新しい島を探索に来て妖精さんに襲われ、眠れない一夜を艦娘寮の一室で過ごした。二時間ごとに身体の制御権を交替し、敵対心を抱く妖精さんが来ないか警戒する。昨日は散々な目にあった、アレからなんとか仲良くなろうと精一杯アピールを繰り返してみたものの、妖精さんたちは耳を貸さずにレンチや金槌をこれでもかと投げつけてきて俺を追い出そうとしてきた。どんな理由があったのか知ろうと聞こうとしても、肝心のコミュニケーションが取れない以上、どうすることもできない。
「妖精さんが何に悩んでるのかわかんなかったら、俺らもどうしようもねぇぞ……」
――悩んでるのなら、どうして話してくれないんです……艦娘といったい何があったんですか……――
綾波が頭を抱えてイライラしてるのがはっきりとわかる、このまま身体の制御権を明け渡せば、頭を掻き毟って床を殴るのだろう、それほどまでに今の綾波は機嫌が悪かった。「すみません、ちょっと身体返してください」とだけ吐き捨て、いきなり身体の制御権を奪い返してくる。今の俺が自由に使えるのは視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚のいわゆる五感だけだった。いったいどこへ行くんだ?と考えていると、昨日の工廠ドックに向かっているのがわかった。おい、まさかカチコミかける気か?
「そんな気はありません、ただ、このまま艦娘を誤解されたままというのも癪に障りますので」
――いや、今行ったら余計こじれるだけじゃないか?――
「艦娘のことは、
………やっぱり、俺はあくまで俺であって、どうあがいても綾波にはなりえない。わかってはいたが、こうも冷酷に突きつけられるとどうしても辛いものを感じる。鎮守府側の艦娘と交流するときは、綾波らしく振舞おうと頑張ってはいたが、所詮は他人の猿真似。本人にはなりえない。言わば、限りなく綾波を演じる綾波の偽者、綾波(偽)である。綾波がずっと「あなた」としか呼んでこなかったのは、呼び方に困っていただけなのか、偽物と割り切るためにあえて固有の呼称名をつけたくなかったのか、それはわからない。だがどちらにせよ、俺という存在が
「誤解を招いたようなら謝りますが、綾波は責めているわけではないんです。ひとつの
それもそうか、と綾波の返答にも似たひとりごとに納得し、俺は少しだけ頭がスッキリするのを感じる。ひとりでごちゃごちゃ悩むより誰かに相談したら……と考えて、ふとあることに思い至る。もしかしたら、ここの妖精さんたちはその相談できる誰かが身近にいなかったんじゃなかろうか。誰にも言えず、誰にも聞けず、艦娘への不信を抱いて悶々としていた妖精さんたち。その点は前線基地の人間不信を抱いている妖精さんに通ずるものがある。
「任せてください、妖精さんへの説得は艦娘の仕事です。あなたは別のことがあるでしょう?」
――ああ、そうだったな。俺には俺の、やるべきことがある――
ここは綾波に全部任せてみよう、そう思った俺は、事の成り行きを見守ることにした。
詳細は活動報告にて。