「かんむすなんかに、はなすことなんかないです」
「とっとと、でていけです」
「あなたたちになくとも、綾波にはあります。艦娘たちと、いったい何があったんですか?」
綾波が工廠ドックに赴き、説得を開始してから数十分、このままずっと平行線をたどるのかと思っていたこの話し合いに、ひとつの転機が訪れる。妖精さんのひとりが、投げようとしていたのであろうレンチを置き、ぽつりぽつりと話し出してくれた。この基地はどちらかというと艦娘よりも妖精さんの福利厚生を重視していたらしく、艦娘はかなり冷や飯を食わされてきていたとのことだ。そんな不満を溜め込んだ艦娘たちに毎日毎日サンドバッグにされ、いい加減我慢の限界が来て妖精さんたちが一致団結してクーデターを起こし、艦娘を基地からひとり残らず追い出したとのことだ。入渠施設に服が残っていた理由や、妙に生活感の残っていた艦娘寮にも合点がいく。つまり、追い出された艦娘はお風呂中や着替え中などに妖精さんに襲われ、着替える間もなく逃げ出すしかなかったのだろう。
「つまり、妖精さんたちにとって艦娘は自分たちの命を脅かす危険な存在だと?」
「そうです、かんむすはきけんなそんざいです」
「かんむすはわれらのてきです」
「だからといって、レンチや金槌を投げつけてまで排斥する理由があるんですか?艦娘だって、皆が皆同じというわけではないんです」
綾波のその言葉に、うぐぅ、と息を詰まらせて反論できなくなる妖精さんたち。自分たちの受けた仕打ちから「艦娘は危険な存在」という固定観念が染みついて大きくなっていったのだろう。だが、綾波の言う通り、皆が皆、同じ危険な存在というわけではない。あまり十把一絡げに扱わないでほしいものだ。俺というイレギュラーはともかく、もっと優しい子もいるはずだ。そう思っていると、綾波が突然ドックの床に腰を下ろして胡坐をかく。おそらくは、少しでも目線を合わせやすくするためだろう。
「われらはもう、かんむすとともにたたかえないのです……」
「われらは、どうすればいいのです……」
「綾波は、これまでのことをどうこう言って責める気はありません。ですが、これから来る艦娘は、どうか温かく迎えてあげてください。もう艦娘を冷遇する司令官はこの基地にはいませんから」
すると、妖精さんもやっと胸の内のつっかえが取れたからか、折り合いがついたからかは不明だが、どうにか落ち着きを取り戻してくれた。綾波は「やはり、説得は性に合いません」と疲れた口調でつぶやき、前線基地へ戻ることにする。ここの基地の処遇についてはいったん保留にして、いったん前線基地に戻ろう。
なお、無断で出撃した挙句、無断外泊までした俺たちが仁淀にこっぴどく怒られたのだが、それはまた別のお話。
新拠点、GET?