超平和主義鎮守府   作:たかすあばた

26 / 28
超平和主義はどこに行ったのでしょう。

今回のイメージは、デストロイモードとゾイドのジークです。


第21話 ヨーイ

鎮守府の外側には、万が一に侵入者などが入ったときのために監視カメラが設置されている。これはどの鎮守府に行っても共通する防犯設備だ。およそ1時間前、「脚の艤装だけを付けて」出港した摩耶の姿が捉えられていた。

 「申し訳ありません!わたしの管理が甘かったためにこのようなことに!申し訳ありません!」

 ひたすら頭を下げ続ける神通を皆があやす。

 「俺たちも逃げだすとは考えなかったんだ。神通だけが悪いわけじゃない」

 「そうだよ。落ち着いて神通」

 志庵が神通の頭を撫でると、少し落ち着いた様子になる。

 既に水雷戦隊を編成して捜索に向かわせた。事態は一刻を争う。

 

 

 ただ、感覚が導くまま、航行を続ける。視線の先に「あるもの」を見つけると、摩耶は静かにほほ笑んだ。

 (なんとなく進んで遭遇するなんて、アタシ本当に死にたがってんだな)

 

 

 「…!電探に感有り!」

いつになく真面目な表情の初雪が叫ぶ。編成は初雪を旗艦に天龍、不知火、曙、霞。志庵鎮守府四天王が揃い踏みである。

 「数は!」

 「11時の方向…一つと、そこから前方に離れて5つ!」

 「早くしないと敵と接触します!」

 

 

「キヒヒ!ナンダオ前!何デ装備モナシニ海ニ出テル!?」

戦艦レ級。戦艦でありながら姫と同等クラスの力を持つ、海の悪魔。返事を返さない摩耶を見て、レ級は勝手に結論に至る。

「ワカッタ!捨テ艦ッテヤツダロ!ソウカソウカ可愛ソウニ」

微塵もそう思ってはいなさそうに、楽しげに喋り続ける。やがて、砲を携えた尻尾を摩耶に向けた。

「ジャア私ガシッカリト深海ニ送リ届ケテヤラナイトナ!」

 

 

「やば…もう始まってる」

目視圏に入り、天龍があることに気づいて志庵に通信を繋げる。

「提督、レ級だ!」

『なんだって!?』

「やつら、摩耶で遊んでやがる…!」

レ級のほか、一緒にいる駆逐艦たちは摩耶が死なないギリギリを見極め、機銃を放ったりしているようだ。

「こンのおおおおおお!」

通常ならば狙えるはずのない距離。だが、四天王の曙ならば牽制ぐらいは可能だ。摩耶に主砲を放とうとしたレ級を弾が掠める。全員で威嚇射撃をしながら接近し、どうにか摩耶とレ級達との間に入ることに成功した。近くで視認し、更にあることに気づく。

「アンタ…この間のレ級…!」

「アハ!マタオ前タチカ!」

自分を守るように立ちはだかる初雪たちに、摩耶は戸惑う。

「みんな…なんで…」

「助けに来たに決まってんでしょ!?このクズ!」

「ナアー、ソイツ返シテヨー。沈ミタガッテンダカラ好キニシテイイダロ?」

「司令官命令…だから…連れて帰る」

「なんで…提督がアタシのことを…」

勝手に出撃したアタシのことなんて放っておけばいいのに。なんで助けようとした?性のはけ口にするため?周りの艦娘でいくらでも代用できる。わからない。わからない。提督なんて…

「司令官ッテアノ男ノコトダロ?ジャアアイツヲ連レテキテヨ!アイツト遊ブノ楽シカッタンダ!」

「クソ提督があんたなんかに会いに来るわけないでしょ。馬鹿じゃないの?」

「…ソッカー、ダメカー…」

レ級はいじけた様に水をパチャパチャと蹴って歩き始める。

「オ前ラヲ殺サナイデ返シテヤレバ、ソノ内会イニ来テクレルカモトカ思ッテタンダケド…」

目の色を変え、睨み付ける。

「モウイイヤ。殺シチャオ」

え?という間もなくレ級は曙との距離を詰める。至近距離で放たれた主砲は曙を…

沈めるには至らなかった。志庵との訓練の中で鍛えられた感覚はギリギリで致命傷を回避したが、艤装は大破して使い物にならなくなった。

「オ前ソンナモンダッタッケ?マ、イイヤ。次」

「クソ…」

「曙…!」

初雪の脇腹に尻尾が叩きこまれそうになるが、初雪はあえて突進、尻尾を脚で受けて後方に跳躍。それと同時に主砲を放つことで反動を殺した。逆立ちの状態で着地するも、そこから雷撃することで隙をなくし、更に反動を利用することで体勢を立て直した。

「ハハ!オ前面白イナ!」

いつも初雪を見ているから、わかる。今日の初雪は絶好調だ。それでどうにか立ち回る程度。

「こいつ…今まで本気で俺たちとやってなかったのか!」

「玩具ハ乱暴ニ扱ウト壊レチャウカラナ」

 

 

無線から伝わって来る。自分の脳みそが導き出す、最悪の状況。周りで一緒に無線を聞いていた川内は何か悟ったようにうつむき、神通は力なく壁にもたれ、長門は海図に手をついたまま動かない。志庵はひたすら思考を回し続ける。今から出港して間に合う船は?島風?天津風?無理だ、それでも遅すぎる。あるとしたら…

思い至ったとき、志庵は駆け出していた。

「提督!?」

 

工廠の片隅、作業台に眠る装備。

「ていとくさん!」

「だめです!これはまだうごいたことがないんです!」

妖精さんの制止を無視して手作業で体に装着していく。すべて装備を終えると、港に向かって走り出す。

「よせ、志庵!」

セレンさんの声を背に、海に飛び込む。案の定装備はピクリとも反応せず、そのまま志庵は海に落下した。

「提督!?」ただならぬ様子に、いつの間にか工廠にはほとんどの艦娘が集まっていた。その中から利根が海に飛び込み、志庵を引き上げる。

「落ち着け馬鹿者!動かぬ装備などただの重しにしかならぬ!」

「ダメなんだ…!」

利根の腕から逃れようと、天龍達の下に向かおうと、志庵はもがき、海の向こうに手を伸ばす。その様子を見ている誰もが、涙をこらえられなかった。

「あいつらは…天龍も摩耶も曙も…皆、こんなとこで沈んじゃダメなんだよ!」

「志庵…!」

「提…督っ…!」

おもわず、利根は志庵を抱きしめた。

「もう良い…お主は今までよく頑張った…!今までがむしろ奇跡だったんじゃ…!あの化け物との戦い…深海棲艦の大群との戦い…あれで一人もかけることなくやってこれたのが奇跡だったんじゃ…!」

尚も海を睨み続ける様子の志庵の横顔に、利根は呼びかけ続ける。

「指揮を執っていれば、いつかこういうことも起こり得るのはお主もわかっておるじゃろう?だから…たのむ…もう、お主は海には…!」

ふと、志庵の手が利根の肩をつかむ。

「…ダメなんだよ…」

「提督…」

「あいつらいくつだ?まだ人生の半分も経験してないやつらばっかじゃねぇか…」

今工廠に集まっている全員の中、同じ意見を持つ者は、艦娘ではなかった。

もしも妖精でなくて元の姿でこの世界に転生していれば、結婚して子供がいてもおかしくない年齢だっただろう。志庵と同じ、彼女たちに経験してみてほしいことは、山ほどある。辛いこと楽しいこと。何も知らないままさよならなんて、悲しすぎる。もし、それがいま助かる可能性があるのなら。その可能性が、自分なら。志庵の装備と共にこの世に転生してきた、自分であるならば。

「まだ沈んじゃダメなんだよ…!」

「提督…その装備、どうしたにゃし?」

志庵の装備が、緑色の光を放っていた。

「うぇ?」

「セレンさん!?」

「どうしたの!?」

吹雪の声がした方を見ると、同じく光を放ち、うずくまるセレンさんの姿。

「志…庵…」

「セレンさん!?」

「私の名を呼んでくれ…」

「へ?」

「あと…少し…何かのきっかけがあれば…また…」

「セレンさん…?」

「私の名『だけ』を叫んでくれ!志庵!」

志庵はうつむくと、大きく息を吸い、そして空に向かって叫んだ。

「セレン・ヘイズ!!」

その時、セレンは緑色のまばゆい光に姿を変えて飛び上がり、志庵に降り注いだ。

「きゃ!」

「わあ!」

余りの輝きに、艦娘たちが声を上げる。その中、志庵の装備は唸りを上げ、関節を補助するボルト状の装甲は勢いよく回転し、内部装甲は光を放ち、カバーがスライドすることでその輝きを見せつけるように強調する。それを見て艦娘たちはもとより、作った妖精さん達も戸惑いを隠せなかった。

「だれですかあんなきこうつけたの!?」

一人が呼びかけるも、皆首を横に振る。志庵はというと、利根の手から離れ、再び海上に浮かび上がっていた。

「…行ってくる」

「ま、待て!」

艦娘たちが駆け寄ってくる。

「吾輩も連れて行ってくれ!」

「榛名も!お供します!」

「扶桑も準備はできています!」

「陽炎、いつでも行けるよ!」

「神通にも責任を取らせてください!」

志庵は、ただ微笑みを返した。

「悪い、急がなきゃいけないから」

志庵は海に体を向け、OB(オーバードブースト)を吹かして姿を消していった。

「また…お主は海に出るのか…」

爆音が去った工廠に、利根の言葉だけが残った。

 

 

初雪と霞は天龍に、曙は摩耶にしがみついて、ようやく浮かんでいる状態だった。

「もういいよ皆…アタシを置いて逃げて」

「…!馬鹿言ってんじゃねえ!」

「こうして助けに来てくれただけでも、嬉しいよ…。出撃もせずに島を歩き回ってただけで、勝手に出港して皆にも迷惑をかけて…アタシには、水底が似合いだよ」

 

水底が似合う。

その言葉を聞いたとき、天龍と霞はある希望に触れた気がした。

そうだ。あの時。そう言い放った利根は生き残ったんだ。「奴」に助けられて

 

『良く言った』

通信に志庵の声が入ってくる。無線とは違う、戦闘時に使われる近距離通信。嬉しくなり、あえて天龍は「前回」と同じ反応で返した。

「てめぇ…そりゃどういう意味だ!?」

『今の台詞はオッツダルヴァが敵に言い放つことで自分に死亡フラグを建てたセリフだ。それを自分に向かって言うということは…』

緑の輝きを放つ物体が、高速でレ級の傍らを横切る。それを見たレ級も、これ以上ないような笑みを浮かべた。

「ヤット来テクレタ…!」

レ級達と天龍達の間でQB(クイックブースト)で高速反転し、レ級を睨み付ける。

「敵の死亡フラグだ」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。