特型駆逐艦、綾波(偽)と申します。   作:刹那・F・セイエイ

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第五章、突入。


綾波、諸島整備編
俺、トンネルを掘ります。


 三水戦からの再びの支援を受けた次の日、俺は発電施設の地下掘削の状態が気になり、日の出を待たずに発電島へと向かう。どうやら、丸一日かけて建物は完成したらしく、立派なコンクリートの壁が出迎えてくれる。そして、歩哨紛いのことをしていた妖精さんに案内され、地下の底へとたどり着く。現在深度、12,000m。ここまで深ければ外部から敵の襲撃を食らうことはないだろう。このまま地下を掘り進んでジオ・フロントもどきでも作ってやろうと考えたが、よくよく考えたらあまり掘り進めすぎるとヤバい層にぶつかることを思い出し、早々に断念する。

 コンパスで方角を確認し、掘る方向を決める。探照灯は用意している。明りの心配はしなくていいだろう。心配なことといえば妖精さんの疲労度と、気力くらいなものだ。地味だが、ドリルでちまちま掘り進めていくしかない。本音を言えば地下にトンネルを掘るあのマシンを使いたかったのだが、コストがバカ高いため綾波が猛反対し、開発を断念する羽目になった。その代わりなのか、ドリルの量産は許可してくれたが。

 

――当然です、あんな使い道の限定されるものを開発なんて許しません――

 

「アレあればトンネル掘るのスゲー楽なんだけど?」

 

――何を言おうと、ダメなものはダメです――

 

 どうやら、綾波はここだけは譲らないらしく、頑として首を縦に振ろうとしない。仕方ない、ドリルで地道に掘るしかないか。この調子じゃ、何日かかるのやら、と思うと作業開始から何分と経ってないにもかかわらずドッと疲れが押し寄せてくる。とりあえず、前線基地と発電島を繋ぐトンネルを掘れればいいや。そんなことを考えながらドリルで岩を削っていると、なぜか電話がかかってくる。誰だ?

 

『綾波ちゃん、今どこにいるの?一緒に朝ご飯食べようよ』

「ごめん、睦月。今大事な仕事があるから。ああ、そっちに神通さんいる?」

『神通さん?いるけど?』

『代わりました、私に何か?』

「この前線基地以外で、綾波、菊月、長月のドロップ・建造報告はどのくらい上がっていますか?」

 

 そう、建造システムが復帰してからずっと気になっていたことだ。駆逐艦が出るにしても、他の子はどんどん出てくるにもかかわらず、狙いすましたかのようにして綾波と菊月と長月が建造で出てこないのだ。しかも、海域でのドロップ報告もない。なかなか遭遇できないだけなのか、運が悪いだけなのか、どちらかと悩んでいると、神通から帰ってきた答えはそのどちらでもなかった。

 

『残念だけど、ある日を境に全鎮守府、泊地、基地から当該する駆逐艦のドロップ・建造がぱったりと途絶えたそうよ。具体的な日付を言うと24日前、綾波さんがこの島で目覚めた日からよ』

 

 ………まさか、本当にどこでもドロップ・建造ができていないとは……綾波は俺という存在がいるからいいとして、菊月と長月に関してはその存在を抹消されたかのように建造からもドロップからも現れずにいる。召喚するための呼び水となる睦月型なら、すでにネームシップの睦月がいるから問題ないはずだ。にもかかわらず、意固地になったかのようにして出てこない。もしかして俺、9月に嫌われてるのか?っていうか、俺何した?

 

「もともとの建造やドロップで所属していた綾波、菊月、長月はどうしたんですか?まさか、件のロリコン提督に『食い物』にされたわけではないでしょうに」

『その子たち、もともと私の鎮守府に所属してたんだけど、24日前からずっとMIAなのよ。しかも、艤装は残ってるし、部屋に争った形跡もないしで、神隠しとでもいいようがない状況でいなくなっちゃって……』

 

 ………神隠し、か。行方不明者の足取りや手掛かりが見つからない時に比喩表現として用いられることのある言葉だが、まさかここで聞くことになるとは……だが、本当にそうだとしたら、何の目的で?謎は深まるばかりだ。

 

『聞きたかったことって、もしかしてそれ?』

「え、ええ……お手数お掛けしました」

 

 「構わないわ」という神通の返答を最後に通話が切れる。いなくなった9月コンビの行方も気になるが、今重要なのはトンネルを掘ることだ。そう考えた俺は、ドリルを握り直して目の前の岩盤を再び削り始めた。




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