特型駆逐艦、綾波(偽)と申します。   作:刹那・F・セイエイ

62 / 121
※火葬戦記注意


俺、この世界の歴史を知ります。

 鎮守府について割り当てられた客室に案内され、荷物を置いてから俺は秘書艦の長門に頼んでこの鎮守府の資料室へと案内してもらっていた。理由はふたつ、この世界の歴史や現状を知りたいのと、艦娘や深海棲艦、妖精さんの正式なデータを調査しておきたいという理由からだ。前者は並行世界(パラレルワールド)であろう以上、世界の歴史そのものも全く違うであろうことから詳しく知りたいのと、後者は自分が艦娘であるにもかかわらず、その一切を知らないのは問題だろうと思ったからだ。

 とりあえず、まずはこの世界のたどった歴史からだ。結論から言えば、この世界にもあったかつての大日本帝国はWWⅡに『勝って』いる。連合国はヨーロッパに集中していて、帝国軍とは片手間で戦っていたことを差し引いても、これはかなりの変化だ。かつての戦争に勝ったとなると、どうやって勝ったのかが気になる。どこが転機になった?レイテか?ソロモンか?それともミッドウェーか?俺はどこから歴史が変わったのかが気になり、開戦の切っ掛けとなった真珠湾攻撃の資料からごっそり持ち出して並べる。

 まずは真珠湾攻撃から始まり、ミッドウェー海戦を迎えるまで大きな変化はなく、これからも変化はないのだろうと思っていたが、太平洋戦争のターニングポイントともいえるミッドウェー海戦において、少しずつ変化が訪れる。主力の南雲機動部隊を失って大敗するのかと思いきや、そうではなく、結果的に失われてはいるものの、どちらかといえば互いに撃ち滅ぼしあう掃滅戦とも揶揄されそうな戦闘においての喪失だったため、むしろよく頑張ったと褒められるべきだろう。

 そして、太平洋戦争第二のターニングポイント、帝国軍が敗戦へと陥るきっかけとなったとある海戦でさらに変化が訪れる。そしてその変化こそが、逆転勝利への切っ掛けとなった。史実では戦艦二隻を失い大敗した、だが、この世界では勝った。たった二隻の駆逐艦の無双乱舞劇によって。そう、そのとある海戦とは夕立が火砲の飛び交う中砲雷撃戦(ダンスパーティー)をやらかして連合軍の将校の首をもぎ取り、綾波が単艦で突っ込んで駆逐艦離れした戦果を叩き出した、第三次ソロモン海戦である。

 夕立が突っ込んだきっかけは史実と同じなのであえて言わないが、その道中と結果が全く違った。敵味方の砲火が頭上を飛び交う中に自ら妹の春雨と飛び込んでおきながら、なんと春雨と共にほぼ無傷で暴れまわり、そして比叡を失いつつ春雨と共に悠々と離脱。そして綾波のワンマンショーに満を持して姉妹で乱入、六対三という史実よりも優勢な状況で敵艦隊に砲弾の雨を浴びせて新型艦のサウスダコタを中破させて撤退に追い込んでいる。なお、春雨はこのあと後方にいたワシントンを叩くのと、姉と盟友を安全に逃がすために殿を務め、単艦で突撃してその身を鉄底海峡(アイアンボトム・サウンド)に散らせている。

 その後は一進一退の攻防戦を続け、二発の原爆の投下は阻止され、そして東京湾に停泊したミズーリにおいて調印されたのは降伏文書ではなく停戦文書、つまり連合国側が「ここいらで俺らが戦うの止めよう」と持ち掛けてきたわけで、つまりは事実上の連合国側の敗戦といえる。そしてその後、日ソ中立条約を一方的に破棄して攻撃してきたソ連を討つべく、かつての敵国だったアメリカ、イギリスと手を組み、奪われた北方領土の奪還に励んだという。

 その後は世界各所で深海棲艦が現れるようになり、一部の国が余計な攻撃を仕掛けたせいで深海棲艦の怒りに触れ、全世界単位で侵攻を開始し、現在に至るとある。要するに、深海棲艦との戦いは人類がいらんことしたせいでこうなったのであり、本当は話し合いか何かがしたかったのであろうが、今となってはそれを知る術はない。

 そして、艦娘や深海棲艦、妖精さんについてであるが、突然現れて人類に味方するようになった第一世代と、データを採取して量産化体制の整った後の第二世代に分かれ、前者はこの世界で大戦果を挙げた武勲艦や終戦まで生き残った生存艦――この世界においては、綾波と夕立についてはその両方を満たしている――が次々に蘇って人類側に協力を申し出てきたとある。深海棲艦については様々な憶測が飛び交っているが、沈んだ艦船の成れの果てだろうという見解が最も有力とされるそうだ。妖精さんは、第一世代の艦娘についてきたほか、世界各地で目覚めた同様の妖精さんたちが人類に協力を申し出てきて、共に戦っているとのことだ。なお、一説によれば世界各地で散っていった英霊たちの生まれ変わった姿だろう、とのことだ。

 持ち込んだ資料のすべてを読み終え、ふぅ、とひと息ついて時計を見ると、すでに01:00を回っており、ずいぶんと没頭していたんだな、と思う。さて、そろそろ寝るか。そう思い、俺は資料を片付けて客室へと戻り、ベッドに飛び込んで着替えることなく眠りにつく。

 ………ここまで歴史が違うなんて、思ってもみなかったぞ。




次回から本土旅行編、スタート?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。