加賀さんたちがやってきた次の日、俺と綾波は工廠ドックに赴くことになっていた。ここは正規軍の基地ではないし、少しくらい寝坊してもいいだろうと二度寝しようとするが、しかしあまりの騒がしさに起きることを余儀なくされる。どんがらがっしゃん、とでも表現できそうなドデカい音が響き、いまだに寝ぼけている綾波が不服そうにしているのがわかる。どうやら、彼女もまた二度寝が楽しみだったらしく、それを邪魔されてたいそうご立腹なようだ。
――初めての二度寝が……誰ですか、こんなに騒がしくしてるのは……――
その騒がしい音の正体は、金剛型四姉妹だった。お前ら朝っぱらから何騒いでんだ、うるせーよ、と文句のひとつでも言おうとすると、今度は姉妹の間で怒号が飛び交っているのが聞こえてくる。飛び交う怒号を聞いていると、内容はここの妖精さんと俺の移籍についてであり、金剛が鎮守府側からある程度支援して独立した基地として稼働させるべきと「基地独立化」を掲げ、比叡が綾波だけを持って行って妖精さんは基地ごと放棄すべきと「綾波引き抜き」を提唱、榛名が綾波も妖精さんも連れて行くべきと「全員移籍」を支持し、霧島が最初からなかったことにして島ごと基地を吹き飛ばせばいいと「基地完全破壊」を頑として譲らなかった。
「金剛型の喧嘩のせいで叩き起こされたんだね、それはご愁傷様」
「ところで、加賀さんは?」
「姉妹水入らずでぐっすり寝てるわ、まぁ、私が耳栓渡したってのも大きいんだけど」
なんだかんだ言って優しいんだな、瑞鶴って。物言いは気に入らないけど、なんだかんだ言って頼れる先輩っていう認識なんだろう。そんなことを考えていると、瑞鶴が微笑みながら明後日の方向を向いてつぶやく。
「加賀さんって、やっぱり空母よりも戦艦のほうが似合ってるのかな……私みたいな出来の悪い後輩より、実の妹と砲撃戦やってたほうが幸せなのかな……」
ひとりごとよろしく加賀さんへの心境を口にする瑞鶴の表情が、次第に曇っていくのがわかる。おそらく、いくら実の妹とはいえ、憧れの人を取られるのが釈然としないのだろう。どうやら、この瑞鶴は赤城にも不満を抱いているらしく、「加賀さんがいないとヘタレのくせに」とか「妖怪食っちゃ寝」とか、だいぶ聞き捨てならないことをボヤいていた。そんな瑞鶴のボヤキを聞きつつ、昨日は大変だったなぁ、と思う。みんなを食堂へ案内し、楽しい夕食の時間がスタートしたのだが、空気を読まずにガツガツ食ってる金剛型の隣で箸を握って呆けている加賀さんに気付き、何度かつついて現実に連れ戻す。
どうやら、呆けていた原因は妹の土佐にあるらしく、死んだと思っていた妹がいて驚いているのだろう、と思っていると、やはり予想通りで妹の顔を見て呆然としていた。どうやら相当驚いていたらしく、土佐に促されるまで全く何も口にしていなかった。その後、お風呂タイムとなったのだが、姉とふたりきりになりたいのであろう土佐を無理やり連れて行こうとする比叡にどっかの脱獄囚よろしくワイルドな飛び蹴りを瑞鶴が放ち、あわや臨戦態勢になって火消しに苦労したことはここに記しておく。そのままぶつぶつと文句タラタラな瑞鶴をほっといて、俺は工廠ドックへ向かう。
「あやなみさん、ぎそうのてきせいけんさをはじめるのです」
艤装の適性、という耳慣れない単語を聞いて困惑していると、後ろから加賀さんと土佐がドックへ入ってくる。
「ああ、あなたは初めて聞くのね。艤装の適性って言うのは、その名の通り艤装に対する適性の高さを示す単位で、最大五隻の艦種まで適性があるの」
その後、加賀さんが説明してくれた内容はこうだ。艤装を装着するには、それぞれに最適な適正値のあるものを選び、装着することで艤装の真の力を発揮することができるパラメータのようなものらしい。なお、適正値がなくても装着自体はできるそうだが、燃費が著しく悪化し、身体に過負荷をかけ続けるため、適正値のない艤装は使わないことが望ましいとのことだ。艦種と艦名は一番適正値の高かった艤装から選ばれ、二番目から五番目に行くにつれて適正値が低くなるようだ。振り分けはわからないが、均等でないことは確かだろう。そうして加賀さんの説明が終わったのち、妖精さんが適性検査の準備を終えたのか、検査を始めようとしている。
「それでは、ぎそうのてきせいけんさをはじめるのです」
なお、イージス艦の適正値のある艦娘がいるかどうかは目下調査中とのこと。