超平和主義鎮守府   作:たかすあばた

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駆逐艦の皆が「その他大勢」みたいになってきた。


第3話 MAMIYA割引チケッツ

「提督が…ですか」

「そうなんですよ、突然『写真を撮らせてくれ』って、何に使うのかなーと思ったら、こんなに可愛らしく…」

鳳翔さんの店で、加賀を相手に間宮は仄かに頬を染めながら話した。そんな間宮をよそに、店内にいる艦娘たちはかすかな苛立ちを覚えていた。それは、ノロケ倒す間宮に只イラつく者が6割ほど、その他に、自らも提督に少なからず好意を寄せる者が4割ほど(自覚のない者も含む)。

原因は、近頃MVPの艦娘に配られ始めた「間宮チケット」だった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「MVP賞?」

「うん」

執務室に入ってきた川内からの提案だった。

「せっかく頑張ってきたんだしさ~、その日たまたま大活躍だったからMVP!…じゃなくて、MVPを取ると何か特別なことがある!じゃあMVP目指して張り切らなきゃ!って、士気が上がると思わない?」

「なるほどねぇ…」

MVPだった奴には精一杯ねぎらいの言葉をかけてたつもりだったけど、よく考えればおっさん(25だけど、鎮守府内では最年長)に褒められるよりは商品がある方が絶対嬉しいもんな。…よし、アレなんかどうだ。

「だからさ、今度出撃でMVPとったらさ…」

「うん、OKまかせろ、土日明けの出撃からMVPの商品用意しとくから」

そう言って俺は部屋を出る。

「え?ちょ、提督まだ話…」

向かったのは「甘味処間宮」だった。

「私の写真…ですか、一体何に?」

「川内からさ、MVPの子に何か用意したらどうだって提案されてさ、出撃した後って疲れてるじゃん?疲れた時は、甘いモノ、女の子も、甘いモノ好き…です…よね?」

決めつけちゃいかんなと思って、間宮さんに確認を促してみる。

「そうですね、頻度はそれぞれですけど、ウチにいる子達はみんな来てくれてると思います」

「で、MVPの商品としてここの利用券を作ろうと思ったんだけど…大丈夫かな?採算とか」

「出撃に付き一人ですもんね、大丈夫ですよ、で…写真は?」

「ああ、それでチケットに似顔絵でも…」

「え!?提督、絵を描くんですか!?」

しまった…おれの広く浅い多趣味の一つ、絵。なんとなく恥ずかしくて皆には秘密にしてたのに…

「し!ごめん間宮さん俺が絵ぇ描くこと誰にもしゃべらないで!恥ずかしいから」

「あ、え?あ、はいわかりました、それにしても意外ですね、提督」

「あはは…そんなわけでいいかな?三枚位なんだけど」

「どうぞ、お好きなだけ、…可愛く描いてくださいね!」

俺はウチにまだ青葉がいないことを心から感謝した。正面、左右斜めから、お言葉に甘えて後ろ斜めからも二枚ほど。

「ありがと」

「いえいえ~」

間宮さんはヤケに嬉しそうだった。提督の弱みを握ってそんなに嬉しいか…

部屋に戻って、仕事をしつつもノートパソコンで手元を隠し、チマチマとイラストを描き始める。何度かちゃんとした似顔絵を描き、大体の特徴が手に馴染んできたら、デフォルメ開始。二頭身くらいの、妖精さん風の間宮さんを描きあげる。なるべく真上から写メって、パソコンにいれた後は、いつぞやAdobeが誤配信してくださったフォトショとイラレでチケットに仕上げていく…

そして月曜の出撃から、MVPにはチケットを渡し始めた。最初に受け取ったのは、新人駆逐艦レベリングの旗艦に選んだ曙だった。受け取った曙の

「カワイイ…」という無意識の呟きに内心ガッツポーズ。

「そりゃ良かった」

「う…うるさいわね!!アンタが作ったわけじゃないでしょこのクズ!渡すものはこれだけ!?」

「ああ、一回のMVPで一枚」

「そ!じゃあ失礼するわ!」

 

その後、チケットと、チケットに描かれた妖精風の間宮さんのほんわかしたイラストが話題を呼び、提督は(間宮さんや鳳翔さんにもなにか考えないとな)なんて提督室で思いにふけっていたある日、鳳翔さんの店での出来事だった。アルコールが入り、緩くなった思考から間宮さんがぽろっと漏らしたのだった。

加賀は、この場に金剛がいなくて騒がしくならないことに感謝しながら、自らもイラついていた。提督に思いを寄せつつ、普段のキャラクターが邪魔をし、提督自身の鈍感さも相まってモヤモヤしているところに、これである。提督が、間宮の写真をじっくり観察しながら、可愛く仕上げたチケットを加賀は見詰める。

「すみません、用事を思い出しました、今日はこの辺で失礼します、鳳翔さん、お会計お願いします」

「え?ああ、わ、わかりました」

会計を済まし、店を出る。もう一度チケットを財布から取り出し、よし、思い切り握りつぶそう。と思った時だった。

「鳳翔さんごちそうさま!」

「お金置いていくわね!レディーだからお釣りはいらないわよ!」

「ハラショー」

「はわわわ、暁ちゃん100円足りないのです!鳳翔さん、これ!」

暁型が猛ダッシュで店を出、加賀の脇を駆け抜けていった。少し呆気にとられたが、思考の単純な暁型が何をしようとしているのか加賀はすぐに理解し、改めて、無表情でチケットを握り締めた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「私を描けばいいじゃない!」

「間宮さんばかりずるいわ!」

「え?何、何」

こいつらは何を言ってる?いや、言ってることはわかるけど、そうじゃない。

「なんで知ってんのお前ら…」

「鳳翔さんのお店で、間宮さんが言ってたのです…」

「何飲んでた?」

「ウィスキーを飲んでたよ」

「おい提督聞いたぜ!コレお前が描いたのかよ!こんなことできたんだな!」

扉を蹴破って出てきたのはチケットを持った天龍。顔が赤い。こいつも飲んでやがったのか。おれは顔を抑えた。

「っの馬鹿…」

やっぱり酒ってロクなもんじゃないわ。絶対飲まない。そもそもアルコールの匂いが好きじゃないし。ただ、料理に入ってアルコールが飛んだのは別。アサリの酒蒸しマジ神。

そんなわけで、次の出撃からしばらくはMVPのやつの似顔絵を描かされる羽目になった。鳳翔さんと間宮さんにもその流れで似顔絵を描こうとしたら、「間宮さんだけ2回はずるい」っつって阻止された。実際はチケット作成の時に5,6回は描いてるんだけどね。

ちなみにチケットのイラストは、再び川内の提案で描いた全員の似顔絵のチケットを作ってそれぞれに対応して渡す感じになった。

こんど川内にも何かしてやんなきゃ。

 


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