特型駆逐艦、綾波(偽)と申します。   作:刹那・F・セイエイ

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加賀さん、突っ込まれるの巻。


番外編:鎮守府の日常・後編

「それで、私と翔鶴姉に頼みたいことって?」

 

 五航戦の部屋に入るなり、「頼まれてほしいことがある」と切り出されてやや困惑気味に返す瑞鶴。いきなりこんな話を切り出されたら、瑞鶴でなくとも困惑するだろう。だが、綾波を一刻もあの孤島から助けたい私としては、そんな小さなことを気にしている余裕はない。加賀は瑞鶴の困惑を無視し、続きを切り出す。

 

「この鎮守府からはずいぶんと遠く離れた場所にある孤島に建設された前線基地のその跡地、そこに駆逐艦がひとりサバイバル生活をしているの。サバイバルだけなら何の問題もないんだけど、問題は資材や食料、日用品などの支援物資をどうやってあの孤島まで輸送するかが問題なのよ」

「つまり、空母である私達に鼠輸送を手伝えと?」

 

 「ええ、けどそれ以上にもっと問題な点もあるわ」と続きを言おうとした途端、突然瑞鶴がため息をついて落胆した表情を見せる。何が言いたいの?このプランは完璧なはずよ。

 

「瑞鶴、どうしたの?ため息なんかついて」

「何もないような孤島から助け出して鎮守府(うち)で保護するっていうのは確かに素晴らしいし、賛成もしたい。けどさ……」

「何?何が言いたいの?言いたいことがあるならハッキリ言いなさい」

 

【挿絵表示】

 

「その話、()()()()()()?」

 

 ………まさか、そこを突いてくるとは思わなかった。予想だにしていなかった突っ込みに、加賀は珍しく間抜けな表情を浮かべて「えっ?」と返答してしまう。その返答が不服だったのか想定外だったのかは不明だが、瑞鶴がいつになくキツい口調で加賀を問い詰める。

 

「いや、「えっ?」じゃないでしょ、「えっ?」じゃ。まさか、件の駆逐艦の同意もとらずにこの移籍計画を進めてたわけ?」

「え、ええ……私としたことが、浅い考えだったわ」

「移籍計画には私も諸手を挙げて応援したいし、手伝えることがあるなら全力でサポートしたい。けど、相手の同意を得ないのならそれは「保護」じゃなくて「拘束」、鎮守府へ「連行」してるのと同じなのよ」

 

 確かに、この問題点はすべて瑞鶴の指摘通りだ。いくらこちらの受け入れ態勢が整っていたとしても、綾波が嫌がればそれだけでこの計画が無駄になる。まずは綾波と話し合うのが先決か。だが、出撃も遠征も命じられていない現状では海に出ることも叶わない。どうすれば……

 

「私と加賀さん、そして金剛型の姉妹を連れてその孤島まで行きましょう。出撃理由は「空母機動部隊による周辺海域の調査」とでもしておきましょう」

「瑞鶴、いくらなんでも出撃理由をでっち上げるのは……」

「翔鶴姉、たとえでっち上げの理由を使ってでも、加賀さんはその駆逐艦に会いに行く義務がある。そうでしょ?加賀さん」

 

 ここまで言われたのではぐうの音も出ない、まさか瑞鶴に指摘されるとは思ってもみなかった。その指摘した瑞鶴は「何もないんじゃ、退屈だろう」と愛読書の小説を片手に悩んでいる。プレゼントでもするつもりだろうか。

 その後、瑞鶴が提督に出撃を意見具申し、なんとか出撃の許可が下りたらしい。何やらニコニコ顔で親指を立てて嬉しそうに報告してくる。とりあえず、綾波のもとへ迎えるということだけはわかった。

 各自が綾波にプレゼントするのであろう手土産を艤装に格納し、加賀たちは出撃準備に入る。

 

「一航戦、加賀、出撃します」




綾波「あっ、肉じゃが用意しないと……」

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