「やっぱ、駆逐艦も体が小さいとはいえ、みんな食べ盛りだからかなぁ。備蓄されてた米がどんどんなくなっていくよ。もうそろそろ田んぼも検討したほうがいいか?」
――神通さん、そのあたりを見越していたんでしょうね。支援物資の中に種モミが混ざってました――
もしかして神通さん、エスパーの才能あるんじゃない?とくだらないことを考えつつ、綾波となって17日目の朝を迎える。昨日は種モミからお米の苗を作り、畑の一角に10ヘクタールほどの広さの田んぼを造り、そして今日、そのできたばかりの田んぼにお米の苗を植える作業に入ることになった。本土の有名なブランド米と比べれば、著しく味は落ちる可能性はあるが、それでもお米を自給できるだけの環境が手に入るというのは喜ばしいことだ。俺も日本人なんだな、としみじみしつつ、今日は遠征を休ませて参加させた長良型と天龍姉妹、陽炎と不知火に現場監督の仁淀を田植えに参加させる。
「なぁ、綾波。この田んぼ、ちょっと広すぎやしないか?」
「いくら二日に一回のペースで生産するとはいえ、この広さは尋常じゃないわ。できる量も相当なはずよ」
天龍姉妹からの尤もな突っ込みには返す言葉もないが、小麦やお米などの長期的に備蓄できる食料というのは今後プラスになっていくだろう。ちなみに、現在脱穀機と精米機を急ピッチで開発しており、予定通りなら明日この島で採れた初の銀シャリをみんなで口にできるはずだ。そんな明日のことを楽しみにしつつ、俺たちは腰をかがめて苗を田んぼに一本ずつ丁寧に植えていく。途中周りを見渡しているとそれぞれに植えかたにも個性が出ているようで、不知火は口調からわかる通りまっすぐ等間隔に苗を植えているのだが、いかんせんその真面目すぎる性格が災いしてか作業がやや遅い。天龍が不知火の逆で、意外にも仁淀がその中間といったところだった。
「みんな、お疲れ。これで明日にはこの島で採れた初のお米をみんなで食べられるはずだ、ってか、ずっと中腰姿勢だったから腰痛い……」
朝ご飯を食べて田植えを始めたのが07:00、そして現在時刻が13:00。どうやら6時間も田植えに没頭していたらしい。さすがにこんな泥だらけの足では靴は履けんだろう、長靴を作るべきだったかな、と遅まきに後悔しつつ、トロッコに乗って前線基地へと帰る。泥だらけの足を水で洗い流し、ハイソックスとローファーを履き直して食堂へと向かう。今日はシンプルに野菜炒めとキャベツの味噌汁だった。
「綾波、楽しみだね。この島初の銀シャリ」
「潜水艦組には海苔を探させに行きました、きっと明日には銀シャリと共に海苔が食卓に並ぶことでしょう」
陽炎、不知火、お前らさっきから銀シャリ銀シャリって、艦娘なんだからそんなにありがたがって食う必要はないだろう。艦だったころとは違うんだから、もっと気楽に行こうじゃないか。量産体制さえ確立してしまえば、戦闘糧食以外で口にできない高級品ではなくなるわけだし。
「あやなみさんあやなみさん、たうえようのとらくたーをつくったのでみてほしいのです」
「こううんきもつくったのです、いねかりのとらくたーもつくったのです」
「おこめとこむぎをせんようではこぶとろっこもつくったのです」
さすが妖精さん、仕事が速い。どれ、さっそく見に行こうか。そう思った俺は、妖精さんに導かれて工廠ドックへ向かう。今日のデイリー建造はまだ実施してないのでついでに回そうと思いつつ、あることが頭をよぎる。
………これ、どっかの農業系アイドルがやってることとおんなじじゃね?
ごはんは愛のエネルギー.byキュアハニー