特型駆逐艦、綾波(偽)と申します。   作:刹那・F・セイエイ

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遅刻した、すまぬ。


綾波、本土旅行編
俺、本土に繰り出します。


 俺が綾波となって今日で一ヶ月、鎮守府の客室で目を覚まし、明けない空を眺めて新しい一日を迎える。普段なら、この時間から朝日が望めるのだが、やはり緯度が高いせいかまだ空には星が瞬いている。さて、今日から本土旅行のスタートだったか。楽しい旅行になればいいが……と思い、暁の空を眺めたくなって以前行った埠頭へと向かう。どうやら吹雪の早朝ランニングは日課らしく、今日も彼女に追いこされていく。やはり夜通し起きていたのであろう川内さんとすれ違い、埠頭へ赴くと、先客がいたのか、誰かいた。………なんだ、神通さんか。

 

「なんだ、とは失礼ですね。私も気に行ったんですよ、ここ」

「すみません、誰もいないものだと思ったので」

 

 そう、まさかここに神通さんがいるとは思わず、うっかりそんな反応を返してしまった。どうやらあの日以降、神通さんもここを気に入ったらしく、度々ここへきては日の出を眺めているそうだ。そしてその度に川内さんに軽ーくお説教をかますのが楽しみなんだとか。あの日、ここで出会ったのもひとつの運命というやつだろう。こういう運命も、悪くはないな。

 

「日の出です」

「前線基地では、なかなか見られない光景ですからね」

 

 昇る朝日をふたりで眺め、輝く水平線に感動する。やはり綺麗なものだな、朝日に輝く水平線というのは。そうして暁の水平線にふたりで感動していると、スピーカーから起床ラッパが鳴り響き、06:00を告げる。さて、今日の朝食は何にしようか。パンか、ごはんか、それともシリアルか。考えているだけでも楽しみだ。そんなことを考えつつ、俺と神通さんが食堂へ向かうと、すでに先客がいたようで、ふたりで席を確保しているのが見えた。………なんだ、今度はハイパーズか。

 

「なんだ、とは失礼だね。あたしら早起きしたから席取られないよう確保しといただけだよ」

「そんなこと言うなら、あとふたつ空いてる席、譲りませんからね」

 

 どうやら機嫌を損ねたらしく、俺は素直に謝る。これ以上関係をこじらせて険悪になるつもりはないし、そうはなりたくない。ちなみに、今日のメニューはコーンフレーク。「そっちにはないだろう」と言って北上が気を利かせて持ってきてくれたものだ。やっぱりいいやつだな、北上って。コーンフレークをもごもごと頬張り、今日の予定を考える。とりあえず、ベタだがショッピングとでも洒落込もうか。だが、神通さんがいてはどうも行きづらい。陽炎と不知火を連れてあちこちを巡ってみよう。

 

――神通さんがいて行きづらい場所って、いったいどこなんですか?――

 

 いや、行きづらいっていうより、頼みづらいから自分で買いに行きたいっていうか……なんて言うか、頼むには恥ずかしい代物なんだよ。だから自分で買いに行きたいわけで……そうして悶々とした感情を抱えたまま朝食が終わり、俺は町へ繰り出すために準備を始める。財布よし、スマホよし、準備完了。あとは外出許可証を貰って、一日外で遊びまわるだけだ。

 ………けど、あるかなぁ……アレ。




お買い物ー、お買い物ー。(某CM風のイントネーションで)

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