クリームソーダをようやくもらえてご満悦なシマカゼが元の世界に帰る準備をしている間、俺は新入りの第一七駆逐隊から話を聞くことにした。内容は無論、人間不信の理由。元ブラック鎮守府から逃げ出して助けを求めたのか、あるいは人間との折り合いが悪くなって居心地が悪くなったのか、いずれにせよ、転属している以上何かしら理由はある。理由がないのは悪意だけで十分だ。
「ブラック鎮守府、と言えばお分かりになられるでしょうか?そこの人間は、利権と保身に走って
「憲兵共は何やってんだ、給料泥棒共が」
口を開いた浜風から聞かされた答えに、思わず口をついて出て来た俺のその苛立ちにも似た呟きに対し、「なら、その憲兵までもが腐っていたらどうする」と吐き捨てたのは、腕と脚を組んでこちらを睨む磯風。磯風は、こちらの動揺を知ってか知らずか、磯風はさらに続ける。
「奴らは、提督の不祥事をもみ消すかわりに艦娘を
「提督は腐っている、憲兵は当てにならない、周りの艦娘は媚びを売ることに必死で助けてくれない。あんなところで生かされ続けるくらいなら、ここで死んだほうがいい」
磯風と浜風が苛立ちと憤りを舌に乗せ、浦風と谷風もまた口にしないものの、同じ感情を抱いているのだろう。そうでなければこんな怒りに満ちた目はしていない。とりあえず、しばらくは何もせずのんびり過ごしてもらうとして、今やるべきことはシマカゼを元の世界に送ることだ。
トライドロンを回して隣にシマカゼを乗せ、タイヤフエールでディメンションキャブを使い道を作る。行先は国立音ノ木坂学院、シマカゼが進学する学校らしい。そこでの待ち合わせのため、向かっていたらこんな世界に吹っ飛ばされたらしい。それはご愁傷様なことで。とりあえず、朝潮は……あっ、あそこだ。おーい。
「シマカゼ、遅刻です…よ……?」
「んー、何?俺の顔になんかついてる?」
「えっ、いや、その、ありがとうございます……」
その後、しどろもどろになっている朝潮に事情を説明し、「また会おう」と約束して――この時にシフトデッドヒートをお守りと称して渡した――シマカゼと別れる。あいつ何かと危なっかしいからな。そして元の世界に帰って基地に戻る道中、ベルトさんが何を思ったのか突然質問してくる。
「いいのか?綾波。シフトカーを渡してしまって」
「ああ、いいよ。デッドヒートの力は使えなくなったけど、後悔はしてない」
ベルトさんに言ったとおり、俺は後悔なんかしていない。シフトデッドヒートと引き換えに、シマカゼとの絆を手に入れたのだから安いものだ。
さて、明日から何しよう……
犬といえば夕立、異論は認める。