超平和主義鎮守府   作:たかすあばた

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突然の昔話。


昔話

 俺が鎮守府に来たばかりの頃の話。俺は二人目の提督だった。前任の提督は、大破進軍捨て艦上等セクハラとっかえひっかえ変態というわかりやすい糞提督で着任から程なくして御用になったらしい。そんな訳で皆とのファーストコンタクトは大変だった。

 

 「秘書官の電…なのです」

 遠い。距離が。必ず5m以上の距離をとってくる。それ以上近寄らせてくれない。

 「…新しく配属になった提督です、よろしく」

 最初の握手なんかも当然なし。どうにかしたいけど、正直こういう状態の人間との関わり方なんか知らない。何で配属俺だったんだよ。とりあえず、いきなり距離をつめようとせずにいつものノリで接することにした。こういう時、コミュ障で良かったと思う。

で、あいかわらず距離をあけたまんま建物の中を案内される。けど、汚い。色んなところがずいぶん汚れてた。途中で、スルーされたいくつかの扉に気づく。

 「この扉なに?」

 「あ…入渠施設なんですが…使われたことはありません…」

 俺の質問にびくびくしながら答える。…む?使ったことないつった?

 「なんで?怪我したらどうすんの?」

 「…そのまま出撃になります、私たちは消費物だと教わりまs」

 「ストップ!OK、それ以上言わなくて良いわ、うん」

 んーふふふビックリしちゃったよー、僕。そんなこと言うやつって本当にいるのねー。一応報告で聞いてはいたけどさ。

 「ご、ごめんなさい!すみません…すみません…」

 なんか電がメチャクチャ謝ってきてる。こんなに重症だとも思わなかった。どんな状態なのかと思って入渠施設に入ってみた。脱衣所みたいだった。その先には磨りガラスの扉。そこものぞいてみると、埃っぽいしお湯も張ってないけど大浴場みたいなのが広がっていた。

 「これ使わなきゃもったいないだろ…」

 「え?」

 「…電、悪いけど皆を会議室に集めてくれる?」

 「!は、はい!いますぐ!」

 「そんなに急がなくていいよ、あと、怪我してる奴がいたらそいつらは休ませといていいから」

 「はい…了解なのです」

 

 「えー、この度こちらの鎮守府に配属になりました、提督です、よろしくお願いしまーす」

 はい、無言。つーか、まじで暗い。恐怖と不信感が立ちこめててまじカオス。

 艦娘は、利根、川内、神通、雷、電、曙。天龍は中破状態なのにいる。休んでていいよとか言おうと思ったけど、めちゃめちゃ睨みつけてきて怖いから黙認した。

 「えっと、早速ですが、皆さんに本日最初の任務を発表します」

 空気がさらに重くなる。ちょ、まってマジ怖い。皆何言われると思ってるの。

 「ま、まず皆で、鎮守府内の大掃除を行います」

 「はぁ?」

 川内天龍曙がハモる。電がめっちゃアワアワしだす。

 「なんで俺たちがそんなことしなきゃいけないんだよ」

 「いや、皆で使う建物なんだし、皆で綺麗にしたら気持ちいいかなって…」

 「アタシ達は兵器なのよ?敵を倒すのが仕事なの、どうせ最後には」

 「よせ、川内」

 言葉を遮ったのは利根だった。

 「不満はあるかもしれんが、今は奴が上司じゃ、指示には従わねばならん」

 「…わかったよ」

 …利根グッジョオオオオオオオブ!!超怖かった!頭真っ白!

 「じ、じゃあ、分担言いますねー、玄関は天龍、トイレは雷電、神通川内は入渠施設」

 「「「え」」」

 え?って…

 「廊下は曙お願い、食堂は俺と利根で、あと、男子トイレも俺がやるから」

 「「「ええ!?」」」

 「え、ちょ、何怖い」

 声に出しちゃった。いや、だってみんなすごい顔でこっち見てくる。

 「提督が掃除するの…?」

 「…うん」

 ちょ、まって皆目つきヤバい。何が眼帯の可愛い方だよ、顔のどこに力入れてるのその顔。電ちゃんそんな目で見ないで。

 「は、はい!それじゃあお掃除開始!みんなレッツゴー!」

 俺はダッシュで会議室から逃げた。

 

 一人でキッチン掃除してると、後から利根も入ってきて無言で掃除を始めた。ただ、黙々と掃除を続ける。…一人で黙って掃除するのと誰かがいるのとでこんなにも気まずいもんかね。ふと、こんなに汚いキッチンを普段使っているのかという疑問に気づく。気になって冷蔵庫を開けてみたら、何も入ってなかった。というか電源すらついてなかった。

 「なあ利根」

 「…なんじゃ」

 異様に静かな声で返事をしてくる。おいおい、怖いからやめてくれって。

 「あの、ふだんって…何食べてるの?」

 「何も」

 「へ?」

 「わしらは基本的には船じゃ、燃料さえあればことは足りる」

 「じゃあ、飯は食えないの…?」

 「食う必要はないのう、食材の無駄じゃろう」

 つまり食べれないことも無いんだな。

 「利根、悪いけどそのまま続けてて、俺ちょっと買い物してくる」

 「…何を言っておるのじゃ?」

 「ああ、きちんと台所は掃除したから、大丈夫、利根は食堂が終わったら廊下の掃除手伝ってあげて」

 そう言い残して俺は食堂を後にした。

 「…買い物…じゃと?」

 

 ちょいと小遣いをはたいて、近所のスーパーで何日か分の食材を買ってきた。食堂に戻ると、利根はもういなかった。出かける前に電源を入れてった冷蔵庫に食材を放りこんで、手元に残った晩ご飯の分の食材を前にした。タマネギ人参ジャガイモ鶏肉米、一から作る自信は無いから固形のルウ。海軍と言えばカレーでしょ。自慢できる程料理ができる訳じゃないけど、レシピを見ながら料理ができるくらいの最低限の技術はある。じっくりことこと、カレーを作り上げた。タマネギは思いつきで、形がなくなるまで調理してみた。米は…

炊けてる。OK。ありがちな失敗してなくてよかった。時間もちょうど晩飯時だった。

『そろそろ晩ご飯にします、手が空いた人から手を洗って食堂に起こしくださーい』

 館内放送で呼びかける。誰も来なかったらどうしよう。ドキドキしながら台所で待ってたら、遠くから足音が近づいてきて、ホッと息をついた。けど、皆食堂の入り口で俺の方を見て固まっていた。

 「おい、そんなとこに立ってたら他のみんな入って来れないだろ」

 動かない。

 「あ、そっか、そこにお盆あるでしょ、一人ずつ手に取って並んでって、カレー盛ってあげるから」

 「そうじゃねえ!」

 天龍が声を荒げる。だからやめてって…お前怖いんだから。

 「この鎮守府で一番偉い人間が何やってんだよさっきから!掃除したり料理したり…そもそも、俺たち艦娘に食いもんは必要じゃねーんだmぐm」

 大声で怒鳴りながらカウンターに近づいてきたから、開いた口にスプーンに乗っけたカレー放り込んでみた。ぶっちゃけ、俺にとっては命がけの賭けにも近かった。実際にカレーを味わって、天龍の態度が変わるかどうか。俺の手ぇめっちゃ震えてる。カウンターに隠れてるけどめっちゃへっぴり腰。様子をうかがってると、天龍の目が驚く程見開かれてく。スプーンに手を添えて、唇で拭い取るようにスプーンを取り出す。モグモグしてる。モグモグしてる。ゴックン。俺もゴックン。天龍がおもむろにお盆を手に取る。ぶん殴られる未来を想像して目を閉じた。

 「とっとと盛れ」

 「へ?」

 おそるおそる目を開くと、すごい剣幕でお盆を構えてる天龍がいた。

 「盛れっつってんだよ!皆もだ!お盆を手に取れ!」

 後ろにいた曙とか雷とかが顔を見合わせながらも、お盆を手に取って行く。後から来た川内神通、程なくして全員にカレーが行き渡った。けど、皆カレーと俺をきょろきょろ見ながら食べ始めずにいる。天龍は皆に早く食べてみてほしい感じになんか、すごい目つきになってる。皆はなんで食べないんだろうか。初めて料理を目の前にして食べあぐねてる?

 「はい、みんな両手あわせて!いただきます!」

 勇気を出して言ってみた。皆も、慌てていただきますをする。一人、また一人、恐る恐る一口目を口にする。

 モグ…モグ…ガツガツガツガツガツ!!

 「おいしい!」

 「んーんーんんん!(おいしいのです!)」

 「だろ!?うまいよな!?」

 天龍がさも自分が作ったかのように自慢し始める。よく見ると、何人か泣いてた。初めて食う料理って泣く程おいしく感じるんだな。よほどがっついてるのかムセる声も聞こえる。

 「お代わりあるからゆっくり食えよ」

人数分の倍くらい作ったカレーが、あっという間になくなった。

 

 「明日から少しずつ出撃するから、今日はもうゆっくり休んでいいよ」

 聞いてるのか聞いてないのか、それぞれ食器を下げにくる。

 「あと、お風呂も沸いてるから!みんな汗かいたでしょ、入ってきて良いよ」

 「「「は?」」」

 本日何度目かの疑問の声である。あのさ、そんなに怖い顔で言わなくても良いじゃん…

 「そう言えば司令官、ご飯はどうしたのです…?」

 「ん?これから食うよ?」

 電の表情がみるみるこわばって行く。

 「いい加減にしなさいよこのクソ提督!」

 食堂の空気が一気に静まり返った。

 「なんなのよ朝から…アタシ達は家政婦を雇った訳じゃないのよ!アンタは提督なの!アタシ達を戦わせるのが仕事なのよ!人間みたいに扱わないでよ!迷惑なの!」

 「いや、だって…」

 「アタシ達は兵器なのよ!!」

 口の端にカレーつけたまんま言われても…

 「一番偉い立場の人間に雑用みたいなことされたら、こっちが気ぃ使うのよ」

会話に入ってきたのは川内。

 「提督!アンタは台所に立ち入り禁止!」

 「へ?」

 「アンタが私たちに三食とれって言うなら従うわ、お風呂にも入る、ただ、アンタは良い椅子に座って指揮を執っていれば良いのよ」

 「いやでも…」

 「わかった!?」

 「はい!」

もうヤダ、怖いこの子達。その後俺は渋々執務室に戻って、相変わらず距離を空ける電と共に執務をこなして寝ることにした。

 

 翌朝、ついに俺の着任以来最初の出撃。執務室に集まってもらったのは、利根、川内、天龍、神通、満潮、霞というほぼ曲者しかいないウチの主戦力。

 「じゃあ、このメンツで1-4に出撃してもらいます…」

 利根以外、目を合わせようともしてくれない。返事もしない。つーか、捨て身の作戦だったとはいえ重巡が利根だけで戦艦倒したのか。すげーな利根。さておき、どうにかお願いするしかないなと思って口を開こうとすると、電が先に喋りだした。

 「私からもお願いするのです…皆さん、一度だけでも…」

 おい電、天使かよ。ちょっとうるっと来たぞ。

 「よい電、わかっておる、いくぞ皆の者」

 利根が声をかけて、皆が執務室を出て行く。

 「無事に帰ってきてね!」

 優しく呼びかけたつもりだったけど、天龍ら辺に思いっきり舌打ちされてしまい、思いっきりドアを閉められた。

 しばらく、沈黙。

 「はあ…ありがとう、電」

 「いえ…」

 それからしばらく執務をこなしていると、無線が入る。

 「はい、もしもし」

 『提督か…海域の奥まで進んだぞ、おそらく次がボスじゃろう』

 「流石だな利根、被害は?」

 『ふん、我が輩と川内が中破しておる程度じゃ』

 「いや、怪我してるんじゃんか、最初の出撃でそこまでいけただけで上出来だよ、一回帰っておいで、入渠風呂温めとくから」

 『ハッ、何を言っておるのじゃ、ボスがもうすぐそこに居るのじゃぞ?言ったであろう、御主はそこでふんぞり返って高みの見物をしておれば良いのじゃ、必ずやこの手で勝利をもたらしてくれようぞ』

 「おい待て、情報が入ったんだよ!その先には」

 すべて言い終わる前に、通信を切られた。

 「っ〜〜〜〜〜〜〜!」

 「司令官…!あそこには空母が出るって…!」

 「ぐぅっ!」

 「司令官!?」

 そのとき、俺に頭痛が走った。

 「あ…あるぜ…ぶら…」

 「へ?」

 「ろ、ローゼンタール…BFF…おーめる…」

 全身に電流が走ったような感じだった。思い出した。俺は前世で、アーマードコアfor Answerをプレイ中に餅を喉に詰まらせて死んだんだ。その時、俺の魂とアーマードコアの俺のアセンブルのデータがミックスされたあげく、超能力とか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃねえ、もっと恐ろしいものの片鱗によって産まれたのが今の俺なんだ。気がついた時、俺は工廠に向かって走り出してた。

 「司令官!?」

 

 工廠につくと、まだ仕事を任されていない妖精さん達が談笑していた。

 「妖精さんVOBとかない!?」

 「はあ?」

 「なにわけのわからないこといってやがるんですかー?」

 「ねごとはねていいやがってください」

 「しごとしろ」

 おい、妖精さんまでこんな調子かよ。まあ、VOBが無いなら仕方が無い。俺は頭の中で俺の使ってたアセンブルをイメージする。そうすると、なんか全身がムズムズしだした。

 「司令官さん、急にどうしたのです!」

 廊下を走ってた俺を見かけたらしい他の艦娘も工廠に入ってくる。それを意識の外に、俺はなんとなく悟空のスーパーサイヤ人みたいなイメージで全身に力を込めた。

 「はあああああ!」

 どん!と、緑色の輝きとともに俺の全身が、よくあるAC擬人化みたいな見た目に変化した。

 ちなみに俺のアセンは以下の通り。

 

 頭 アルゼブラ ソリューヘッド

 胴 ローゼンタール ランセル

 腕 BFF 047AN03

 脚 ローゼンタール ランセル

 手武器 両手BFFライフル

 肩武器 MSAC 左 POPLAR01

右 VERMILLION

 肩ユニット  アクアビット EUPHORIA

 FCS オーメル FS-JUDITH

あとブースターとチューン関係は基本的に空中戦を想定した感じに。

わかりやすい中級二脚、ある程度空中戦にも対応した機体。

てか、緑色の輝きってヤバくない?そう思ってたら、腰の辺りから妖精さんが顔を出してきた。

 「こじまのことならしんぱいいらん、このせかいではなんらえいきょうはない」

 丁寧にどうも。てか、今の声セレンさん?

 「アンタ…誰?」みんなポカンとしている中で曙が漏らすように呟く。

 「電!」

 「は、ひゃい!」慌てた様子で変な返事をする電を気にせず、続ける。

 「あいつら何処いったんだっけ?」

 「な、南方海域なのです」

 工廠のドックから直接海に出る。さっき執務室の窓から観た利根達は海面を地面みたいに歩いてたけど、俺はネクストらしくフワフワ浮いてた。

 「ち、ちょっと待ちなさいクソ提督!アンタどうやって海面に…」

 自分のことを棚に上げて疑問を投げかけてくる曙を無視して、姿勢を屈める。

 

ヒュウウウウウウっギュウウウウウウウウウン!!

 

 チャージしてオーバードブースト。

 

 「…なのです?」

 静まり返った工廠に、混乱しきった電のつぶやきが響いた。

 


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