天城と土佐の護衛を受けて前線基地から出発して数時間、俺は早速迷った。よくよく考えてみれば、加賀さんたちの鎮守府がどこにあるか俺は知らなかったのだ。スマホは持ってきているのでマップで見当をつければいずれはたどり着くのだろうが、それでは非常に非効率的だし、なにより艤装の燃料が持たない。どうしようかと右往左往していると、哨戒任務の帰りなのであろう三水戦と鉢合わせになる。これは助かった、事情を説明すれば、案内してくれるかもしれない。
「お久しぶりです、綾波さん。こんなところまでどのような御用で?」
「ええ、あの前線基地の今後の方針を考えていて、鎮守府と交渉しようと思ったんですが、よくよく考えたら鎮守府の場所知らないんですよね、私」
「それじゃ、綾波は私達と遭遇できてラッキーだね。幸運の女神様でもついてんのかな?」
にひひ、と笑う川内を軽くあしらい、神通の先導のもと俺たちは鎮守府へと向かう。道中、那珂ちゃんと島を開拓した時に那珂ちゃんの手から斧がすっぽ抜けてあわや大惨事になろうとしたことで姉たちから大目玉を食らったことや、吹雪が天城と土佐に意味不明のライバル心を抱いて彼女たちを困惑させたこと、夕立が「綾波ちゃんとは今度、命を
「現在時刻17:40、もうそろそろ夕飯時だね。交渉するっていうんなら、提督に話つけておくから」
川内はそう言って時間を確認していたスマホで提督に電話をかける。川内のスマホ、どこかで見たことがあると思ったら……ああ、リンゴのスマホバージョン6か。どうやら、簡易量産型と称して渡していたらしい。そうなると、タブレットのほうはリンゴのパッドで間違いないだろう。そんなどうでもいいことを考えていると、いつの間にかドックについていたらしく、妖精さんたちに艤装の解除を求められる。完全武装したまま鎮守府に上がる無礼者もいないだろうと納得し、艤装を丁寧に外して妖精さんに預ける。そうして妹を探しに行く天城と姉を探しに行く土佐と別れて神通の案内に従ってついていくこと数分、この鎮守府の提督がいるとされる執務室にたどり着いた。
「第三水雷戦隊、旗艦神通、入ります」
「特型駆逐艦、綾波、入ります」
提督と思われる男の「ああ、入れ」の声に従い、俺と神通は執務室へと入る。白い帽子を目深に被った男の隣に、長門が腕を組んで仁王立ちしている姿が見えた。どうやら、加賀さんの言っていたことは本当らしく、立派に秘書官を務めている姿が見える。「哨戒任務、ご苦労だったな」と神通にねぎらいの言葉をかけてから俺に向き、品定めでもするかのような視線でこちらを眺めてくる。
「なるほど、貴官が加賀が気にかけている噂の綾波か」
「おや、ご存知でしたか。有名になるというのは、少し嬉しい半面、こそばゆい感じもしますね」
「ああ、先日もこまごまとした日用品を段ボール箱に詰めて持って行く準備をしていたな」
………おい、加賀さんや。鼠輸送計画バレとるぞ、どうするんだ?
「で、その件の特型駆逐艦が我が鎮守府に何の用だ?たかだか一隻の駆逐艦のために貴重な戦力を割いてやるだけの余裕はない」
「ええ、別に無理してまで支援を頼みたいとは思いませんよ。ただ、お互いに協力関係を取り付けようかと思いまして」
そう、ここで人類側の鎮守府とパイプを繋いでおけば、前線基地の運営もはるかに容易になる。今のところの予定としては、あの島を本格的に要塞化して深海棲艦との戦争に備えるというものだが、資材がなければ
「服や日用品については、今後も支援しよう。貴官は、どのような支援を望む?」
「そうですね、毎日資材をコンテナ各ふたつずつの支援をお願いしたいところです」
「貴様、貴様今どういう状況かわかっているのか?」
「捕虜でないことは確かですね」とはぐらかすと、長門が苛立ちのこもった瞳でこちらを睨んでくるのがわかる。どうもこういう手合いは苦手だな、あとは提督がどう判断するかだ。
「わかった、支援させてもらおう。三水戦を助けてもらった礼を、鎮守府側として何ひとつできていないからな」
「提督、よろしいのですか?あの特型駆逐艦が敵のスパイである可能性も……」
「いや、それはないだろう。確証はないが、なんとなくわかる」
その後も、鎮守府での受け入れ態勢が進んでいることや、前線基地跡地の現状などをやり取りし、夕食とお風呂を済ませて割り当てられた客室で眠りにつく。
みんな、うまくやってるかな……
土佐「なんか瑞鶴ちゃんのジェラシーがすごい」
天城「顔を合わせた途端、なんか泣いて飛びついてきた……」