特型駆逐艦、綾波(偽)と申します。   作:刹那・F・セイエイ

67 / 121
タイトル復帰


俺、再び艦娘寮に行きます。

 早朝から市街をぶらつき、綾波の私室で謎の頭痛に襲われてから次の日、俺は客室のベッドに寝転がって綾波の部屋から持ち出した日記を読んでいた。内容は主に、ここへ来るまでの漂流記、ここへ来てからの生活、一日一日の内容は長くはないものの、マメに書かれている。(フネ)の時代の記憶は何かないかと期待してページをめくるが、さすがにそういった類の内容は書いておらず、時間の無駄だったかと落胆する。

 

――もう一回、艦娘寮に行ってみませんか?菊月と長月の部屋は、まだ調べてませんから――

 

「それもそうか、まずは菊月の部屋から行くぞ」

 

 「ええ」と短く返答が返り、俺は再び艦娘寮へと向かう。菊月の、睦月型の部屋は特型の部屋を抜けた先にあり、寮の出入り口からは少々離れた場所に割り振られている。少々かわいそうだろう、と考えつつ、俺は菊月の部屋を探す。睦月、如月、弥生……あった。ここが菊月の部屋か。俺は菊月の部屋の合鍵を探し、カギを開けて何の躊躇もなく中へ入る。中は昨日の綾波の部屋と同じく、いなくなったときのままの時間で止まっている。やはり内装は平々凡々として、個性を感じさせない部屋かと思われたが、部屋の片隅に転がるあるものが、この部屋の主の個性を強調していた。

 

「………刀?」

 

――軍刀……ですね。長短二振りの刀、おそらくは二刀流の使い手だったんでしょう――

 

 俺はその部屋の片隅に転がる二振りの刀を手に取り、じっくりと眺める。だが、いくら『()()』と同じ二刀流だからとはいえ、名前まで同じとは限らないだろう。しばらく眺めたのち、おもむろに鞘から抜き放って白銀に輝く刀身を撫でる。今までの手入れが十分に行き届いていたからか、その刀身には一点の曇りもなく鏡のようにキラキラと輝いている。菊月がこの二振りの刀にどんな思いを込めて海を駆けたのか、それは菊月以外わからない。だが、何を願って力を欲したのかはなんとなくわかる。それはきっと『彼女』と同じで、姉妹たちを守りたい一心だったのだろう。

 

「菊月、お前が愛刀を置いてまで行かねばならない場所などあるのか?」

 

 軍刀を鞘に納めつつ、俺は首を傾げる。俺が菊月なら、いなくなるなら愛刀と共にいなくなる。まさか、本当にいなくなったのか?いや、まさかそんな与太話はあるまい。守りたい姉妹たちを残して、ふらりといなくなるような性格はしていなかったはずだ。少なくとも、俺はそういうイメージを抱いている。たとえ菊月が『彼女』であっても、そうはしなかったはずだ。

 

――姉妹を置いてでも行かねばならない場所……わかりません――

 

「だが、いないのは事実だ。とりあえずいそうな場所にアタリをつけて――」

「その軍刀から手を放しなさい!!」

 

 俺が菊月を探そうと決め、部屋を出ようとするとL.ホークを両手で構えた如月が、部屋の入り口でこちらを睨んでいた。




長月のお部屋は次回探索するかも

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。