超平和主義鎮守府   作:たかすあばた

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ちょっとシリアス気味の長編入ります。


第6話 波乱の幕開け

「ハァ…」

 軽巡寮のある部屋で、大きなため息をついている者がいた。天龍だ。

 「あらぁ?どうしたの天龍ちゃん」

 心配してるのかからかってるのかわからないような呑気な声をかけるのは、同じ部屋で暮らす天龍の妹、龍田。龍田にはため息の理由が聞かずともわかっているのか、終始ニヤニヤしている。

 「別に…」

 「提督のコトでも考えてるのかしら~?」

 「ち、ちが…」

 慌てて否定しようとした天龍だったが、相手は妹だし、こう見えて本気で心配してくれているのだろうと思い、否定するのをやめた。

 「その…さ」

 「提督に怖がられてるのが気に入らないんでしょ~?」

 ギクッ!

 という音が聞こえそうなくらいに肩を震わす天龍。見事なまでの図星である。

 「ぷっ…あっはっはっはっはっは!あの長門さんを一瞬で片づけた提督が、天龍ちゃんのことが怖いなんて…あははは!」

 「わ、笑うことねえだろ!」

 そう。提督は戦闘においては鎮守府一、ひょっとすると全艦娘の中で争っても敵う者がいるのかわからないほど強い。が、基本的には臆病で、ビビりなのである。そのため天龍や摩耶のようなオラオラな感じの相手には、一種のアレルギーのようなものを持っていた。

 「でも天龍ちゃん、怖がってる提督を見て楽しんでるんじゃないの~?いつも脅かしてるんじゃない」

 「それはそうだけど…」

 天龍は思い出す、提督と廊下ですれ違った時。前を走る駆逐艦たちには保護者のような苦笑いで、「走ってると霧島とか大淀ら辺に叱られるぞー」と語り掛ける。そして天龍が近づくと、半径2Mに近づかないように迂回したのだ。そして目を合わせず、「よ、よお…」

 

 あれは、流石に、傷つく。自分だって、本当はもっと提督とお話してみたいのだ。駆逐艦の奴らみたいに顔をもっと近づけて…

 「おめかししてデートにでも誘ってみたらど~お?」

 「…え、は?」

 考え事をしていた上に龍田のとんでもない助言に、リアクションが遅れる。

 「おま、何言っ…で、デート!?」

 「なんだかんだ言って、提督にもっと女の子として見てもらいたくて困ってるんでしょ~?」

 「馬鹿言ってんじゃねえよ!俺はあいつの態度が気に入らないって言ってるだけで…」

 「ふ~ん?」

 龍田がずい、ずいと顔を近づけてくる。な、なんだよ…なんて言おうとしたら

 「提督が来てから香水付け始めたくせに」

 「なぜそれを!?」

 今の提督が来た頃龍田はまだいなかったはず!?誰かに聞いたのか!?

 「あら~?知らないわよ~。」

カ、カマかけやがった!

「うふふ~天龍ちゃん顔真っ赤~。恋する乙女ね~」

「う、うるせえうるせえ!俺だって女だよ!悪い…」

「で、どうなの~?提督とデートしたい?」

!それは…叶うのならば…

「し…」

「ん?」

「したい…デート…」

「良く言えました!」

か~っ!顔から火が出そう!ただなぁ…

「でも…俺が誘ったところで…」

警戒されるのは目に見えてる。

「大丈夫よ~、私にまっかせなさ~い」

「ほ、ほんとか!?」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「作戦」当日。作戦って言っても大したものではないけれど…今私は、鎮守府の正門で提督を待っている天龍ちゃんを草葉の陰からうかがっているわ~。うふふ、天龍ちゃんったら、いつもの動きやすそうな服装とは打って変わって、丈の長いデニム生地のスカートに、胸元に大きな蝶著結びをあしらった白いフワフワしたシャツ、眼帯もマニピュレータも外して、手には淡いブラウンのハンドバッグ。いつも、買い物に行くと一生懸命選んでいたものね~。どこから見てもかわいい女の子だわ~。

 

【挿絵表示】

 

「お!提督が出てきたよ!」

一緒に観察しているのは隼鷹ちゃん。ウチには飛鷹ちゃんがまだ来ていないせいもあってか、よく私や天龍ちゃんと一緒に出掛けるのよね~。

「龍田お待たせ…って、うぉっ!?」

提督には私と隼鷹ちゃんでお出かけとしか言ってないのよね~。遠目から髪の色で私だと思ったのかしら、びっくりしたみたい…あらやだ、提督ったら私服の天龍ちゃんに見とれてるみたいだわ~。

「『うぉっ』とはなんだよ、失礼な奴だな」

 

あ~、天龍ちゃんカワイイ、照れてる!照れて悪態付いちゃうの!?ヤダ、トキメクじゃない!

「お~初々しい、なんで悪態付いちゃうかな天龍ちゃんは」

隼鷹ちゃんもニヤニヤしてるわね。

 

「あ、いや、わるい…」

「…何ジロジロ見てんだよ」

「え、あ、ご、ごめん何でもない」

 

なんでぇぇええ!?可愛いとか言ってあげればいいじゃん!素直になれない初恋でも見てる気分になるじゃない!

 

「…意外と似合うなと思って」

「っ…!ひ、一言余計だろ!」

「え、あぁ、に、似合ってる」

「~~~~っ!」

 

ヤメテえええええ!このトキメキ止めてえええ!

「お、おい龍田大丈夫か?」

天龍ちゃんも提督もカワイイいいいい!!今すぐ抱きしめさせてあげたい!二人の手を取って握らせてあげたいあああああもう無理!そろそろ出よう!そう思った時だった。

 

「ヘーイ!天龍いったいそこで何してるネー!」

な、なな…なんて邪魔を!

 

「こ、金剛!な、何って…」

「テートクをティータイムに誘おうと思って執務室に行ったら誰もいないから探してみたら…こんなおめかしして、テートクを誘惑でもするつもりだったですカ!?」

「はぁ!?んなわけねえだろ、何言ってんだ馬鹿じゃねえの!?」

「そ、じゃあテートクは連れて行っても問題ないよね?テートク、妹たちも楽しみにしてるネ!」

「あ、ちょっと…」

「お、おい、先に龍田たちと待ち合わせ…」

 

「クッ…仕方がないわねあの紅茶馬鹿…」

金剛をどうにかしなければ…そう考え、行動しようとした私の肩に手を置いたのは、隼鷹。

「龍田、お姉ちゃんをしっかり導いてやんな」

「隼鷹?」

隼鷹は、おもむろに懐から一升瓶を取り出しラッパ飲みすると、草葉から飛び出していった。

「よ~う金剛、良~いところにいたぜ~」

「じゅ、隼よ…う!?こんな昼間っから何飲んでやがるですか!?」

「かて~こと言うなよ~。ちょうど飲み仲間探しててさ~、一杯付き合えよ~」

ガシッ

「ちょ、く、酒クサッ!隼鷹、放すネ!隼よおおう!」

そしてこちらにさりげなく目配せし、ウインク。隼鷹、今度良いお酒探しておくわね!私は少し時間をおいて、さも待ち合わせに遅れた風を装い二人に合流して買い物に出かけたわ。

出かけた先は、地元のショッピングモール。今日は週末。沢山の人で賑わっているわ~。こんなにたくさんの人が歩いていると、「いつの間にか誰かがはぐれていてもすぐには気づかなかったりする」のよね~。さて、二人での時間を楽しんでね~。


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