気が向いたらまたやるかも
利根達は、自らの選択を後悔した。まさかここで空母が出てくるとは。旗艦の利根は、タービンに損傷を受けて既に航行が不可能になっていた。
「退くのじゃ皆の者!我が輩が引きつける!」
「バカ!お前だけをおいて行けるかよ!俺も死ぬまで戦うぜ!」
「進軍を押し進めたのは我が輩じゃあ…提督の帰投命令を無視するような兵器には水底が似合いじゃろうて…」
『よく言ったぞ利根』
突然、その場に居る全員に通信が入った。
「提督か!?」
「てめえ!そりゃ一体どういう意味だ!」
『今の台詞はオッツダルヴァが敵に放ったことで自分に死亡フラグを立てた台詞だ、それを自分自身に掛けたということは』
その瞬間、声の主が高速で6人の間をすり抜けて行った。
『敵の死亡フラグだ』
艦これの世界で俺の体は所謂、壊れ性能そのものだった。
まず、サイズは人間並みになっている。そのくせして、速度とかの性能はACネクストそのまんま。つまり、オーバードブーストを吹かすと海上を亜音速で突き進める。航行速度で表すとおよそ640ノット。通常ブーストでもおよそ200ノット。うん、馬鹿げてる。
プライマルアーマーが剥げないギリギリを維持しつつ、レーダーに利根達6人を捕らえられる範囲まで来た。みんな生きてるね。と、安心してたらうっかりOB(オーバードブースト)を使い切ってしまった。
「PA(プライマルアーマー)剥げているぞ、留意しろ」
妖精セレンさんがオペレートしてくれる。テンションあがるね。このアセン、燃費を良くしたせいかわからないけどPAの回復が遅いんだよね。俺は利根達に通信をつなげた。何やら言い争いが聞こえたので、上記の台詞を言い放った。6人の姿を確認したら、間をすり抜けてクイックターン。これ苦手だったなあ。レッドラムとか真改を倒すために必死でクイックターン練習したよ。
「みんな生きてるね」
「て、提督!?」
「おま、え、どうやってここに!?」
「いいから、利根つれてとっとと帰投して、敵は俺が引きつけるから」
早くこの体で戦ってみたくてウズウズしてんだよ、正直。
「クズ提督に一体何ができるって言うのよ…!」
言うことを言うと霞の言葉を無視して俺は再びクイックターン、敵に向かって通常ブースト(200ノット)で動き出した。
「「速ッ!」」
6人は帰投を始めたものの、提督の様子が気になって航行速度は必要以上にゆっくりだった。
楽しい、超楽しい。海面でクイックブーストを吹かすと、フワリと体が上昇を始める。そう言えば空中戦も想定したアセンだったなと思って、俺は海上をクイックブーストを吹かしつつフワフワ動き回る。そしたら、敵の弾があたらないあたらない。ちゃっかりPAも回復してる。通常弾なんか当たったって効きゃしない。急いで回頭する駆逐や軽巡なんかを嘲笑うような速度で死角に回り込み、ライフル掃射。一撃二撃くらいで仕留め、空母…
「味方に敵艦載機が向かっているぞ!急いで援護しろ!」
セレンさんのオペレートが飛ぶ。レーダーを見ると、利根達がまだ戦闘海域内に居た。何やってんだあいつら。通常ブーストでは間に合わなさそうだから、OB。OBの平均速度は音速以下だけど、初速は1400km/h。
つまり、俺の体は音を置き去りにした。回線を開くと、利根達の慌てた会話が聞こえてくる。
「天龍さん川内さん!敵の艦載機が…!」
「御主達、我が輩のことはおいて行け!」
「馬鹿言わないで!」
「オメーをおいて行くくらいなら一矢報いてから俺も死んでやるぜ!」
「とっとと逃げろっつったろ」
一気に利根達と艦載機の間に入る。で、艦載機の一斉掃射を食らう。
「キャアアアアアアア!」
「提督!」
敵艦載機からも何となく「やったぜ」て感じが漏れてる。残念、PA生きてましたー。ほぼ無傷の俺を見て敵を含め一同、唖然。その隙にクイックブーストで一気に距離を詰め、ライフルで艦載機を片付けた。
「わかったから、そこで待ってろ、すぐ片付けて一緒に帰ってやるから」
それだけ言うと、俺はクイックブーストを吹かしつつヲ級に接近して行く。そのときの俺は、さぞかし鬼か悪魔のように見えたのだろう。二人のヲ級は蜘蛛の子を散らしたように回頭して逃げて行って、俺もそれ以上追うのをやめた。
「敵の撤退を確認、ミッション完了だ。戦意の無い敵は逃がす…か。お前の選択だ、なら私はそれで良い」
セレンさんがなんか労ってくれた。ヤダ、惚れちゃう。
戦術的勝利A…いや、利根達の状態を考慮したらBってとこか?俺も振り向いて利根達の元に向かう。
「おら、帰るぞお前ら」
帰投の間、会話は無かった。さっきまで調子乗ってたけど、俺がコミュ障なのすっかり忘れてた。ただ、天龍がやたらとチラチラ俺のこと見てきて怖かった。
数時間後、帰投。皆がドックにあがったのを確認して、俺も降り立った。なんとなくガンダムとかの着陸シーンをイメージして、こう、スライドしつつズゥーンと降り立つ。ちょっと、今の俺カッコ良くね?
「おかえりー、いやー疲れた。あ、利根は即入渠ね。他、怪我のヒドい奴から優先的に…」
なんて言ってると、曙、電、川内、天龍、利根、霞…つーかその場に居た神通以外がすごい剣幕で歩み寄ってくる
「え、ちょ、なにゴフッ!」
曙のグーパンチから始まって平手打ち、足蹴、次々に袋だたきにされる俺。おい、だれか機銃使ってるだろ、やめろ連続攻撃はPAが剥げる。
「あんたは何考えてるのよクソ提督!味方が被害受けてるからって指揮官が飛び出して行く普通!?」
「いや、つい心配になっちゃってつい…」
「言い訳するな!アレでもし死んでおったらどうする気だったのじゃ御主は!」
「いや、ぶっちゃけ戦艦6匹に囲まれても負ける気しないし…つーかお前は早く入渠しろよ」
グイッと胸ぐらをつかまれる。うわ、天龍かと思ったら電だった。あれ、君そう言うキャラじゃ…
「電は!電は…!」
怒っていた顔がみるみる泣き顔になって行く。そして俺の胸に額を押当てる。
「誰にも死んでほしくないのです…!提督さんが良い人でも、たとえ嫌な人でも…」
肩をふるわせて泣き出してしまった。
「…ごめん…」
「ほら電ちゃん、提督を離してあげて」神通が電の肩を抱えて連れて行く。やれやれと思って立ち上がろうとすると今度は川内の人差し指が眼前に突き立てられた。
「提督!貴方は今後出撃禁止!」
「え?」
とぼけた声を出している間に、天龍が川内を押しのけて入ってくる。
「ちょ、ちょっと!」ビックリしたけど、すぐに天龍が少年のようなキラキラした瞳になっていることに気づいた。
「その代わり!これからは俺たちの訓練につきあえよ!」
「は?」
「俺たちもさ、海に出られなくなる辛さはよくわかるんだ!提督の交代を待ってる間は出撃はできなかったからな〜。だからさ、俺たちの訓練につきあってほしいんだ!そしたら提督も退屈しないし、俺たちの戦力強化にもなるしウィンウィンだろ!?」
「お、おう、別に良いけど…ただお前ら」
「ああ、これからは言うこと聞くぜ!退けっつわれたらちゃんと退くから!」
「ま、待ってよ!それよりも皆大事なこと忘れてない!?」
突然、曙が声を荒げて割って入ってくる。
「クソ提督、貴方一体何者なのよ!?」
しん…と静まり返るドック内。
「えーと…リンクス…かな?」
そして現在。工廠に来てこの装備を見るたびに、あの日を思い出す。結局俺の装備はあの後、パーツごとに分けられて工廠に保管されている。ちなみに、PAは俺の体内に据え置きになってるらしい。工廠のドックに入ると、妖精さんがせっせと俺にパーツを装着してくれる。
「がんばってくださいー」
「あのなまいきなびっぐせぶんにめにものみせてやってくださいー」
妖精さん達もずいぶん態度が軟化したよ、ほんと。
今回は訓練ではなく、長門とのサシの対決。ことの発端は、長門がウチにきたことによる。
実は、長門はまだウチにきて一週間と経っていない。前に所属していた鎮守府の提督がこれまたヒドい野郎だったらしく、この長門が独断で艦娘達の総意を引き受けて、半殺しにしたのだという。ほんとなら解体処分になるところ、他の艦娘達の証言や提督の実態を加味した結果、ウチに転属になったらしい。当然、俺のことは全く信用しちゃいない。指示もまるで聞かない。
「どうしてもというのならば、力でねじ伏せてみせろ」
それを聞いた龍田が、満面の笑みで
「じゃあ戦ってみたらどぉ〜?提督と一対一で〜」
その発言から、なんやかんやで引けない空気になって、渋々承諾。しかも、いつもの訓練なら両手をライフルから14cm単装砲に変更するところを
「手加減などしたらたとえ負けても言うことなど聞かん」との発言から、両手、両肩フル装備。妖精さんも長門の発言に腹を立て、ノリノリで専用のペイント弾を作ってくれた。
で、全身装備完了。いつものように、セレンさんが肩にちょこんと乗っかってくる。
「この装備も久しぶりだな。…礼儀を知らんルーキーに目に物を見せてやれ…!」
相変わらず、セレンさんはうまく俺のテンションを煽ってくれる。ドックから出ると、既に長門が前方に見えていた。
「ほう、本当に海に出れるのだな、ほめてやるぞ」
『それでは、提督と長門さんによる、一対一の模擬戦を開始しま〜す』
アナウンスは、言い出しっぺの龍田、解説は天龍。
『おうおう、すげー装備だな、流石ビッグセブン!これは流石の提督も危ないんじゃねえか〜?』
天龍、意外とうまいな。観客席(建物内)が異様な盛り上がりを見せる。
『それでは、ピストルとともに始めたいと思いま〜す。よ〜〜い…』
ぱん!
という、どこか懐かしい音とともに対決が始まった。
結果から言うと、圧倒的すぎた。
手加減するなと言われたので、ホワイトグリントとやるぐらいの気持ちで、開始とともにライフルを撃ちながらOB、長門の横をすり抜けるとクイックターン、ライフル斉射、振り向かれる前にQB(クイックブースト)で離脱、空に逃げて長門の頭上から死角に移動、ライフル斉射。この間、5,6秒程で、長門は全身真っ黄色、大破轟沈判定。たぶん、開始から終わるまで俺のこと見えてない。初めて真改とやった俺の状態だと思う。
『あら?あらあら、もう終わり〜?』
この結果を知っていたはずの龍田も、数拍遅れて対決終了のブザーを鳴らした。
『え〜以上を持ちまして、この度の対決は提督のS完全勝利で終わらせていただきま〜す』
わああああああっとあがる歓声。
「わかったな、長門。これからは俺の指示に従ってもらうぞ。心配しなくても別に変な指示出したりは…」
長門の目が赤かった。だんだんうるうるし始めた。あ、これは…と思ったら、大声で泣き始めた。そして立ちこめる、おい慰めろよムード。え、これ俺のせい?
「あー…のさ、ご、ごめんな?なんか…」
「うるさあああああい!」
長門は泣きじゃくりながら鎮守府内に走り去ってしまった。
『あらあらあら〜、提督は気にしなくても良いわよ〜?私と長門さんが言い出したことだもの〜』
「う、うん…」
翌日、今週の秘書官、雷と執務をこなしていると、ノックが鳴った。
「どうぞ〜」
「もう、司令官そんなんじゃダメよ!もっと男らしく返事しなきゃ」
「いいんだよ、世の中にはこんな男も居るの」
「…入っても良いか?」
「!お、おう、どうぞ」
声の主は、長門だった。
「あー…きのうは悪かっt」
「言うな!」
「長門さん…?」
謝罪を切られた俺の代わりに雷が反応した。
「謝罪をするのは私の方だ。貴方という人間を知りもせずに頭ごなしに拒絶し、ビッグセブンの名に驕ったあげく喧嘩を売り、そのつまらないプライドも完膚なきまでに叩き潰された…」
突然何を言い出すんだよコイツは…てか、俺の呼び方が「貴様(きさま)」から「貴方(あなた)」に変わったな。と思ったら、突然近づいてきて机においてた俺の手を握りしめた。
「あの圧倒的な力に、謙虚な物腰…貴方こそ、この長門の伴侶として相応しい…」
「は?」
「へ?」
俺の目ぇ真ん丸。長門はなんか目を細めて頬を赤らめてる。隣のトトロ…じゃなくて雷なんかリンゴみたいに真っ赤になってる。
「精一杯頑張るよ。だから私が練度を高めきった暁には、私とケッコンカッコカリを誓ってくれ…」
「「ええええええええええええええ!?」」
ちなみにこれ以来ウチの長門は、他の長門と比べると「ビッグセブン」という言葉をあまり使わなくなった。