岩盤堀を再開してから数時間後、俺たちは前線基地の島の真下までトンネルを掘り進めた。………やっぱり妖精さんチートなんじゃね?だが、このまま上に掘り進めると、どこへ行きつくかわからず、大失敗する恐れがある。基地のど真ん中ならまだしも、畑にでも出てしまったら今までの苦労が水泡に帰すことになる。確実な方法としては、上から地道に掘ってここまで繋げるのが早くて正確で確実だろう。とりあえず、いったん戻ろう。
「われらはここまでけーぶるをのばしてくるのです」
「へんあつきはもうつくってよういしてあるのです」
「あやなみさんは、そのかんにおひるにでもいってくればいいのです」
――………私の許可なく開発を乱発して……どれだけの資材を溶かしたんですか、いったい――
おーい、綾波さんや。キャラ変わり過ぎにも程があるぞ。………なるほど、これが鬼神モードか。今の自分こそが「綾波」だというのに、彼女の怒りのオーラをひしひしと感じる。今ならダイソンも泣いて土下座するレベルの怖さだ。深海棲艦でたとえるならelite級といったところか、姫クラスの。
そんな鬼神モードに移行した綾波をなだめつつ、前線基地へ戻るともうお昼を過ぎたというのにここにいる三水戦に疑問を抱いていると、突然睦月が12サンチ単装砲を乱射して文句を言ってくる。その文句の内容を意訳すると「綾波ちゃんと朝ご飯食べたかったのに勝手にいなくなったせいでおいしくなかった」とのことだ、知るか。しばらく文句たらたらに主砲を乱射していたのだが、突然後ろから川内さんにアンブッシュされ、頭を押さえて涙目になる睦月。
「朝ご飯一緒に食べれなかったってだけで主砲乱射するんじゃありません!!失礼にも程があるでしょう!?」
「そうだよ、睦月ちゃん!!それならお昼ごはん一緒に食べればいいだけじゃん!!」
「特Ⅰ型駆逐艦、いいこと言ったね。けど、睦月は罰として鎮守府帰ったらトイレ掃除一週間!!」
神通、吹雪、川内が口々に主砲を乱射していた睦月に説教をかまし、その度に泣きべそをかいている。那珂ちゃんと夕立がなんとかフォローに入り、なんとか
「………綾波ちゃん、何してたの?」
「海底トンネル掘ってた」
――嘘は言ってませんね、トンネルは掘ってましたから――
綾波の言う通り、嘘は言ってない。トンネルは掘っていたのだから。そして何事もなく昼食も終わり、三水戦のみんなは鎮守府に帰投するためここでお別れとなる。三水戦を見送ってひと息ついていると、ケーブルを伸ばしていた妖精さんたちから電話がかかってきた。なんでも準備ができたから来てほしいとのことだ。おそらくは、核融合炉に火を入れるのだろう。
「きていただいてさっそくなのですが、かくゆうごうろにひをいれてほしいのです」
「あやなみさんがいなければ、われらはあのしまでさみしくひあがってたのです」
「あやなみさん、ばんざいなのです」
………最後に何やら不穏な何かを聞いた気がしたが、気にしないでおこう。それはともかく、核融合炉の火を入れるとき、緊張の一瞬だ。俺は目の前のやたらゴツいレバーに手をかけ、奥へ押し込む。ガコン、という音と共に、何十基あると知れない核融合炉が一斉に稼働を始め、電力の生産を始める。これで、電力の心配はいらなさそうだ。あとは何をするか、だが……まぁ、それは追々考えていけばいいだろう。そう結論付けた俺は、保守管理のための妖精さんを残して前線基地へと戻り、夕食を食べることなく早々に寝た。
――おやすみなさい、司令官――
とうとう後書きのネタもなくなった件について。