「おはよう、綾波。昨夜はよく眠れたか?」
――ええ、おかげさまでなんとか熟睡はできました。ありがとうございます――
俺が綾波となってから今日で二週間、俺はこの島に物資輸送用のトロッコのレールを敷く計画を立てることにした。今まではリヤカーで事足りていたのだが、日を追ううちにだんだん収穫する野菜の量が多くなりすぎて何度も往復せねばならなくなったのだ。そこで島全体をぐるりと覆うようにしてトロッコを走らせようと思い至ったわけだが、そのためにはどこをどう通せばいいのかを協議せねばならず、厄介事になりそうだな、とひとり思う。
ちなみに、昨日クズ提督の強姦未遂に遭った綾波だが、反応を窺う限り大丈夫そうだが、まだ無理している可能性は十分にある。今日のところは綾波は十分に休ませ、俺だけでなんとかする必要がありそうだ。ちなみに、護衛についてくれた連合艦隊だが、ごねて帰投を嫌がった赤城と加賀を残して全員鎮守府に戻っており、今日はその赤城と加賀が昼過ぎに鎮守府へと帰る手筈になっている。だが、あの様子ではまたごねて帰りそうにないのだが、気のせいだろうか。
「とりあえず、朝飯食いに行くか。何食いたい?」
――そうですね、シンプルにトーストがいいです――
綾波のリクエストを聞き、俺は食堂へと向かう。料理長にトーストとプレーンオムレツを頼み、できるまでの間、スマホで時間を潰す。そうしてスマホで時間潰しをしていると、姉の天城に抱き付いて甘えている赤城がどこか幸せそうな表情で俺の隣に座り、とろけた表情で姉と談笑しているのが見える。そんなすっかり毒気と威厳の抜け落ちた赤城を眺めていると、トーストとプレーンオムレツができたと料理長から報告が入り、俺はそれを受け取りに行く。
「あら、あなたも今から朝食なのね。私達もそうよ」
「加賀さん、おはようございます」
互いに短いあいさつを交わし、みんなで仲良く朝食を取る。途中、何度か加賀さんが気遣わしげに声をかけてくれていたのだが、綾波の心境が心配でどんな風に返したかちっとも覚えていない。せっかく話しかけてきてくれたというのに、少し悪いことをしただろうか。もっとも、彼女は五航戦をいびって見下すお局様みたいな性格をしているわけではないので、よほど失礼な受け答えでもしていない限り怒られることはないだろう。
「正直言って、土佐を連れて帰るかここに残るかしたい気分なんだけど、そのどちらもできない以上お昼には土佐と別れなければならないのね」
「何しんみりしてるんですか、加賀さん。またここへ来ればいいだけでしょう?別に今生の別れってわけではないんですから」
「ええ、そうね」と加賀さんが答え、入れ替わるようにして赤城が「一宿一飯のお礼に、何か手伝いたいのですが」と聞いてくる。ちょうど人手が足りなかったところだ、一航戦にも手伝ってもらおう。そうすれば、作業もはかどるはずだ。一昨日、昨日、今日と合計六回回して建造された長良型にも手伝ってもらおう。レールはもうできているとのことなので、あとは妖精さんの描いた図面に従って路線を敷いていけばいいだけだ。妖精さんから図面をもらい、路線開通作業に入る。
「これで少しは楽になるかな……」
ただの艦娘、そういう風には、もう生きられぬ時代か……