俺、綾波になりました。
ざざぁ、ざざぁ、と耳をくすぐる波の声に起こされ、俺は重い瞼を擦って開く。目を開いて見えたのは青い空、白い雲、青い海、白い砂浜。それが俺の視界に飛び込んできたすべてだった。
とりあえず、ここがどこかを確かめようとして次に見えたのはローファーとハイソックス、そしてスカート。そうなるともしや、という疑念が俺の中にふつふつと沸いてきて、慌てて海に顔を写そうとして、そもそも写らないことを思い出し、ひとりヘコむ。
「あー、ここどこよ……」
現状もわからず、思わずひとりボヤく声で、今の俺が『誰』かを理解してしまう。
特Ⅱ型駆逐艦一番艦『綾波』、それが今の俺だった。スカートの中の『あるもの』はあとで確認するとして、今はここがどこかを確かめることが重要だろう。運がよければ、放棄された鎮守府跡地――ほどではないにせよ、人が住めそうな建物――が見つかる可能性もある。
周辺に綾波の艤装がない以上、海に出て探索という選択肢はなくなった。あとは、このどことも知れない島を探索する以外にやることはないわけだが、ここはどこだ?ぱんぱんとスカートについた砂を払いつつ、先程から気になっていたスカートのポケットの異物を取り出す。俺の使っていたスマホが、そこにあった。しかも、圏外ってなんだっけと言わんばかりにサクサクネットにつながる。この謎の通信速度はとりあえず脇へと追いやり、マップのアプリを開いて現在位置を確認する。
どうやら、この島は日本からはずいぶん遠く離れた場所にあるらしく、広さは淡路島に相当するだろう。もしかすると、本当に鎮守府跡地が見つかるかもしれない。そんな淡い期待を抱きつつ、俺は海岸沿いにこの島を探索することにした。海岸沿いに探索を始めた理由は三つ、一つ目はこの島の周囲を把握しておきたいこと、二つ目は放棄された鎮守府跡地を探すなら、島の周囲を辿っていけば探しやすいだろうと判断したこと、そして三つ目は、丸腰のままで森に入っても身を守る術がないこと、この三つだ。
いくら念願だった『艦隊これくしょんの世界』に来て、お気に入りの駆逐艦綾波になれたとはいえ、今の自分も境遇も、あくまで借り物でしかない可能性もあるのだ。もし、この身体を返す日が来たとして、その返された身体が傷だらけのボロボロだった場合、そんなものを返された綾波としても迷惑極まりないだろう。ゆえに、海岸沿いの探索となった。多少時間はかかるが、こちらのほうが無難で確実だろう。
「綾波の身体傷物にするわけにもいかんし、多少時間がかかってでも地道に探索するとしよう」
綾波の身体を傷物にしたくないのは返したときに傷だらけだったら迷惑だろうというのもひとつの理由だが、本当の理由は別にある。それは……
綾波の柔肌が傷ついたら、俺の
多いのはご都合主義じゃない、綾波への愛だ。