特型駆逐艦、綾波(偽)と申します。   作:刹那・F・セイエイ

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「潜水艦はデコイ」とか言った奴出て来い、って俺か。


俺、潜水艦の処遇に悩みます。

――………この沈鬱な空気、どうにかしてください……なんか、胃が痛いです……――

 

「綾波、それは俺のセリフでもある。こんな気まずい心境で食う飯なんか初めてだ……」

 

 どうすりゃいいんだよ……と愚痴りたくなる視線の先には、雁首揃えてこちらを睨む七隻の潜水艦がいた。伊168の話では、潜水艦はマトモな食事も睡眠もとらせてもらえず、休暇返上(オリョクル)有給剥奪(カレクル)週休零日(キスクル)残業上等(バシクル)艦隊囮(デコイ)の毎日で、楽しみといえば間宮さんがこっそり差し入れてくれるアイスくらいなものだった、とのことだ。つまり、伊168たちの所属していた鎮守府の提督は潜水艦を道具と見なし、使い捨てにする予定だったのだろう。だが、彼女たちは物言わぬ艦だったころとは違う、心のある一個の生命体だ。生体兵器と揶揄され、受けるはずだった権利をすべて取り上げられ、使えなくなったら捨てられる。そう、まるでこの前線基地のように。

 

「助けてくれたことは感謝してるわ。けど、ここの司令官の意図がわからない限り、私達はここへ落ち着く気はないわ」

「いないよ、ここに司令官は、人間はいない。いるのは艦娘と妖精さんだけさ」

「嘘!!嘘言わないで!!」

 

 「艦娘と妖精さん以外いない」と言った途端、伊401が激情して手元にあったカレー皿を殴る。ガシャン、という甲高い音共に、皿に満載されたカレーライスが床に飛び散り、料理長たちが悲しそうな雰囲気をしているのがわかる。だが、伊401はそれを知ってか知らずか、怒りのままに俺に詰め寄る。

 

「ふざけてないでとっとと提督出して!!艦娘を道具扱いして使い捨てにする人間なんか滅べばいいのよ!!」

「なるほど、つまり鎮守府に戻る気はないと?」

 

 当然でしょ、と吐き捨て、俺の胸ぐらを掴んで持ち上げる。その掴んだ手はガタガタと震え、抑えきれない怒りがあふれていることがよくわかる。自分たちを捨てた司令官への怒り、道具扱いした大本営への怒り、あらゆる権利を奪い取った人間への怒り、そのすべてがその視線にこもっている。帰る気がない、か。ならば大歓迎だ。

 

「歓迎してやろう、盛大に……な!!」

 

 捕まれた手を振りほどき、フルスイングで伊401の頬をぶん殴って吹っ飛ばす。カレーを台無しにした分も含まれてはいるが、問題はそこではない。あんまり激情していると、話にならないので頭を冷やしてもらおうと思っただけだ。

 

「ここには、本当に人間はいないの?」

 

「にんげんはもうにげたのです」

「にんげんなんかいらないのです」

 

「ここにいた人間共は尻尾を巻いて逃げたそうだ、ここの妖精さんが証言してる」

 

 妖精さんに追従するようにしてここの来歴をサクッと説明すると、伊401も納得したのか、 なんとか落ち着いてくれた。そこで俺は潜水艦たちに提案する。

 

「鎮守府に帰る気がないんなら、ここを帰る家にすればいいんじゃないか?」




傭兵か海賊か、どっちに転んでもいい未来がない気がする。

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