とりあえず、この島を探索しようと思い至り、海岸沿いにぶらぶら歩くこと早数分。早速車のタイヤと思しきものを見つける。多少激しい劣化は認められるものの、使えないことはないだろう。タイヤの直径から推測して、おそらくセダンタイプのものだろう。とにかく、使えるものは何でも使う。そうでもしなければ、この先生き残れそうにはない。ほかにも鉄の棒一本、ガラス瓶ふたつ、大き目のスーツケースひとつを見つけた。
スーツケースの中身が気になるところだが、開けた結果面倒なことになっても困るが、やはり中身が気になる。好奇心に負け、持ち主不明のスーツケースを開けた中には、やはりめぼしいものは入っておらず、期待して損した、と勝手に落胆してしまう。タイヤは圧縮できないが故にどっかの変身ヒーローよろしくタスキ掛けにするしかなかったが、鉄の棒とガラス瓶は入るだろう。ほかにも何か漂着していないかとしばらく探してみるが、やはり何もなく、時間と体力を空費してしまう。
「ここから先に砂浜はなし、か。崖から落ちたら大変だな……」
ずぶ濡れになるだけならまだいいが、落ちた拍子に怪我でもしたら綾波がかわいそう、っていうより、俺が辛い。物理的にも、精神的にも。とりあえず、落ちないよう気をつけて歩こう。
スーツケースを片手に、これからも変わらないのであろう水平線を眺めつつ、あたりを散策すること一時間近く、ようやく人工の建物が見えてきた。背の高いフェンスと鉄条網、そのふたつだけでそこが軍事施設であることは容易に想像がついた。フェンス沿いに歩いて入れそうな場所を探し、軍事施設と思しき建物へと入る。
「お邪魔しまーす……」
れっきとした不法侵入のため、言う必要性はなさそうだが、なんとなく言っておく。中はやや埃っぽく、放棄されてだいぶ時間が経っていることを雄弁に物語っている。だが、建物の造りが新しいところをみるに、建てられて日が浅く、おそらくは前線基地として建てたはいいが、本格的に始動する前に放棄せざるを得なかったのだろう。
あちこち巡ってはみたが、がらんどうとした資材庫、幾多もの艦娘たちがひしめき合い、笑いあって少しずつ思い出を重ねていくはずだった艦娘寮、建設途中で放棄されたテーマパークよろしくうすら寂しい雰囲気を漂わせる入渠施設、そして、提督が着任して指揮を取るはずだった執務室。安定した住居を手に入れたのは嬉しいのだが、少々物悲しさも感じる。
ここへ来るはずの艦娘や提督はどうなったのか、なぜ誰も迎え入れることもできずに放棄されたのか、気になることは山ほどある。だが、今は雨風をしのげる空間を手に入れただけでもよしとしよう。荷物を置いたら、今度はこの前線基地の建物の位置を把握せねばならない。
「暗くなってきたし、本格的な探索は明日にしよう」
だが、暗くなってからの探索はいくら基地の中といえど危険を伴う。おそらく電気は通ってない以上、月明かりに頼んで歩き回ることになる。それはそれで幻想的で美しいのだが、やっぱり怖いものは怖い。初雪ではないが、明日から本気出そう。そう思い、俺は艦娘寮の一室を借りて休息を取ることにした。
おやすみ、綾波。また明日……
新品の廃屋って、なんか怖さより先にうすら寂しさを感じる。