特型駆逐艦、綾波(偽)と申します。   作:刹那・F・セイエイ

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雲龍「ここの提督は大丈夫かしら……」


番外編:命の恩人・後編

「すみません、三笠提督。できれば、今日中に帰りたかったところですが……」

『構わないわ、あなたたちもそっちでゆっくり休んできなさい』

 

 三笠提督から――出撃前から万が一を考慮して許可されてはいたが――外泊の許可をもらい、トラック泊地の提督へと挨拶に向かう雲龍。たとえ一晩だけとはいえ、お世話になるのだ。失礼があってはならない。支援のために持ってきた食料はすでに貯蔵庫行きになっているし、新型艤装はここの艦娘たちを対象に天城と葛城が使い方と整備方法を教えている。あとはここの提督に挨拶し、客室へと案内してもらうだけだ。

 

「藤永基地所属、雲龍、入ります」

「そう硬くならないでくれ、頼んだのはこちら側なんだ」

 

 そう言って硬い挨拶を止めようとするトラック泊地の提督は気さくな感じをしており、私たちを捨てたあのロリコン提督とは大違いである。彼が元からこういう性格なのか、外交用の仮面を被っているのかは一見しただけでは判断がつかないが、その手の問題は保留でいいだろう。そもそも、そういう仕事は三笠提督のものだ。などと、自分とは無関係そうなことに傾いていた思考を引き戻し、今回の契約内容を説明する。

 

「今回の支援内容ですが、食糧支援、及び新型艤装の貸与(レンドリース)、並びに同艤装の弾薬支援となります。契約料は来る前にお伝えしたとおり、年間10万円。この契約内容に、間違いはありませんか?」

「ああ、確かに間違ってはないね。契約料も、契約内容も提示されたとおりだ」

 

 その後は細かい内容の確認だけで終わり、何もすることがなくなったので天城と葛城の元へと向かう。見ると、貸与(レンドリース)した拳銃(L.ホーク)を片手に射撃訓練を施している姿が見える。どれ、私も混ざるか。そう思った雲龍は、腰元からL.ホークを引き抜き、デモンストレーションよろしく目の前の的を次々に撃ち抜いていく。妹たちにとっては見慣れた光景なのだろうが、トラックの艦娘たちには新鮮に見えるらしく、時折称賛の声が上がるのが聞こえる。おそらく、両手が常にがら空きの戦艦にとっては新鮮に見えるのだろう。

 

「両手が開くぶん、そこに火器を搭載できるわけか。艦娘が人型である最大のメリットといえるな」

「ええ、そうですね。それに、空母にとっては自衛のための砲を手にすることにもなるため、そちらの点でもメリットは大きいです」

 

 自衛のための砲が手に入る、空母にとってはこの上ない朗報だ。今まで、護衛のために駆逐艦や巡洋艦を随伴させねばならなかったところを、自前の主砲で補うことができ、なおかつ空母には不可能だった夜戦への参加が可能となった。この2点に関しては、いくら感謝してもしきれない。

 この後に開かれたトラック泊地主催の親睦会ののち、あてがわれた客室へと案内され、そのまま眠りにつくのだがどうしても気になって仕方ないことがある。

 ………綾波さんはいったい、何をやろうとしているのだ……?




綾波「そういえば、連装砲ちゃんってどんよりの中でも動けてたよな。ってことは、もしかして……」

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