特型駆逐艦、綾波(偽)と申します。   作:刹那・F・セイエイ

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仁淀「みんなには起こさないよう言っておかないと……」


俺、寝過ごします。

 核融合炉が完成して本格的に発電施設が稼働を開始した次の日、俺は暁の空を眺めつつ前線基地近海を航行していた。海賊の襲撃は雲龍隊の一件を除いて起こっておらず、深海棲艦に至っては鎮守府所属の艦隊を追っていたものと会敵したことが二回あるだけで襲撃自体は一度もない。そのため、少々気が緩んで警戒が疎かになりがちだったが、それを隣に並んで航行していた綾波がたしなめる。気が緩みすぎだ、と。

 

「もう……平和なのはいいんですけど、もっと緊張感を持ってください司令官」

「悪い悪い、なんかこうまで平和だとちょっとくらい気を緩めてもいいんじゃないかな、って思ってな」

 

 「まったく……」と呆れた表情を浮かべて片手を額に当ててため息を吐く綾波。敵襲がないのはいいが、こうも何もないと不安にもなる。耳に飛び込んでくるのは波の音と靴の切り裂く水の音ばかりで、本来ならどこかから聞こえてきそうな海鳥の鳴き声がどこからも聞こえてこない。きっと今日はどこかに行ったのだろう、と勝手に結論付け、俺は綾波と共に朝の海上デートを楽しむ。こうして思うと、艦娘というのも悪くないな、と思う。

 朝日が完全に上って少しすると、どうやら綾波も退屈していたのか腰に下げていたL.ホークを両手にグリップして周囲に向けてトリガーを引いていた。FPSでもやっているつもりなのだろう、視線の動きがFPSのクリアリングのそれに似ている。よくよく考えてみれば、この前線基地にはマトモに娯楽らしい娯楽がないのだ、退屈になって弾薬を無駄遣いしたくなる気持ちはわからなくもない。本土に行って何か買ってこようかと思ったが、よくよく考えたら俺一文無しだったな、と思い出す。金の工面どうしようか……

 

「司令官、退屈なんでしょう?司令官も遊んではいかがですか?」

「それもそうだが、なんか斬るもんないか?」

 

 「では、こんなものでよろしければ」と言って両手の拳銃から空になった弾倉を両手に握り、全力で放り投げる。つまり「追っかけて叩っ斬ってこい」ってことか。だが、全力航行で対象を追いかけたことはないので不安は付きまとう。しかし、これもまた訓練の一環だと思えばいいのだろう。そう思った俺は、主機を全開にして30ノットまで急加速、綾波のぶん投げた空弾倉に追いついて腰に差した軍刀で追い越しざまに切り裂く。よし、切れ味は良好だ。

 軍刀の切れ味と全力航行の速さに感動しつつ、両手に握った刀を鞘に納める。二挺拳銃もいいが、やはり二刀流のロマンには敵わない。そして、朝食のために前線基地に戻ろうとして……

 

 

 やたら眩しい日差しが窓から突き刺さり、眩しさのあまり目元を腕で覆って起きる。………夢か、だが、夢でなければよかったと思う自分もいて少しどうなのかと思う。そして、鈍い頭の痛みを感じて片手で頭を押さえつつベッドを出る。寝すぎたか?と思い、スマホで時間確認をする。11:55……正午まであと五分!?やべぇ、寝過ごしたどころの話じゃないって!!しかも、昨夜寝たのが23:30なので、丸半日寝て過ごしていたことになる。

 

――すみません、一度でいいから寝坊をやってみたかったんですが……やり過ぎて頭が痛いです……――

 

「それにしても、誰も起こそうとしなかったほうが不思議でならないんだがな……」

 

 俺は仁淀達がなぜ起こしに来なかったのかと疑問に思いつつ、これからどうしようかと頭を悩ませた。………今日何しよう……




綾波「………なんで誰も起こしてくれなかったんですか……」

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