうかまではわかりませんが、明石さんならこちらで保護していますよ」

「そう……気分が高揚……じゃなくて、明石さんがいるのね?案内して」

「わかりました、案内しますね」

 

 俺はそう答えて加賀さんをリヤカーに乗せ、前線基地跡地へと向かう。

 あっ、昼飯の前にお風呂入ろう。




次回、お風呂回

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