超平和主義鎮守府   作:たかすあばた

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まどろっこしそうな話はズバッと行きます。


第2話 サポーター魂

 あのあと五月雨にはいろいろ文句を言われたが、俺がこの辺で沈んだ艦娘は意識を失ってる間に深海の連中に手当されてその辺にドロップとしてばらまかれるって話をしたら、まだ渋々といった顔ではあったけども納得してくれた。ちなみにうちにいる陽炎型二人はそういう約束になってからドロップした。

 八百長会議も一区切りついて、時計を見たら晩飯の時間だった。

 「じゃあウチら飯にするけど、アンタどうする?」

 「食ベテイッテモ良イカ?棲家ノ連中ニハ事ヅケテアルシ、ソノ、デキレバ…」

 「ああ、また厨房が見たいの?間宮さんに訊けばたぶんOKしてくれるよ」

 「感謝スル」

 明確にそうっていう訳じゃないけど、この辺も結構深海との協定に大きく関わってる気がする。深海の連中はそれまで「食」に対する関心が薄かったらしく、薄いというか、ほぼない。生存本能オンリーな状態だったらしい。塩分補給とか海水直飲みとか言ってた。協定を結ぶ前のころ、海で弱った駆逐棲姫に出会った暁型の連中が俺の作った炒飯おにぎり(別に料理上手って訳ではない。俺が私室で思い付きで炒飯を作ったら雷電コンビにせがまれたからおにぎりにして持たせた。)を食わせたら、余りの美味さに失神したレベル。

で、今は時々遊びに来るついでにウチで料理を教わって行ってる。

 そんなことを考えていると、どこかから地鳴りのような音が聞こえてくる。それがだんだん大きくなる。

 「利根、ちょっとそこ退いてもらっていい?」

 「?…ああ、いいぞ」扉の前にいた利根に呼びかける。一瞬戸惑ったみたいだけど、すぐに何かを察して扉から離れる。

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!

音が一番大きくなって、ノブが捻られるのと同時に俺は内開きの扉に蹴りをブチ込み扉の向こうの人物を扉に衝突させようとしたが、そいつはそれをものともせず、それどころか扉ごと部屋に突っ込んできやがった。

「HEEEEEY!テイトクゥ――――――!今から私と熱いひと時を過ごすネェ――――――!」俺を下敷きにして扉を挟んだまま金剛が喚いてるけど、俺は半分意識が飛んでて聞こえてない。しかしこのセリフを聞いて陽炎が何かを思い出したらしい。

「ああ、もうすぐ試合始まんじゃん、みんな早く食堂行こうよ」

 「何カ催シ物デモ始マルノカ」港湾がヲ級が興味ありげに訊いてくる。

 「んー、ちょっと違うけど…よかったらヲ級たちも見てく?案外ハマるかもよ?」

 「HEY!テイトク!ハリー、ハリー!テレビの前の席は二人分確保してあるネ!」

 「断る、お前横にいたらうるせーもん」意識が戻ったので、扉ごと金剛を押しのけて立ち上がる。体重は普通の人間とそう変わらないのに、どっからあんなパワー捻りだしてんだか…

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 食堂からはご飯時なだけあって、他の子達の賑やかな声が聞こえてきマスネ。愛しのマイダーリンは組もうと思った腕を振り払って一足先に食堂に入って行ってしまいマシタ。もう、照れなくてもいいのに、カワイイデスネ。食堂に入ると、食事中の子、食事を済ませて部屋に戻る子、食事を済ませて、テレビを見つめる子と様々デス。

 「チャンネル変えるよー!」リモコンを手に声を上げるのは陽炎デス。まだテイトクのことを特別意識もしていないようですが、何かと共通の趣味が多いらしくて要注意人物デス。

 「もうそんな時間なのですか」

 「一人前のレディたる者、『紳士のスポーツ』と言われるものくらいチェックしておかなくちゃだわ!」

 「ハラショー」

テレビの画面は、ちょうど我らが鎮守府の地元、「宿毛FC」の面々が赤と白のユニフォームを身にまとって入場してきていマシタ。

 「コレハ何ナンダ…?」

 「サッカーだよ、知らない?」

「ドウイウモノナンダ?」

「えーっとね…五月雨、教えたげて」

 「ええ!?私だって詳しくは…」

涼風は、新入りの五月雨がウチと深海との特殊な関係に馴染めるように苦心しているようデス。さて、私がテイトクの為にキープしておいた特等席…は、何故か一航戦が独占してるネ。

 「HEY、HEY、HEY!そこの二人何してるネ!」

 「何か用かしら」

 「ここは私とテイトクの為にキープしていたはずネ!比叡と霧島はなにしてたネ!」

 「誰も座っていなかったのだから、誰が座ったっていいはずでしょう?」

 「あの、ごめんなさいお姉さま…」

比叡と霧島が座っていた筈のテーブルは赤城と加賀のキ○ガイ料理が埋め尽くしていて、妹たちは申し訳なさそうに隣のテーブルに座ってるヨ。

 「私とテイトクの愛の席を奪うどころか妹たちの席まで奪うとは…テメーラ覚悟は…」

 「だからうるせーよ金剛、もう試合始るっつーの」テイトクはというと、少し離れた席で天龍&ホッポちゃんや利根と晩御飯そこそこにサッカー観戦してたネ。

 「むう、仕方がない…今回の所は引き下がってやるデス…」

 「こっちで一緒にテレビ見ましょう?お姉さま」

 「サッカーも野球も、戦術を突き詰めてゆくと少なくない共通点があります、例え娯楽といえど、真剣に観察すれば我々の戦術の幅も広げる結果になるでしょう」

あいかわらず霧島は小難しいことを言っているネ。因みに、私たちがサッカーを見るようになったのはテイトクが執務をしながらパソコンの…ポンデマンドとかなんとかいうのをその時秘書官だった陽炎と一緒に観てたのがきっかけネ。ライバルに先を越されまいと私や雷も一緒に見始めたのをきっかけに他の子達にも広がって、一番意外だった霧島の要望で鎮守府にアンテナを設置して食堂のテレビで見れるようになったヨ。まあ、中には

 「ふん、わからんな…軍人であれば野球を見るべきだろう、何が楽しいのやら…」

と言う、長門みたいな頭の固い奴らもいるネ。まあ、あいつらはテイトクのハートを奪うに当たっては眼中にもないからほっとけばいいネ。

 「角田はベンチスタートなんだな…FWには駒沢が入るのか」

 「陣形の割にオフェンシブなのか?」

 「ふむ、秋田も今日はベンチにいるからの、後半から出すつもりなら良いアクセントになるかもしれん」

 「相手が横須賀マリンだしな」

ムムム…天龍も案外テイトクと趣味の合う要注意人物なのデシタ…利根なんかはテイトクとそこそこ付き合いも長いし、テイトクは気づいてこそいないものの利根からはちょっと意識されているようデス。最初は利根も野球派だった筈なのですカラ。

そんなこんなで試合開始。私はサッカーは天龍程よくわからないから、とにかく声を出して応援するネ。テイトクが応援するチームの邪魔をする奴らなんてF○CK’INデス。OH!宿毛の選手が相手のゴール前でボールを持ってマス!今デス!撃っちゃエ!撃っちゃエ!AH!相手のキーパーが…

 「OH!ガッデム!得点の邪魔しやがってキーパーめェ!」

 「そうよそうよ!折角良いところだったのに!」私の最大のライバルである雷も叫んでいマス。まったく、そうよねテイトク?そう思いテイトクの方に意識を向けると、信じられない会話が聞こえてキマシタ。

 「おお、ナイスキー(ナイスキーパー)」

 「良く脚が出たな、今のは凄いぜ」

OH…天龍と共に相手のキーパーを称賛しているネ…。良いプレイをしたのであれば敵であっても称賛する、これがサポーターのあるべき姿ということデスカ…。

天龍、どうやら今日の所は私の敗北のようデス。しかし、いずれはテイトクの瞳に私しか映らないほど夢中にさせてやるデスヨ、今に見てナサーイ。フハハハ…

 


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