超平和主義鎮守府   作:たかすあばた

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修羅場的なのを描こうとした。


第5話 正妻

 艦娘のキラ付けと言えば、提督なら誰もがめんどくさがる作業だろう。来る戦闘のために別の戦闘で勝利し、艦娘の気分を高揚させなければならない。そのため、海域に移動する分の燃料はかかるし、ウチみたいに深海棲艦が演習気分で付き合ってくれるような場所でもなければ弾薬も消費する。

 だがウチの場合、海域に移動する必要も、演習をする必要もない。何故か?鎮守府内での訓練でキラ付けできるからだ。何故訓練程度でキラ付けできるのか?

 

それは相手が俺だからだ。

 

 「まだまだ、筑摩には負けん!」

 「!姉さん、オーバードブーストよ!」

 「Hey、先回りするネ!」

 「いや違う!フェイントじゃ!戻れ金剛―」

 「Oh!」

 金剛が全身真っ赤に染まる。

 「あうう…大破判定ネー。退がってるヨー…」

 「クッ、お姉さまの仇は私が…!」

 訓練だからPA(プライマルアーマー)は起動させなくていいし、そうすると消費するのは俺の体力だけ。消費する燃料は最低限で済む。それに、本気を出すと亜音速で行動する俺を相手にするから、皆メキメキと実力をつける。最近では、昔からいた利根やら曙やらはずいぶん対応してきており、訓練中何発か直撃判定をもらうのだ。それでキラが付く。ただ、この特殊な訓練のおかげでおかしなことも起きてしまっている。

 「っがああ!」

 「おそい…そんなんじゃ…提督は任せられない…夢のまた夢」

 「くっそぉ、駆逐艦風情が…!」

 「私だって…やればできるし」

 俺たちから離れたところで長門の相手をしているのは、初雪。長門の錬度は、50ちょい。初雪は、20ちょい。何故レベルの低い駆逐艦がレベルが倍近くある戦艦の相手をしているか?それで十分だからだ。

 俺が長門に告白された次の日、長門は声高々に食堂で皆に告白宣言をした。長門は前の鎮守府で50レベルに達していた。ウチで一番レベルが高い利根でも、35レベル。確かに今一番ケッコンカッコカリに近いのは、長門である。が、加賀や天龍や他の艦娘たちが猛反発。自分の限界をさらに超えた力を手にできるシステムだ、自分が一番に欲しいと思うのは当然だろう。どうしてもというなら、訓練でウチの駆逐艦たちを倒して見せろと言い放ったのだ。

ふつうは、錬度というのは戦闘に出た経験と実力に伴い、上がっていくもののはず。が、ウチの面子はレベルとは関係しない訓練の中で規格外(俺)を相手にしているせいで、実力がレベルを追い越すという矛盾した状態が発生しているのだ。その結果、数値的な錬度詐欺の状態になってしまい、他の鎮守府との演習では度々苦情を入れられる始末になっている。

つまりだ。ウチにしばらくいる艦娘たちにとって今の長門は例え50レベルだろうが、動きも、反応も、遅い。

因みに長門に限った話ではなく、ウチに来た艦娘の訓練は、始めは他の奴が担当し、俺は所謂最終関門的な扱いになっている。

「ビッグセブンも…大したことない…」

「っ!舐めるな…ビッグセブンは驕りではない!プライドだぁああ!」

「ん…その意気」

初雪は少し微笑んで長門の砲撃をかわしつつ、一定の距離に張り付いて少しづつペイント弾をぶつけていく。アイツああ見えて、相手に合わせてやる気を引き出すの上手いんだよ。っと、筑摩のペイント弾が俺の肩をかすめた。

「うぉ、やべっ」

「甘いな提督よ…その行動パターンも予測済みじゃ!」

…俺も、いつまでもただ訓練に付き合ってるばかりではない。ゴキブリじゃないけど、俺みたいのが一人いる以上、似たようなのが他にもいる可能性はきっとある。俺はいつもとは違うQB(クイックブースト)を吹かした。サイドブースターが、普段の倍近いサイズの火柱を放つ。

「なっ、早っ…」

二段QB。ゲームではR2ボタンを半押しした状態からさらに押し込むことで、普通のQBよりも大きく移動できる高等技術。2008年の発売から現在でもオンラインで戦ってる連中はこんなもの当たり前だという。俺はオフラインとか友達との間でぬくぬくやってるのが好きだったから、そこまで極めようとはしなかった。要するに、俺よりもプレイが上手かった奴がCORE息(こあむす。命名俺。)に転生して敵に回った場合を考えて、俺も二段QBを体得しておく必要があった。もう一度、二段QBで利根に急接近しようとするが、失敗して普通のQBが出る。仕方がなく、上空に移動して死角からライフルを吹かした。

「はい、利根大破ー。」

「ぐぬぬぬ…お主、まだ技を隠し持っておったのか!卑怯じゃぞ!」

「隠してなんかいないよ~。俺もまだまだ成長してるってこと。」

俺はそう言うと残りの4人を片付けに行った。

「あ奴め…最近ようやく目で追え始めたと思ったのに、まだ速くなるというのか…」

「テートクに胸を張って海を任せてもらえるようになるにはまだまだ時間がかかりそうデース…」

訓練待機場所に戻った二人は、大きなため息を漏らした。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

私の司令官ったら、とっても変わってるわ。何がですって?まず思いつくのは、なんといっても海に浮いて戦えちゃうの!人間なのに!しかもとっても強いのよ!でも、自分で戦いに行くのは川内さんに禁止されちゃったんですって。それはそうよ!ここは鎮守府なんだから、頼ってもらわなくちゃ私たちがいる意味がないものね!それでも、皆からは度々戦闘に関する相談を受けてるみたい。本当は、私たちとはスタイルが全然違うから訊きに行っても仕方がないんだけど、司令官ったら優しいんだから、ついつい話を聞いてあげちゃうのよね。それに、解決になるような回答を貰えなくても、相談しに行った皆はとっても嬉しそうに帰っていくんだから、さすがは司令官、何度も来たくなっちゃうわよね!

でも、もう一つ変わってて困るのは…

「あー司令官!またお掃除してるの?そういうのは私たちに頼ればいいって言ったじゃない!長門さんも、手伝ってないで止めてあげなさい!司令官はもっと司令官らしくしなくちゃいけないんだから!」

「む、そ、そうなのか?すまん雷…」

「いや、だって汚れてたら気になるじゃんか…」

「いいから、そのハタキ貸しなさい!あとは私がやってあげるから、司令官は執務をしてて!」

そう、放っておいたら身の回りのことは何でも自分でやろうとしちゃうの!ご飯を食べ損ねて食堂が閉まっちゃったときだって、お部屋の台所で自分で作ろうとしちゃうんだから、油断も隙もあったもんじゃないわ!

「まったくもう…始め長門さんがお嫁さん宣言した時はどうなるかと思ったけど…やっぱりあなたは司令官を任せられる器ではないわね。待ってて司令官!お昼御飯がまだでしょう?作ってきてあげるわ!」

「な…貴様言わせておけば…!私も大人の女だ!子供なんぞよりも手際よくかつうまいうまい飯を作れるぞ!提督よ、少し待っていろ。今、唸るほどうまい昼飯を堪能させてやる」

「いや、今ならまだ間宮さんとこやってるし…別に」

長門さんと言い争いながら部屋を出ようとすると、扉がひとりでに開いたわ。そこにいたのは…

「失礼します提督、加賀です。お昼はまだでしょうか。僭越ながら私、お昼ご飯をご用意いたしました。是非ご賞味いただきたいのですが」

我らが正規空母の一角、加賀さん。司令官に好意を寄せていながら、いつも奥手で中々アピールできていなかったのに、ずいぶんと大胆に出たわね…。

「二人とも?こんな扉の前にいつまで突っ立っているのかしら?何もないのならばどけてくれないかしら。邪魔よ」

「貴様…私の伴侶に手料理でアピールしようとは…いい度胸だな?」

「か、勘違いしないで。赤城さんに手料理を振舞いたいから、提督に味見に付き合ってほしいだけよ」

「それにしては一杯作ってあるじゃない。味見だったら一口ずつでもよかったんじゃないかしら?」

「そ、そうだ貴様!さては妙なものでも入れて、提督を眠らせてどうにかしてしまおうとしているのではあるまいな!かくなる上は私自ら成敗してくれるぞ!」

「誤解を招くようなこと言わないで。それに、そういう言葉はせめて駆逐艦の皆に勝ってから言うことね、ビッグセブン。初雪ちゃんは駆逐艦四天王の中でも最弱よ?」

「な…あ、あれよりもさらに強い駆逐艦が…あ、後3人もいるというのか…?」

「うるっさいわお前ら!執務に集中できないっつうの!」

突然言い争いに夢中になっちゃってて、ここが執務室だっていうことを忘れちゃってたわ…

「加賀、味見くらい付き合うよ。今書類片付けるからそれ持ってきてくれる?」

「ありがとうございます」

「提督…」

「司令官…」

「お前ら、気持ちは嬉しいからさ、少し落ち着けよ。加賀がそんな変なコトするわけないだろ?よかったら、まだ別の機会にそれぞれご飯作ってくれよ」

「す、すまないな…」

長門さんもすっかり意気消沈しちゃったわね…私も、頼ってほしかっただけなのに、つい熱くなって注意されちゃったし…

「期待してるからさ」

そう言ってニッと笑う司令官。それを見て、私も長門さんも表情がぱぁっと明るくなったわ!

「任せて司令官!雷にもーっと頼りなさい!」

「何を言う!提督よ、あなたの身の回りのことはこれからも私に任せておくがよい!必ずやあなたに相応しい女になって見せよう!」

「私よ!」

「いいや、私だ!」

 

「物好きな奴らだな」

「…そうですね…。はい提督、あーん」

「いや…自分で食うけど」

「提督は執務をなさっていてください。これなら食事も同時に行うことができて効率がいいです。はい、あーん」

「!き、貴様何をしている!それは私の役目だ!」

「何言ってるの、長門と加賀は下がってなさい!ほら司令官、私が食べさせてあげるから!…ちょっと加賀、それよこしなさい!」

「ちょ、お前ら飯の近くで暴れんな!」

「くっ、いいところだったのに…!」

「ヘーイ加賀ァーー!抜け駆けとはいい度胸ネー!」

扉を開けてきた新たな乱入者は金剛さん。手に持っているのは…

「テートクゥー!ワタシテートクの大好物の焼き餃子作ってきたネー!」

「うわ馬鹿おまえ真昼間から餃子ってあるかよ!ちょ、ま、脂飛ぶから!書類片付けるから待って!」

「提督!」

「司令官!」

「提督」

「テートク!」

「…加賀」

「!はい!」

「大丈夫、きっと美味しいから赤城に持って行ってやれ。金剛、餃子は晩にまた持って来い」

それだけ呟くと、司令官はOBを吹かして執務室から出ていってしまったわ。

「No…way…」

それからしばらく、司令官はお昼に食堂が開くと、すぐにお昼を済ませるようになったわ。その結果、いつも食堂で司令官に会えない子達による「あーん」合戦が繰り広げられたのはまた別のお話。

 


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