――………この沈鬱な空気、どうにかしてください……なんか、胃が痛いです……――
「綾波、それは俺のセリフでもある。こんな気まずい心境で食う飯なんか初めてだ……」
どうすりゃいいんだよ……と愚痴りたくなる視線の先には、雁首揃えてこちらを睨む七隻の潜水艦がいた。伊168の話では、潜水艦はマトモな食事も睡眠もとらせてもらえず、
「助けてくれたことは感謝してるわ。けど、ここの司令官の意図がわからない限り、私達はここへ落ち着く気はないわ」
「いないよ、ここに司令官は、人間はいない。いるのは艦娘と妖精さんだけさ」
「嘘!!嘘言わないで!!」
「艦娘と妖精さん以外いない」と言った途端、伊401が激情して手元にあったカレー皿を殴る。ガシャン、という甲高い音共に、皿に満載されたカレーライスが床に飛び散り、料理長たちが悲しそうな雰囲気をしているのがわかる。だが、伊401はそれを知ってか知らずか、怒りのままに俺に詰め寄る。
「ふざけてないでとっとと提督出して!!艦娘を道具扱いして使い捨てにする人間なんか滅べばいいのよ!!」
「なるほど、つまり鎮守府に戻る気はないと?」
当然でしょ、と吐き捨て、俺の胸ぐらを掴んで持ち上げる。その掴んだ手はガタガタと震え、抑えきれない怒りがあふれていることがよくわかる。自分たちを捨てた司令官への怒り、道具扱いした大本営への怒り、あらゆる権利を奪い取った人間への怒り、そのすべてがその視線にこもっている。帰る気がない、か。ならば大歓迎だ。
「歓迎してやろう、盛大に……な!!」
捕まれた手を振りほどき、フルスイングで伊401の頬をぶん殴って吹っ飛ばす。カレーを台無しにした分も含まれてはいるが、問題はそこではない。あんまり激情していると、話にならないので頭を冷やしてもらおうと思っただけだ。
「ここには、本当に人間はいないの?」
「にんげんはもうにげたのです」
「にんげんなんかいらないのです」
「ここにいた人間共は尻尾を巻いて逃げたそうだ、ここの妖精さんが証言してる」
妖精さんに追従するようにしてここの来歴をサクッと説明すると、伊401も納得したのか、 なんとか落ち着いてくれた。そこで俺は潜水艦たちに提案する。
「鎮守府に帰る気がないんなら、ここを帰る家にすればいいんじゃないか?」
傭兵か海賊か、どっちに転んでもいい未来がない気がする。