食糧探しを兼ねた森の探索に出て早数分、俺は早速問題にぶち当たった。食糧探しの前に、森の開墾を優先させねばならないらしい。斧とシャベルを手放さなかったのは、どうやら正解らしい。
「地面を掘るか木を切るか、どっちを優先させようか……」
そう、問題はそこだ。地面を掘って道を作るか、木を切って見通しをよくするついでに木材を確保するか、どちらにせよ、長丁場になりそうなことは予想できた。ライフルで肩を叩きつつ悩むこと数分、木を切りつつ地面を掘ることにした。
シャベルと斧を度々持ち替え、木を切り、地面を掘って木材を確保しつつ道を作る。黙々と木を切って地面を掘ってを繰り返していたため、だいぶ日が昇っていたことに気が付かなかった。太陽の位置から見て、おそらくは12:00といったところか。ちょうどお昼時なのだが、あいにくと食べ物は何一つ持ってはいない。空から食べ物が降ってくるなんて、常識的に考えてありえないし……などと考えていると、いつの間にか昨日気が付いた砂浜にたどり着いた。
どうやら、間隔の狭いところから掘り進めていったらしく、比較的早く向こう側へたどり着いた。昨日のときのように、何かいいものが見つかればいいが。そんなことを考えつつ海岸を探索していると、波に揺られて転がる人が視界に飛び込む。流れ着いた漂流者か?だが、だいぶ流されたのだろう、もう生きてはいまい。そう考えることができるのは、思考が知らず知らずのうちに『綾波』寄りになってきている証拠か、それともこんな奇想奇天烈な状況に慣れたのか。それはともかくとして、生きているなら助けるし、死んでいるなら弔うくらいはしてやろう。
近づくにつれて、その転がる人の正体がわかる。球磨型軽巡洋艦、いや、球磨型重雷装巡洋艦の『北上』と『大井』。通称『ハイパーズ』。脈を測ってはみたが、どちらもなく、肉体も冷え切っている。きつく抱きしめた北上に隠され、大井の表情は窺い知れないが、北上からは愛するものを守りたいという矜持が見て取れた。主機は大破して使い物にならなかったが、14サンチ単装砲と五連装酸素魚雷発射管は大した損傷もなく、まだ使える余地はありそうだ。彼女たちには悪いが、使えるものはいただいていこう。
「北上、大井、どうかヴァルハラでは仲良くやってくれ」
ハイパーズの死体を抱えて前線基地跡地に戻ったあと、艤装を剥がし、中にあったわずかな食料をいただき、前線基地跡地の一角に穴を掘って簡素な墓を建てる。彼女たちが首から提げていたお揃いのネックレスを墓標に引っ掛け、目印とする。これでいいのかどうかはわからないが、きっとこれでいいのだろう。それに、自分のものでないにせよ、艤装が手に入ったのは大きな収穫だ。こういうのも不謹慎な気もしなくもないが、ハイパーズには感謝せねばならない。大破した主機を解体して、燃料20、鋼材30を手に入れることもできた。
だが、手放しで喜んでばかりもいられない。わずかに資材と食料が手に入ったとはいえ、あくまでほんのわずかな量でしかない。それに、そうそう艦娘の死体が漂着されてもこっちが困る。っていうか、俺のSAN値が持たん。森の開墾の続きはまた明日にしよう、そう考えた俺は、夕闇の水平線を眺めつつ、昼と同じメニューを口にする。
早いこと、自給自足できる環境作らないとなぁ……
今度は生きてるハイパーズを出したいです。