「妖精さんも過労で倒れるんだな、知らなかったよ」
「われらはどうぐではないのです、こころもあるし、いたみもかんじる」
「われらをどうぐあつかいするなら、あやなみさんでもゆるさないのです」
「すまん、俺が悪かった。謝ろう」
知らなかったとはいえ、これは失言だったな。自身の失言を詫び、俺は料理長のためにおかゆでも作ろうと厨房に立つ。とはいえ、普通の人間の感覚で作れば、確実に余ってしまうし、かといって妖精さん用の量を用意できるだけの調理器具があるわけではない。さて、どうしたものか……と悩んでいると、畑から帰ってきてからずっと黙っていることに気付く。どうしたんだ?こういうとき、綾波なら積極的に声をかけてくるはずなんだが……
――過労、ですか。もしかすると、この前線基地建設を立ち上げた時から妖精さんたちの福利厚生を無視していたのかもしれません――
「つまり、軍の上層部は妖精さんを使い捨ての
――ええ、そうでなければ人間に対して憎しみを抱くことはありません。司令官に対して露骨な不快感を示すのも、それが理由でしょう――
面倒なことになったな……今までこの孤島を開拓してきたのはあくまでどこかの鎮守府に拾われるまでの仮拠点として使うためであり、いわば次のステップへ進むための足掛かりでしかない。だが、これを聞いた以上、迂闊にここを離れることができなくなった。おそらく、自分たちの福利厚生を無視して前線基地を建設され、危険になった途端、我が身可愛さに自分たちを置いて逃げる。自分さえよければ平然と他者を踏みにじる自己中な生物、妖精さんたちの人間に対する評価はそんなところだろう。
「われらはふくりこうせいがないどころか、まともなねどこもしょくじもあたえられていないのです」
「あやなみさんがここへきて、やっとあたたかいしょくじとたのしいじかんをしったのです」
「だから、あやなみさんはにんげんなんかにわたしたくないのです」
「………わかったよ、俺はどこへも行かないし、お前たちを見捨てもしない。ここが俺たちの家なんだ、ほかに行く当てはないだろ?」
俺のその言葉に、妖精さんたちは安心したのか、過労で倒れた料理長を寝かすための準備をする。とりあえず、こっちは安泰だな。昼食は、朝と同じメニューで我慢し、そのまま昼寝しようかどうか悩む。料理長が過労で倒れた以上、工廠長もまた、過労で倒れている可能性があるからだ。気になって工廠ドックへと向かうと、工廠の妖精さんたちに昼寝するよう促されたため、その言葉に甘えて寝ることにする。
――四時間経ったら起こします、それだけあれば十分疲労も抜けるでしょう――
「ああ、四時間経ってなくても
綾波のおやすみなさい、という言葉を最後に視界がブラックアウトする。どうやら四時間何もなかったのか、起こすことを躊躇ったのか、綾波が起こしてくることはなかった。そして、おやつの時間を少々過ぎたころ、俺は料理長の容態が気になり、食堂へと向かう。どうやら、睡眠が十分にとれていなかったことが過労で倒れた原因らしい。その元気になった料理長が、ぴょんぴょん飛び跳ねて回復したことを報告する。
「りょうりちょう、ふっかつしました。これからもあやなみさんのためにりょうりつくるです」
「回復おめでとう、といいたいところだが、大事を取って今日一日は休んだほうがいい」
そう、回復したとはいえ、まだ万全とは言い切れないのだ。妖精さんだって、体力無限のマシーンではない。休息は重要だ。これからは妖精さんの福利厚生も考えねばならない、島の開拓とともに、やることがひとつ増えたようだ。
手早く夕食を済ませ、風呂に入る。俺は明日の予定と妖精さんの福利厚生を考えつつ、俺は眠りについた。
(・ワ・)「あやなみさんは、にんげんのまのてからみんなでまもりぬくのです」