超平和主義鎮守府   作:たかすあばた

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何がやりたかったのか?俺も知らん。


第4話 対バン

盆を手に取り、食堂の列に並ぶ。今日は休日ということもあってまだ寝ている艦娘もいるようで、朝食をとる人数はまばらだ。いつもなら静かな食堂の風景だったのだが、このところはうるさいのが増えた。

「おはようございます司令官!休日だというのにお早いですねえ!ご立派です!」

「おはよ。何やってんの?」

さっきから食堂でちょろちょろしている、重巡の青葉。そう、噂のやつが遂にうちにも来てしまったのである。

「はい!わたくし何分新参者ですから、一日でも早くこの鎮守府に馴染めるよう、他の艦娘の方々に色々と伺っていました!」

「そっか、朝早いし、程々にな」

「はい!」

って、聞いてるだけだと普通にいい子。噂だけで警戒してた自分をちょっと反省しようかな。ってくらいに。

「あ、それでですね、ぜひ司令官にもいろいろとお伺いしたいのですが…」

「おい貴様、これから提督は私と共に朝食をとるのだ。あまり粗相が過ぎるとこの長門が黙っていないぞ?」

もう一人はこいつ、長門。あの対決以来、やたらと引っ付いてくるようになった。今朝なんか非番だっつうのに5時から起きて、俺が起きてくるまで部屋の前で待っていやがった。なんつうか、俺みたいなやつにそんな引っ付いてきたって後々後悔するだけだと思うんだけどねぇ?

 

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私はあのしつこい重巡をどうにか追い返し、提督と共に席に着いた。さて、提督もなかなかウブな方だ。こちらから色々とアピールしなければ恋仲になるのは時間がかかるだろう。私はいただきますをすると、スプーンにカレーを乗せて提督に差し出した。

「ほら提督、あーん」

「…いや、べつにいらないけど」

「そういうな、私と貴方との仲だろう。遠慮せずにほら」

「やめろってハズイから!」

提督は顔を背けたりして抵抗する。無論、こうなることなど想定済みだ。このやり取りで、一滴のカレーがスプーンから、提督の白い制服に向かって落ちる。ニヤリ。カレーの染みは洗っても落ちにくい。白い服など特に。その汚れをきれいさっぱり洗い取って見せれば、提督も私の女子力に

「プライマルアーマー!!」

ブォン!という音とともに提督が緑色に光り、服に付きそうになったカレーが光に触れると蒸発するように消えていった。

「ったく、染みになるところだったじゃねえか」

「おお!今のが電さんや川内さんのおっしゃっていた特殊な防護膜ですか!」

「うん、服に付いちゃうと発動しても無駄だけど、その前だったら外飛んでる虫とかもこれで弾ける」

「便利なものですね~、普段から点けてればいいじゃないですか」

「いや、これ点けてると、何故か工廠の燃料が少しずつ減っていくんだよね。つか、周りの物にも触れなくなるし」

ぐぬぬ…流石、私をねじ伏せて見せた男、伊達ではなかったということか…

「あれ、どうしましたか長門さん、悔しそうな顔をして」

「なんでもない、貴様、用はそれだけか?ならばとっとと離れろ。食事の邪魔だ」

「は、はい!失礼しました!それではごゆっくり!」

ふん。

 

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俺は薄暗い部屋にいた。何故か?俺には休日になると必ず行くところがあった。俺の広く浅い多趣味の一つ。いや、浅くもないな。常日頃体を鍛えているのはこのためと言っても過言ではない。

ガーガガガガガガガーガガガガガガガガーガガガガガガガーガガガガガガガ

なり始めるエレキギター。所詮打ち込みだからどこかチープだが、まあ仕方がない。加わって来るブラス隊。からの

「他人事じゃない社会情勢引き合いに出して説教モードォォオオオ!箸で人を刺しながら赤い顔をしてるぅー」

カラオケ。全力の。わかる人はわかるかな、今歌ってるのはB’zの「銀の翼で飛べ」。アルバム曲だけどカッコいいんだコレ。一人で歌ってて人目も気にしないから、ライブDVDの稲葉さんを真似して動き回る。こだわんのはラストサビんとこ。

「翼広げー、僕と行きましょーぉー、

どこでも何かが起きている~」

「知らないことを!」で、屈む。

「学ぶ根性あるかい!」で、リズムに乗って跳ねて

「敗北感にぃー、」で跳ねて一気に足を蹴りだす。で、

「悩んでるなら~」と歌い続ける。いや、こうやって文で読んでるだけだと馬鹿っぽく見えるかもしれないけど、DVDのこの稲葉さんマジカッコいいのよ。

「本当はそばにいる、自分を待つ人がいるんだよ!銀色、自立の色、とってもsweeeeeet!!」

そしてアウトロに入る。いやー、気持ちいい。気持ちいいけど、艦娘の皆には見せられないねこんな姿。今日は他にもやりたいことあるから、予約したのは2時間ぐらい。その間も、激しく、力強く、時にしっとり、B’zばっかり歌い続けた。言っておくけど、B’zファン別にこんな人ばかりって訳じゃないからね?俺がたまたまB’zフリークなだけであることを覚えておくように。

 

 

「青葉、見ちゃいましたぁ」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

二日後。執務室のドアをノックもなしに開けてきたのは那珂だった。

「頼もぉーーーーーーーう!!」

「うぉっどうした急に」

「那珂ちゃんは提督に決闘を申し込みます!」

とりあえず、決闘と言われたのでプライマルアーマーを展開した。

「ち、ちょっと、違う違う違う違う!そうじゃなくって!」

なんだよ…つまらん。って、なんで戦闘狂みたいなこと考えてんだ俺。

「那珂ちゃんは、提督に対バンを申し込みに来ました!」

「は?」

「『青葉新聞』読みました!」

「おい加賀」

「承知しました」

俺は今週の秘書艦の加賀にそれだけ言って、執務室を出る。

「あ、提督!返事は!?」

 

『圧倒的歌唱力!歌える艦娘の次は歌える提督?狙いは那珂ちゃんの後釜か!』

何ともまあ、嘘偽りしかない見出しの載った新聞が、食堂の掲示板に張られていた。

「司令官さんお歌が歌えるのです!?」

「ハラショー」

「歌って見せて!私聴いてみたい!」

「ボクもボクも!」

わらわらと、新聞を見たらしい艦娘たちが俺の周りに集まりだした。

「い、いや歌わねえよ。人に見られたくないから一人で歌いに行ってたのに…」

「いーえ提督!」

人だかりの向こうから那珂が声を上げる。

「こんな公の場でこんなこと言われちゃ、那珂ちゃんのアイドルとしての面子は丸つぶれ!正面から那珂ちゃんの凄さを見せつけてあげなきゃ気が済みません!」

「あら~、丁度いいんじゃないかしら~?」

那珂ちゃんとは温度差のありすぎるのんきな声を出したのは、龍田だった。

「たしか、長門さんと青葉ちゃんの歓迎会がまだじゃなかったかしら~。そのときの余興として、二人とも歌ってみたらど~お?」

「いやお前何言って…」

「良いじゃねえか!グッドアイディアだぜ!」

「いいね~、那珂ちゃん賛成!」

それから、次々と湧き上がる賛成の声。この空気でもはや断れなくなった俺は、遠くに聞こえる青葉の悲鳴をせめての心の慰めとした。

 

那珂ちゃんが本気でセットリストを考えたいから、歓迎会は来週の休日ですって~。セットリストとはいっても、那珂ちゃんもまだ他所の那珂ちゃんが作った楽曲を借りて活動してるだけなんですって~。それはさておき、歓迎会までの一週間は鎮守府全体がお祭りムードでした~。話を聞いてノリノリになった明石さんを筆頭に、工廠の妖精さんたちがせっせと野外ステージを組み立て始めていました~。その間に訪ねてきた深海棲艦の皆さんも、話を聞いたら進んで手伝い始めちゃって、なんだか作業現場はとっても不思議な光景だったわ~。当の提督さんも、嫌そうなことを言っていた割には設計を担当する妖精さんと一生懸命話し合っていたりして、実は人前で歌うのが楽しみなのかしらね?面白いのが、提督さんが現場に来ると妖精さんたちの士気がグンと上がるんです。罪な人よね~。そして当日…

歓迎会は飲めや食えやの大盛り上がり。酔った隼鷹さんや加賀さんが提督に言い寄ってみたり、金剛さんがバーニングラブ(抱き付き)して…これはいつも通りね~。暁ちゃんがお菓子を頬張りすぎて喉を詰まらせたり。そういえば、この時提督がヤケに慌てて介抱していたわね~。喉を詰まらせることにトラウマでもあるのかしら~?天龍ちゃんといえば、何だかやけにソワソワしているわ~。

「どうしたの~?天龍ちゃん」

「い、いや別に何でもねえよ」

「はやく提督さんのお歌が聞きたくてソワソワしてるんでしょ~?」

「バッカ、何言って…」

「当日思いっきり楽しみたいから、組み立ててるステージもなるべく見ないようにしてたんでしょ~?かわいいんだから~」

「べ、別にそんなんじゃ…」

「んふふふ~、ステージの時間は決まってるから、もうちょっと我慢しててね~?」

「お、おう…」

 

私たちは野外ステージの前に集まっていたわ~。深海棲艦の皆さんもそうだけど、噂を聞きつけた近所の人たちも集まってきているのよね~。彼ら、深海棲艦の皆さんがちょくちょく買い物に行くものだからすっかり慣れちゃったのよ~。そんなことを考えていると、鎮守府の明かりがフッと消えて、辺りが真っ暗になったわ~。そして聞こえてきたのは、軽快な打ち込みのサウンド。チラホラと声が上がり、そしてステージを覆っていた幕が開くと、中から那珂ちゃんが登場。一気に歓声が上がったわ~。

『みんな集まってくれてありがとう!今日は最高の夜にしようねーーー!』

流石、普段から鎮守府内の小さなステージとはいえ人前で歌っている子はステージ慣れしているわね~。いくらなんでも提督さん、不利なんじゃないかしら~。

 

ふう。那珂が歌っている裏で、俺はスタンバっていた。歌うのはお互い3曲ずつ。実は、人前で歌うのは初めてではない。高校では軽音部に所属していた。理由は、楽器に触ってみたいから。吹奏楽部の一つウン十万する楽器よりも触りやすいだろうと思った。けど、入って担当させられたのはボーカルだった。ギターとかもやって見たかったけど、先輩には「いいからいいから」と歌わされ続けた。が、一人の先輩ボーカルから「へたくそ」「才能ない」「不協和音」などと散々けなされて途中離脱した。そんなにへたくそなのに、何故ずっとボーカルを任されていたのかは未だに疑問だけど。

歌っている那珂は、自称とはいえ流石にアイドルだった。ちょっとした喋りや振り付けで上手く会場を盛り上げている。LEDやレーザーも巧みに演出して盛り上がりに拍車がかかる。結局のところ、俺の歌なんかは余興の余興だろう。ただ、恥ずかしがっていると観てる方も恥ずかしくなるのは知ってる。だから、苦手なMCは少なめに。いい思い出になると考えて、歌に全力を注ごう。

那珂が3曲歌い終えた。一回幕が下りる。が、那珂が3曲目をバラードでしっとり歌い上げたことで、なんだかもう終わったみたいなムードになりつつあった。さてと、俺もわがままの時間だ。演出担当の妖精さんにいろいろ頼んである。

 

白雪です。幕を挟んだ私たちは、今まで誰も見たことがないであろう提督の姿を心待ちにして、ソワソワしていました。

突然始まる、ノイズのような音。誰もが「お?お?」といった感じで身を乗り出します。そして次の瞬間、重く、力強いギターの重低音と共に幕が開き始め、眩しい光を背後から受けながら体をビートに乗せて激しく揺らす提督が現れました。会場のテンションは、もう最高潮です。那珂ちゃんさんの時とはまた違う、異様な盛り上がりです。

 

那珂ちゃんさんとはまた違った、男性らしい力強い歌声です。提督、こんなに歌がうまかったんですね。

1曲目が終わり、提督が喋り始めます。

『えー、みなさん今日はえー、ウチの長門と青葉の歓迎会に集まっていただいて、ありがとうございます』

歌っている最中とは打って変わって、いつも通りの提督ですね。なんだか落ち着きます。二曲目は、ミディアムバラードでした。

しっとりと歌い上げます。すごいです、提督の歌。歌い終わった後自然と拍手が出るほどでした。そういえば、提督は二曲目がバラードでしたね。3曲目は何を歌うのでしょう。

『えー、始まる前は緊張していましたが、いざ始まってみるとあっという間で、ホントに時間というのは不思議なもので、始めの内はなんとなくこう、「あ、長門も青葉も楽しんでくれてるな」って言う、新しい景色みたいな感じで見ていたんですけど、もう、この短い時間の中ですっかり馴染んじゃっているんですよね』

皆が提督の話に聞き入っています。

『普段あまりこういうことを言うキャラではないんですけど…これも今皆から感じる、温かい空気というか…気持ちのおかげかな?なんて、そんな柄にもないことを考えてしまうような、素敵な夜でした。みんなこれから、長門や青葉、それだけじゃなく今まで通り全員と仲良くできるよう、心から願っております、皆最高でしたどうもありがとう!』

感謝の言葉とともに、最後の曲が始まりましたが…なんと超アップテンポの曲!普通締めくくりって言うとしっとりした感じに終わると思ってたんですが…これは意外!

アクセル全開のまま曲が終わりました!なんだか、まだまだ続くんじゃないかっていうテンションのまま幕が閉まっていきます。皆、なんだか物足りなさそうです。そして始まったのは、皆のアンコール。

「「もう一回!もう一回!もう一回!」」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

ライブは大成功に終わった。いや多分、鎮守府の連中が空気が覚めないように気を使ってくれたんだろうけど。因みに、那珂との対決はドローらしい。優しいね那珂ちゃん。

で、その後どうなったか。

「提督~一緒に歌おうよ~!アイドル楽しいよ~!?」

那珂にユニットに誘われるようになった。

 「いーやーだ!人前で歌うのはあれで終わり!ただでさえ恥ずかしかったんだから」

 「よせ、那珂。確かに我が夫の歌声は素晴らしかったし人に聞いてもらいたくなるのもわかるが、こうして嫌がっている以上は仕方がない、諦めろ」

 「むー、那珂ちゃん諦めないからね!いつか絶対に勧誘して見せるから」

 勘弁してほしいわ…

 「お歌が嫌ならドラムはどうかしら~?」

 「「へ?」」

 龍田貴様何故それを知っている!?

 「お休みの日に良く、前の汚物提督が置いてった防音室を改造したスタジオにドラムを置いて叩いているじゃな~い、自分の声が聞かれるわけじゃないし、那珂ちゃんのバックで叩いてみたら面白いんじゃないかしら~?」

 「提督それホント!?」

 「…龍田ぁ…」

 「昨日の青葉新聞に載ってたわよぉ?多分みんな知ってるんじゃないかし…」

 龍田は固まった。提督が今まで見たことがないような殺気を孕んでいたからだ。あの野郎、加賀にこってり絞られたってのに懲りなかったようだ。

 「提督、任せておけ」

 「いや、いい長門」

 俺はそういうと、椅子からジャンプして机の前に着地した。

 「俺がやる」

 俺は一気にオーバードブーストを吹かし、ドアをぶち破って行った。

 「あらあらあら~。ご愁傷様、青葉ちゃん」

 「提督待ってよ~!じゃあユニットのドラムに…」

 

後に、ボーカル&ダンサーとドラマーという異色のアイドルユニットがデビューすることになるが、また別の話である。

 


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