どこまで?千切れるまで。
便宜的に、元帥の艦娘は名前の後に(‘)を付けます。
例:大淀’は~~雷’は
それと、ナレーションの上では提督のことを「志庵」と呼びます。
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作戦終了した夜。食堂ではバイキング形式の祝勝会が行われていた。
将校のところから来た艦娘達は、それぞれ鎮守府に馴染むために努力していた。
「時雨も夕立もさっきからキョロキョロして、そんなに珍しいものでもあった?」
「ああ、ゴメンね村雨。あんまり前の鎮守府と雰囲気が違うものだから…」
「ふふ、騒がしいでしょ?でも、慣れたら楽しいわよ」
「楽しい…ぽい?」
「楽しんでいるか?武蔵」
「貴方は大本営の武蔵’と大和’ですね」
「お噂はかねがね」
酒を持ってやってきた武蔵’と大和’に武蔵と大和は深々とお辞儀をする。
「おいおい、敬語はよせ」
「同じ大和じゃない。一杯どう?」
「扶桑さんお疲れ様ー!」
「戦闘すごかったよー!アタシ感動しちゃった!」
提督−志庵−が食べ物を取りに行って扶桑と山城の横を通った時に聞こえてきた会話。
「ありがとうございます深雪さん、敷波さん」
「扶桑さんこれあげるね!」
将校の所から来た艦娘の中でも、扶桑は作戦に参加しただけあってか少し態度が軟化したようにも感じる。そんな扶桑に文月が手渡したのは睦月型の皆が昼に買ってきてたアイスの中にあったピノだ。
「これは…?」
山城が訝しげな表情で訊ねる。
「ピノだよ、知らないの?」
因みに、本日は最高気温30℃越えの真夏日である。
「申し訳ありません」
「ああ、そんなことで謝んなよ!」
「とってもおいしいんだよ!こうやって箱を開けて…」
何ということでしょう。箱の中から現れたのはチョコレートとバニラアイスのマーブル模様の塊。
「あちゃー、溶けて固まっちゃってるよ、文月」
「ふぇえ!ごめんなさい扶桑さん!別のヤツ持ってくる!」
「構いません」
扶桑は箱を受け取り、その辺にあったスプーンを手に取る。
「ツいてないのは慣れっこですから」
「そんなぁ…」
流石にアレは気の毒だ。提督−志庵−は冷凍庫を覗いて、比較的無事そうなアイスを探す。雪見大福がある。開けてみると、大丈夫そうだった。一個を串で刺し、扶桑のピノの箱の中に放った。
「て、提督!?」
「良かったじゃん、イイことあって」
気を利かせるのが恥ずかしくて、志庵はそれだけ言って席に戻っていった。
「そんな、提督…!こ、こんな、いただけません…!」
「うわーお…」
「提督って時々スッゴイことやるよねぇー…」
「無自覚なのが怖いけどね…」
感激のあまり、渡された雪見大福を食べもせずに眺め続ける扶桑。そそくさと席に戻って行った志庵を、深雪たちは若干ひきつった顔で見ていた。そこに、曙が駆け寄っていく。
「あーちょっとクソ提督!それアタシの雪見大福!」
「あ、そうだったの、ワリ。じゃあこれ、まだ口付けてないから」
志庵は残った一個をまた串に刺し、曙に差し出す。
「な、何よアンタ!こんなとこでアタシにあーんする気!?」
「ひゅー!提督ったら、案外大胆だねぇー!」
顔を真っ赤にする曙を、隼鷹が茶化す。
「いや、皿持って来いよ。ゴミは捨てとくから」
「曙貴様何をやっている!!」
怒鳴って割り込んできたのは長門だった。
「ちょ、ちょっとなによ長門!」
「貴様中々に策士だな。そうやって我が伴侶の気を引こうというのか」
「はぁ!?ば、馬鹿言わないで!クソ提督がアタシのアイス勝手に食べようとしてたから文句を言っただけよ!ていうか、あんたいつまでクソ提督を伴侶って言い続けるの?イタイし、クソ提督もアンタのことどうとも思っちゃいないわよ?」
「何を言うか!女性がこれだけアピールしていて、何とも思わない男など居る物か!」
「なんの話をしとんのだあいつは…」
「あら提督、良い所に」
長門と曙のやり取りを呆れて眺めていた、志庵を呼び止めるのは加賀。口の端に米をつけ、両手には自分で食べ尽くしたらしい、大量に積み重ねられた皿が。そのてっぺんには唐揚げが盛られている。
「わたくし唐揚げが食べたいのですが、ご覧の通り両手が塞がっていて。食べさせてもらえると嬉しいのですが」
「お前はツッコまれるのを待ってんのか?」
「提督」
更に背後から呼びかけられる。
「おう、お前mg」
声で赤城だなと気付き振り返ると、「あーん」とか言いながら口に唐揚げを突っ込まれた。
「赤城さん!?」
「先手必勝です」
いつものポーカーフェイスを崩して驚く加賀を余所に、赤城はバイキングに戻っていった。
「提督!」
志庵も呆然としながら口の中の唐揚げを咀嚼していると、遠くのテーブルに着く元帥に呼ばれる。
「っん…今行きまーす」
慌てて唐揚げを飲み込み、志庵はいまだ言い争いを続ける長門と曙の下を後にした。
「…なぁ!提督もそう思うだろう!」
「提督ならどっかいっちゃったよ~」
「へ?」
気づいたらいなくなっていた志庵に呆然とする長門を残し、曙も自分の席に戻っていく。
「隼鷹ちゃんはいいの~?提督と飲みたがってたじゃな~い」
隣に座っていた龍田が隼鷹に話しかける。
「アタシゃいいのさ。提督がお酒が嫌いなのも知ってるし。こうして見守るのが、アタシの愛さ」
「ふ~ん。大人なのねぇ~、ねえ?天龍ちゃん」
龍田を挟み、天龍もグラスを傾ける。グラスに入った赤褐色の液体に少しだけ口を付けるが、何かを考えると、すぐに口を離した。
「あら、お酒飲まないの?」
「だって…」
「おうおう可愛いね~天龍」
「あ?」
「ねえ知ってるかしら天龍ちゃん」
「何がだよ」
「この鎮守府で唯一提督とデートしたのって、天龍ちゃんなのよ」
数拍おいて、天龍の顔が真っ赤になる。それを誤魔化すように、天龍は一気にグラスを空ける。
志庵は元帥に呼ばれて一緒に座っていた。周りには、元帥の連れてきた大淀’や雷’が一緒に座っている。
「お疲れさんっす、色々」
「いや、俺は何もしていないよ。提督には感謝してもし足りない」
「いやいや、そんな大げさな…」
「大げさなどではありません」
大淀’が会話に入ってくる。
「あの時あなたに守られていなかったら、私も元帥もここにはいませんでした」
そういうと、大淀’が志庵の手を包んでくる。酒で少し酔っているのか、手が熱く、頬もほんのり赤い。
「本当に、ありがとうございます」
なんつーか…ていうか、色っぽい。
「い、いや、その、どういたしまして」
「ふふ、顔が赤いですよ?」
「何をしておるのじゃ?」
志庵の背後から現れたのは、利根だった。
「あら利根さん、ちょっとしたジョークですよ?」
「ふむ、そうか。ジョークも選ばないと、笑えんぞ?」
何やら、空気が寒くなり始める。
「おい、大淀’、提督をからかうのもその辺にしとけ」
「利根どうしたんだよ、落ち着け」
「提督もあの程度で鼻の下を伸ばしおって、情けないぞ」
そう言いつつ利根は俺の隣に座る。志庵と元帥、利根と大淀’が向かい合う形だ。どちらも無表情だが、何やら火花が見える。
「本営が最低限使える形に回復するには、一か月ほどかかるらしい」
「そすか」
「迷惑をかけるな」
「気にしないでいいすよ。賑やかで楽しいし」
「そうか…」
元帥が何かを言いたそうにうつむく。
「提督には本当にお世話になった」
「まぁ…さっきはつい否定しましたけど…大変っしたね」
まさか、自分以外のACがこの世界に来るとは。アイツが「粗製」で本当に良かったと志庵は思った。
「今では正直、提督を尊敬してる。艦隊のレベルも、君自身も、あらゆるところで次元が違う」
「いや…俺にできるのは戦いに関することだけっすよ。運営とか…事務仕事とかは至らないところばっかでいつも秘書官に指摘されてますもん」
「お主はやればできるのに、すぐにサボろうとするからいかんのじゃ」
「ふふ、そういうところは同感だわ。元帥もまだまだ子供なんですもの」
珍しく気が合った意見をする利根と大淀。
「はは…とにかくだ、俺はもう、提督をただの部下としては見れない…」
「元帥?」
何だ?何か妙な雰囲気がするぞ?
「なあ、提督のことを…『兄さん』って…呼んでいいかな?」
「は?」
食堂全体が、一気に静かになる。
「な、何を言っておるのじゃお主…!」
何故か、利根が顔を赤くする。
「俺のことも気軽に、『玲(れい)』ってタメ口で呼んでいいから…ダメかな?兄さん」
「いや、もう呼び始めてるし…いいけど。敬語疲れるし」
「ありがとう!兄さ」
「貴様ぁああああああ!!」
武蔵’が鬼のような形相で掴みかかってきたので志庵は思わずPA(プライマルアーマー)を展開するが、間に入った利根が武蔵’を体を張って静止させる。武蔵’は悔しそうな顔で叫び始める。
「私だって元帥にそんなことを言われたことが無いんだぞ!それを…私を差し置いて名前で呼ぶなど羨ま…いや、下の人間が無礼だ!しかも貴様、ににに兄さんだと…!なんて羨…いや、羨まし…じゃなくて、羨ま…羨ましいんだ!」
「落ち着いて、武蔵’!一言も言い直せてないわ!」
更に掴みかかろうとする武蔵’を、大和'が必死に止める。
「全く…大事無いか?提督よ」
「ああ、ありがとう利根」
志庵は大和'に引きずられて席に戻っていく武蔵’を眺める。
「…玲は艦娘に愛されてんねぇ」
「えへへ、それほどでも」
「てーぇとくだって愛されてんだぜー」
突然、誰かが志庵をアスナロ抱きしてくる。
「て、天龍?」
酒臭っ。
「良いなぁ元帥…なぁ、俺も『お兄ちゃん』って呼んで良いかな…」
普段の天龍からは想像もできない様な甘えた声で言ってくる。
「お、お主まで…」
利根がやはり顔を赤くする。しかし、志庵も恥ずかしかった。
「い、いや良いけどさ…」
「ありがと…お兄ちゃん…」
そのまま提督の肩に顔を埋めて寝た。
「あらあら〜天龍ちゃんったら」
少し頬を赤くした龍田が天龍を回収しにくる。
「私は天龍ちゃんを寝かしつけてくるわね〜」
「大丈夫?」
「平気よ〜、天龍ちゃん、軽いからぁ。心配してくれてありがとね、お兄ちゃん」
ヒラヒラと手を振り、龍田は食堂を後にする。
「ヘーイ提督ゥー!私のことは『お姉ちゃん』って呼んで甘えて良いんですヨー!」
「それは絶対に違うな」
「What!?なんでですカー!」
「提督あの、そろそろ駆逐艦の子達が」
「お?」
榛名に呼びかけられた志庵が周りを見ると、ちらほらと寝てしまっている子、うつらうつらとしている子が目に入った。
「じゃ、手分けして寝かせるか」
「いえ、私達が連れて行きます。お兄様が今回の主役なんですから」
「『お兄様』って…いや、でも」
「そうじゃ、兄上は座っておれ」
利根、お前もか。
「利根も出撃してたろうに」
「そうですよ、利根さんも座っていて。金剛姉さん」
「Yes!お兄ちゃん、少し待っててネ!子供達を寝かしつけたらadultの時間ヨ〜」
何人かの艦娘が、駆逐艦を食堂から連れ出していく。
「…おやすみ、お兄ちゃん」
「お兄ちゃん、まったあっしたー!」
…なんか駆逐艦のみんなも真似しだしてんだけど。と、朧型の3人も部屋を出ようとする。漣は元帥の所の所属で、寝る場所が違う。
「おっ休みぃ、おにーいちゃん!」
「あ、あの、…お兄ちゃんお休みなさい!」
「…すみ……ちゃん」
「おーう?どうした曙、そんなに小声じゃお兄ちゃんに聞こえないよー?」
1番声の小さかった曙を朧が茶化す。
「う、うるっさいわねぇ!お休み!クソ提督!」
「お休み」
志庵は苦笑いを浮かべて手を振る。これはハタから見たらどういう趣味の人間だと思われるのだろうなどと考えながら。
「急に兄妹が増えて大変だね兄さんは」
「お前のせいだよ」
そんな感じで、その夜は過ぎていった。
「こっち人手足りないんだけどー!そっち誰か手ぇ空いてない!?」
「悪いが手一杯だ!他を当たってくれ!」
ウズ。
「駄目よ、お兄様。怪我人なんだから大人しくしてなさい」
「むー…」
翌日から、鎮守府は修復作業の真っ只中だった。スピリットオブアンサラーの超長距離砲撃はほとんどは迎撃したものの、何発かを撃ち漏らしていた。鎮守府に直撃はしなかったが、衝撃により建物の中に色々と影響が出た。艦娘総出で修繕に当たっており志庵も参加しようとしたのだが、
「怪我人は大人しくしてなさい!もっと私達を頼って良いんだからね!お兄ちゃん!」
と止められた。志庵は装備やPAでダメージを軽減できるが、艦娘と違って入渠によって怪我を治すことが出来ない。ミサイルの雨でPAも剥がされ、志庵は結構な怪我を負っていた。そんな訳で志庵は執務室で大人しく書類を片付けていた。
「はいこれ。兄さんの書類」
玲と一緒に。
「ああ、あんがと」
現在、大本営宛の書類は志庵鎮守府に送られてきている。これはまあ仕方がないのだが、書類が志庵鎮守府宛のものと一緒くたにされてしまっているのだ。その為、効率を考えて玲と志庵は同じ執務室で机を並べて職務をこなしていた。
余談だが、玲が使っているのはよくある事務所机だ。始めの頃、志庵が明石の存在に気付かず、ホームセンターで椅子やら机やらデスクライトやら購入してしばらく使っていたのだ。明石の方から痺れを切らして志庵の所に怒鳴り込み、無理やり仕事机を買わせたのはいい思い出である。
「これ玲のだな。はい」
「ありがと」
玲はいちいち笑顔で返してくる。なんと言うか…可愛い。変な意味でなく。大淀’の話では、玲は出自が特殊で(18で元帥なんかやってんだからそうだろうなとは思うが)、家族と呼べる存在が少ない為に日頃から兄弟というものに憧れてたんだとか。志庵とは7つも離れているだけに、本当に年の離れた弟のようだった。
「良かったじゃないか志庵、良い弟が出来て」
セレンさんは、用事がないときは志庵の近くにいるようになった。
「ふふふ、何だか微笑ましいですね」
「そうか?」
そして志庵の秘書官をしているのは、元大本営所属の夕雲。他にも北上、大井、球磨、多磨、木曾、最上、三隈、鈴谷、熊野、漣という、ちょうど志庵鎮守府にまだいなかった連中が新たに志庵鎮守府の所属になった。理由は、自分の実力を更に高める為。
あの作戦のとき、志庵の他数名の装備には、玲が資料作成の為に用意した「撮影妖精」とかいうのが小型カメラを持って乗り込んでいた。そこには、海上をF1ばりの速度で動き回るN-WGIX/Vに対し通常の船の航行速度で立ち回る利根達の姿(志庵も見てて泣きそうになった)、志庵がN-WGIX/VのVOBを破壊するところからスピリットオブアンサラーを撃破する所までが克明に記録されていた。それを見た彼女らが、志庵鎮守府への異動を申し出たのである。
だが実際のところ、本当に自分を高める為に来たのは、大井を除く球磨型、最上型である。大井は北上を追いかけてきただけ。そして夕雲は−−
「あらお兄様、バッヂが曲がってます」
「いーよ。なんなら制服も着たくない。暑い」
「いけません。お兄様は鎮守府を象徴するお方なのですから、もっと服装に気を配らないと…」
この為である。志庵に惚れたのだ。デレ方としては雷と同じく、世話を焼くタイプ。雷は密かに危機感を抱いているとか。
「つーか玲はまぁアレとして、お前らいつまでそのネタ引っ張る気?」
「ゔー頭痛ぇ…提督、手紙だぜー。ちゃっちゃと読めよ」
天龍が気分悪そうに封筒を持って執務室に入ってくる。
「ほら、割と言い出しっぺの天龍がもう普通の呼び方に戻ってんだぜ。二日酔いか?昨日は珍しく酔ってたもんな」
「あん?昨日…?」
一瞬疑問で返した天龍だが、顔がみるみる赤くなっていく。
「う、うわああぁぁあ!!」
「アレ…」
ダッシュで逃げていった。ふと、天龍が走り去った先から放たれる視線にきづく。その人物は、換気の為に開け放たれた執務室の扉、そこから伸びる廊下の奥の曲がり角からじーっと志庵を見つめている。扶桑だった。
「見られてるね、兄さん」
「へ、俺なの?」
原因は、昨日の祝勝会でのあのやり取り。当然、志庵にそんな自覚などないのだが。艦娘として生まれて、1度は兵器として扱われ、それを享受した。それがここへ来て初めて人として扱われ、指示を受けるだけの存在だった筈の提督から優しさというものを向けられ、スッカリ心酔してしまったのである。
(提督のお側にいれば、きっとまた“良いこと”が…でもいつもいつも近くにいては迷惑になるかも…ならせめて、こうして見つめているだけでも…)
「何もしてくるわけじゃないなら良いけどさ…」
「お前は、少し言動に気をつけた方が良い。その方が身のためかもしれんぞ」
呆れたような、仕方がないような笑みを浮かべるセレンさん。
「へいへい」
その後、深海の連中から感謝の印に送られてきた様々な海産物を堪能したり、大本営に大打撃を与えた強敵を打ち倒した鎮守府として雑誌のインタビューを受けたりしながら、あっという間に一カ月が経過した。
鎮守府前には、既に迎えの車が来ていた。
「みんな、忘れ物はないな」
武蔵’の問いに、艦娘たちが思い思いに返事をする。
「さらばだ、提督」
武蔵’は志庵と固く握手すると、車に乗り込む。残るは玲だけ。
「賑やかな一カ月だったなあ」
「ホントだねぇ、あっという間だった」
沈黙。やば、少し泣きそう。
「ねえ、兄さん」
「ん?」
「できればさ、これから先も…」
我慢。兄として、泣いてるところは見られたくないな。
「おう。またな、玲」
志庵が玲の頭を撫でると、パァッと顔を上げ、笑った。
「うん!またね!」
そして玲も車に乗り込み、排気ガスを残して走り去っていく。
「またねー!」
「漣をよろしくねー!」
「手紙書くよー!」
「貰ったアクセサリ、大事にするからー!」
「弟をがっかりさせるんじゃないぞー!」
やがて車は点になり、霞んでゆく。
「志庵…これから兄として、しっかりせねばいけないな」
「どうだか」
一カ月と少し。将校鎮守府襲撃から始まった騒動が、幕を閉じた。