特型駆逐艦、綾波(偽)と申します。   作:刹那・F・セイエイ

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たまにはひとり旅


俺、本土を見て回ります。

 デパートで爆買いをした次の日、俺は気になることがあって朝食の代わりに外出許可証を取って鎮守府の外へと繰り出す。理由はふたつ、深海棲艦に襲われた歴史がある以上、どこかに犠牲者を弔う慰霊碑があるだろうと思い、そこへ行って花のひとつも手向けたいのと、もうひとつはあちこちブラブラと歩きまわることで昨日見えてこなかったことが見えてくるだろうと思ったことのふたつだ。

 朝早くから開いていた定食屋で朝食を取り、スマホのマップを頼りに慰霊碑を探す。深海棲艦は海からくる以上、きっと海沿いに建てられているのだろう。記念公園を中心に探せば、きっと見つかるはずだ。そして、その読みが正しいと知り、俺はつい心の中でガッツポーズをとる。やっぱり海沿いにあったか。

 

――こんなことを言うのもなんですけど、少し不謹慎ですよ?――

 

「ああ、それもそうだな」

 

 時間が時間なのか、周囲には誰もおらず、少し寂しい印象を受ける。だが、俺にとっては好都合だ。ここでなら、綾波と共に今後の活動方針を相談できるし、なによりふたりきりになりたかった。別に、前線基地のことなら陽炎たちがいても何の問題もなかったのだが、今回の問題についてはそうもいかない。九月コンビと綾波の件についてと、俺の最終的な目標の明確化については、綾波とふたりきりで決めたかった。

 暁の水平線を眺めつつ、俺はボーっと考える。菊月と長月、そして綾波はどこに消えたのか。そして、俺がなぜこの世界に来たのか。この世界で何を為せばいいのか。前線基地とその周辺は着々と整備が進んでいるが、あまり攻略に打って出ようという気はあまりなく、みんなとの時間が守れればそれでいいような感じもする。だが、それではダメなのかもしれない。この世界をどうするのか、深海棲艦とは和解するのか殲滅するのか、その前に人類同士で争って滅んでしまうのか。いずれにせよ、俺がこの世界に来た理由はあるはずだ。

 

――少なくとも、迷っていては何も始まりませんよ。まずは、あなたがどうしたいのか、聞かせてください――

 

「俺は……俺は、人の可能性を信じたい。この世界の、明るい未来を見てみたい」

 

――なら、やることはわかるでしょう?深海棲艦と和解するにしろ殲滅するにしろ、あの前線基地を我が物としない限り、何もできません――

 

「どうやら、近いうちに大本営に赴く必要がありそうだ」

 

 今後の方針が固まったところで、俺は公共交通機関を利用して鎮守府からだいぶ離れた市街地に来てあちこちの商店を見て回る。昨日は見るものを絞っていたため気にはならなかったが、やはり気になるものは気になる。この世界では何があって、何がないのか。全自動お掃除ロボットを売ろうにも、需要がなければ売れないものは売れない。家電量販店を巡って、売れ筋の家電製品を見て回ろう。いくら全自動お掃除ロボットが異端だとしても、掃除機くらいはあるはずだ。はてさて、どんな掃除機が売れ筋なんだろうか……

 しばらくフラフラと見て回り、わかったことといえば家電製品が性能的には俺の知っているそれらよりハイスペックなのに、どこかデザインがレトロチックだったことくらいか。レトロブームか?だが、テレビはブラウン管仕様が未だに主流の座を降りてないのか、液晶仕様とシェアを争っている状態である。

 

――スマホがないなんて……――

 

「ないものはないんだ、諦めろ」

 

――………で、これからどうする気です?――

 

「いったん鎮守府に戻る、これからの予定を整理せにゃならん」

 

 俺はそう言い、再び公共交通機関を利用して鎮守府へと戻る。ちなみに、何も告げずに鎮守府の外へ出たことで帰ってきてから陽炎と不知火にぶつくさ文句を言われまくったのは別のお話。




毎回毎回前書きと後書きのネタで悩む

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