「転生の準備が整いましたので、閻魔殿へ向かいましょう。そこで、最後の説明なども致しますので今から一緒に来てもらえますか」
「え~、もう行っちゃうの~。せっかくなんだからもっとゆっくりとしていけばいいのに~」
鬼灯さん(とついでにシロ)が俺の寝泊まりしている部屋まで迎えに来てくれた。シロの方は、偶然居合わせただけみたいだが。そんな訳で、二人と一匹で閻魔殿へと向かうことになった。
「だいぶここでの生活が板についてきたようですね。此方の空気にも慣れたみたいですし、体調などにも変わったところはなさそうですね。どうです?死後には獄卒として此方で働いてみてはいかがでしょう。貴方でしたら私の権限で採用いたしますよ?......金魚草の世話係とか(ぼそっ)」
「ははは、それもいいかもしれませんね。次にここに来る時には、働いてみるのも面白そうです」
死後の世界で内定貰えました。まあ、転生してすぐには此方(地獄)には来たくはないけど。あと、体調については問題ないけど、こっちに来てしばらくしてから両肩がなんか重い気がするんだよな。そう思って何気なく右肩の方を見ると
〈◯〉〈◯〉
目があった。なんか、目が合った。そのまま左を向いてみる。
〈◯〉〈◯〉
「うあぁぁーーーーー!?なんか居るぅーー!!!って、女の子?」
いつの間にか両肩に小さい女の子がしがみついている。それぞれ白と黒の違う色の着物を着ていて、着物と同じ色の少し長いオカッパの髪をしている。日本人形のような女の子たちだ。
「おや、気づいてなかったんですか?その娘たちは座敷わらしです。ここ最近ずっと肩に乗せていたので、気付いているものと思ってました」
「隠れてた」
「ドッキリ大成功」
俺の肩から飛び降りて、いえ~いとハイタッチする座敷わらし達。え?ずっと乗ってたの?
「うん、ずっと乗ってた」
「人間から隠れるの得意」
「ナチュラルに心読むのやめてくれませんか」
最近の肩の重みはこの娘達だったのか。てか鬼灯さんも気づいてたんですね。きっとそのほうが面白いからって、わざと言わなかったに違いない。
「わざとではありませんよ。無意識のうちに私の心が選択した行動です」
「貴方もナチュラルに心を読むんですね。あと、尚更たちが悪いと思いますよ」
「いいじゃありませんか。座敷わらしが居たおかげで安全に見学できたのですから。下手なお守りよりご利益がありますからね」
そんな会話をしていたら、いつの間にか閻魔殿の裁判所についていた。中には閻魔大王と白澤さんが既に待っていてくれました。
「あっ、鬼灯君来たね。こっちは準備出来てるよ~」
「いつ見ても気分の悪くなる仏頂面だな。彼の転生の日なんだから少しは愛想よくしたらどうかな。ま、ムリだろうけどね」
準備は完了しているらしい。あと、白澤さんが鬼灯さんに挨拶代わりに悪態をついたら、隣に居たはずの鬼灯さんがいつの間にか白澤さんに目潰しを放っていた。悶絶して床を転げまわる白澤さんだが、今のは自業自得だからしょうがないと思う。
「では転生前に詳細や注意事項について説明させていただきます」
あ、悶えてる白澤さんはスルーするんですね。
「...あれ、それ儂のしご「これまでの準備期間のうちに一度説明いたしましたが、転生先の世界についての詳細をお教えすることは出来ません。また、二次創作の小説などにありがちな特典、所謂『ちーと』等もありません。このことは既に説明の際に了承されていますね」
確かに説明されたな。まあ、いくら手違いで死んでしまったとしても特典とかもらえないよね、普通。一方通◯とか王の財◯とか、それこそ転生先の世界をめちゃくちゃにしかねないようなものだし、仮にも死後の世界を管理する側の人間が渡しちゃダメだと思う。記憶があるまま転生ってだけで十分特典になってる気もするが。てか、閻魔大王ちょっと涙目になってますよ、鬼灯さん。
「......グスン。最近裁判でも多くて困ってるんだよねぇ。転生させるならちーと?寄越せって言い出す人。そもそも地獄行きなのに、コッチの判決も聞かずにいきなり訳のわからないものを要求してくるから、裁判が進まなくなって仕事が溜まるし、そのせいで鬼灯君に怒られるし」
「大王の威厳がないからいけないんですよ。ああいった輩はコレ(金棒)で叩きのめせばすぐにおとなしくなるんですから、情けなどかけずに手早く済ませばいいんですよ」
「いくらなんでもいきなり金棒はまずいって。この前だってそれで3人くらいぶっ飛ばしてたけど、あれだって色々問題あるんじゃない?」
「ありませんよ。そもそも、その3人は全員地獄行きでしたし、こちらに何の落ち度もないのに謝罪と特典付きの転生を要求してきたんですよ?いくら神様転生モノだと勘違いしていたとしても、図々しいにも程があります」
「神様転生モノ?」
シロが首をかしげている。確かに現世の人の、それも一部の人間にしかわからない用語だよね。むしろ鬼灯さんが知っているのが意外です。
「簡単に言うと、神様のミスで死んでしまった人が、そのお詫びとして様々な特典などを持って転生するという出だしで始まる話のことです。二次創作等の作品におけるジャンルの一つで、一種のお約束展開というやつですね」
「それってほとんどオニーサンのことじゃないの?白澤様のせいで死んじゃったし、今から転生するんだよね?」
「ああ、確かに似てますよね。そもそも彼は転生ではなく本来の世界に帰還するようなものですし、チートな特典も一切つきませんがね。それにアレ(白澤)は厳密に云うと神ではなくて神獣、もしくは妖怪ですからね。少し違うのではないでしょうか」
「......お前さ、なんでそんなに詳しいの?それって現世の、しかも二次創作ってことはプロが書いた作品じゃないんだろ?」
あ、それ俺も気になってました。ナイスです、白澤さん。
「ただの趣味の延長ですよ。こういった話は作者にとっての黒歴史になりやすいので、裁判の際に本人の前で読み上げたりするとなかなかいい精神攻撃になるんですよ。耳元で一部囁くだけで面白いように反応するので、自然と詳しくなりました」
ああ、趣味って
「因みに貴方に最初に話しかけた時に謝罪から入ったのもちょっとそれ(神様転生)を意識してみました。空気があわずに朦朧としていた様ですので、意味はありませんでしたが。.....話が逸れてしまいましたね。まあ、基本的な説明は一度していますし、この辺りは省きましょうか。シロさんも理解できてないようですし」
神様転生モノではいきなり神様側の謝罪から始まる作品も少なくないよね。土下座は流石にちょっとどうかと思うけど。あれ?そういえば閻魔大王は頭を下げ(させられ)ていたけど、鬼灯さんは下げてはいなかったような......気にしないことにしよう。
「......?とにかくオニーサンは『ちーと』が貰えないけど転生できるってことだよね?」
「概ねそれであってますから大丈夫ですよ。さて、では次に転生するにあたって貴方が選択できる事と、転生した際の注意事項、救済措置について説明します」
救済措置?注意事項はなんとなくわからないでもないが、救済措置ってなんだろうか?あと、転生の際に何か選べるってのは初耳だな。
「まず、貴方が選択できる事ですが、二つありますね。一つ目は、前世の自我の目覚めの時期が産まれてすぐか、五歳からが選べます。二つ目はここ(地獄)で過ごした記憶を消去するか、残すかです。この二点については、転生直前に全ての準備と説明が完了した時点で選択してもらうことになりますので、また後でお伺いします」
自我の目覚めの時期と、地獄での思い出の選択かぁ。思い出の方は残すのは確定として、自我の方はちょっと迷うな。
「注意事項については簡単で、『前世の知識を悪用してはいけない』の一点のみです。それ以外は自由に生きて頂いて構いません。まあ、前世の知識を使ってなかったとしても、罪を犯したら此処(地獄)で裁かれますので無いに等しい注意事項ですね」
確かに、あんまり意味が無いように思える注意事項だな。
「1000年位地獄での拷問が増えるから、気をつけたほうがいいと思うよ~」
怖えぇーー!!何があって無いようなものだよ!むちゃくちゃ罪が加算されてるじゃないか!!元々そんなつもりはなかったけど、絶対に悪用しないようにしよう。ありがとう閻魔大王。
「最後に救済措置の説明ですね。これは、『名前等の認識の初期化』『感情面の年齢に対して適正化』『幼少時の言動に関する補正』の三点ですね。この三点の救済措置は記憶を持った転生の際に必ず適用されるものです」
「なんでその3つなの?」
シロが鬼灯さんに質問する。俺が質問しなくても勝手に聞いてくれるので、楽でいいね。
「記憶を持った転生は、数こそは少なかったのですが前例がなかったわけではありません。この救済措置は、その先駆者たちの惨め......尊い犠牲によって得られた経験をもとに作成されたものなんですよ」
おい今惨めって言おうとしたよこの人。尊い犠牲って一体その転生者たちに何があったんだよ。
「まず『名前等の認識の初期化』ですが、これは転生した人が前世での自分の名前などを覚えていたせいで、自分が今生きている世界に馴染むことが出来なかったのです。親から名前を呼ばれるたびに酷い違和感に襲われ、結局最後まで親や周辺の人との間に精神的な壁を作ってしまい、孤独な一生を過ごしたそうです。そのため記憶を持って転生する方は、あの世では名前がない状態になるんですよ。現に彼には今名前がないでしょう?というか、最初の自己紹介の時にちゃんと説明しましたよね?シロさんやアヌビスさんがモフられた後に」
「......あ!!ホントだ!オニーサンのことずっとオニーサンって呼んでて名前知らなっかった!!」
今更!?5日間位あちこち一緒に回ったのに、名前がないこと知らなかったのかよ!?ちょっと悲しいんだけど。因みに、通常の死者の場合は転生した際に前世の記憶が消えるので、普通に地獄でも生前の名前のままだそうだ。最近は名前がないのにも慣れてきたけど、そんな理由からだったんですね。
「次は『感情面の年齢に対しての適正化』ですね。これは、乳児から自我があった場合は授乳の際に恥ずかしがってしまったり、同年代の女性を恋愛対象として認識できず、一生未婚のままになってしまった、といったことがあったのですよ。そのせいで両親達等から気味悪がられたりしまったり、精神のバランスを崩してしまわれた方がおりまして。そのために、そういったことへの抵抗をなくし、普通の生活が送れるようにするための措置です。授乳されるときは赤ん坊なのだから当然、恋愛も転生後の年齢だったら恋をするのは自然なこと、といったように認識できるようになります」
「それは可哀想に。僕なら歳の差なんて気にしたりしないのに!......まあ、さすがに若すぎる娘には手は出さないけどね。光源氏的なキープはするかもしれないけど」
成程。精神年齢が四十代とかで20や30も違う相手に恋愛感情を抱いてしまったら、自分はロリコンなんじゃないかと自己嫌悪に陥ってしまいそうだ。あと、白澤さんはそろそろ自重してください。
「最後の3つ目ですが、これはその時の外見年齢に相応しい口調や行動がとれるようになるといったものです。幼稚園位の子供が大人のように振る舞ったり、政治とかについて語り出したり、偉そうに説教を始めたりしたらかなり怖いですよね?実際にこの措置を作るきっかけとなった転生者は、2歳位の幼少期から全く自重せずに行動したため、最終的には実の両親に精神病院に入れられたり、エクソシストを呼ばれたりしていましたね。そういった事態にならないよう、自動で外見年齢に応じた言動がとれるようになり、自然におこなえる演技力が働くようになります」
確かに、五歳か生まれた時からのどちらの時点で自我が芽生えたとしても、普通にその年代の子供っぽくできるかといわれれば無理がある。多分、すごく不自然になってしまうと思う。
「思うんですけどコ◯ン君ってなんで正体ばれないんでしょうね」
あれれ~鬼灯さんがなんだか危ないことを言ってる気がするよ~。それ以上いけない。
「まあ、どれも必要最低限のレベルだから、あんまり過信しすぎるのもいけないんだけどね。普通に暮らすぶんには全く問題ないんだけど、悪用とかは出来ないようになってるから」
「これで説明は全て終わりましたね。それでは、自我の覚醒時期と此処での記憶についての選択をしていただきたいのですが...よろしいですか?」
うーん、救済措置がわりとしっかりしているみたいだから、生まれた時から自我がある方がメリットが多いように感じるな。ただ救済措置で恥ずかしくなくなるらしいけど、やっぱり授乳とか下の世話とかは抵抗があるし。それに乳幼児の間は身体も自由に動かせないだろうし、かなり悩ましいところだよな~。
「此処での記憶は残してください。ただ、自我の覚醒時期については悩んでまして、ちょっと決めかねています」
「それなら絶対生まれた時からのほうがいいと思うよ~。なんせ君が転生するのは「フン!!」ぎょべっ!!」
アドバイスをしようとしてくれたらしい閻魔大王が鬼灯さんに金棒で潰されました。多分、俺の転生先について口を滑らせそうになったせいでしょう。
「......全く。閻魔大王が率先して法を破ってどうするんですか。まあ、自我の覚醒時期については私もそちらのほうがいいと思いますよ。時間はあって困るものではありませんし」
どうやら生まれた時からのほうがオススメのようです。しかし、閻魔大王が言いかけた言葉がかなり気になる。『なんせ』って、かなりひっかる言い方だよね。あんまりいい言葉が続きそうにないんですが。
「おにいさん不安そう」
「そうだね、可哀想に」
いつの間にかまた肩の上によじ登っていた座敷わらし達が同情の眼差し?を向けてくる。何故だろう?感情の読み取れない瞳に見つめられるとさらに不安になってくるのだが。
「...仕方ありませんね。大王が口を滑らせたことが原因ですし、少しだけ助言して差し上げましょう。確かに、転生先の世界は、貴方の元いた世界よりも多少危険度が高いです。それに、貴方はかなりの確率で巻き込まれてしまうでしょうね......『ストーリー』に」
最後の方は小声だったが、なんとか聞き取ることが出来た。もしかすると俺が転生する先って......
「お前も大概素直じゃないねー。そこまで言ったならもう言っちゃえばいいのに。ほとんど言ってるようなものじゃないか、彼の居た世界では『物語とされている』世界だって。男のツンデレとか気持ち悪いし、はっきりしない男はモテな」 ッゴ!!
鬼灯さんがあえてぼかしたであろうことはっきり言っちゃう白澤さん。そして金棒で潰される白澤さん。
「ッチ!......とにかく、時間は有効に使うことをオススメします。何事にも備えあれば憂いなしと云いますし、常日頃から心掛けていれば此方(あの世)にすぐに来ることもないと思いますよ......多分」
「わかりました。では、自我の覚醒は生まれた時点からでお願いします......俺も生き返ってすぐに死にたくはありませんから」
『物語とされている』てことは、俺が元いた世界では創作物、つまり漫画や小説、ゲームの世界が現実として存在しているってことか。その中の鬼灯様的に「多少危険度が高い」世界に転生するんだよな。......ドラゴン◯ールとか、ベ◯セ◯クとか北◯の拳とかだったら生き残れる気がしない。しかも、巻き込まれる可能性が高いみたいだし......オラ、(身体が恐怖で)ガクガクしてきたぞ!!
「震えてるね」
「寒いのかな?」
怖いんだよ!!
「大丈夫ですよ。詳しくお教えすることは出来ませんが、世界が腐海の海に沈んだり、巨◯兵が火を吹いたりはしてませんから。それに、巻き込まれるとはいっても、関わろうとしなければ回避できる程度のものになるはずです。命に関わるような危険はそうそうありませんよ」
無いとはいってくれないんですね。あと、ジ◯リ好きなんですね、やっぱり。
「ごめんねー。こればかりは修正が効かないんだよ。本来いるはずだった世界だから拒絶反応とかは無いんだけど、時間軸とかがずれちゃってるからさ。それを世界が『すり合わせようとして』、結果としてそういうことになっちゃうんだよ」
「それと勘違いなさらないように言っておきますが、あくまで貴方が転生するのは『現実』の世界です。漫画やゲームの世界に入り込むということではありませんからね」
「つまり、知ってるキャラやイベントとかがあっても、漫画やゲームのストーリー通りには進まないってことだね。君が元いた世界での物語はあくまで『未来の可能性の一部』を偶然誰かが自身の想像として『観測』した結果描かれたものだからね。断言してもいいけど、絶対に『物語のとおり』になんかならないから。あと、当然だけどその世界の人達はちゃんと『生きている』し、その世界の未来も定まったりしてはいないからね?そこのとこしっかり理解しておいたほうがいいよ。まあ、君は心配無いだろうけどね」
復活した閻魔大王が説明してくれる。もしかしたら、元いた世界の事もどこかの世界では同じように物語になってたのかもしれない。知っている物語だったとしても、所謂『原作知識』は余り役に立たないと考えていたほうが良さそうだ。でも、どんな世界に転生したとしても、『生きた人間』を『二次元のキャラ』として捉えるような失礼なことは無いようにしよう。イメージとかで先入観くらいは抱いてしまうかもしれないが。
「因みに管轄は此方ではなかったのですが、そのあたりのことを勘違いしたのがいましたね。割りと最近の転生者で、『どうせ漫画のキャラだから』、『物語に名前すら出ないようなモブだから』といった理由で罪のない人達を『自分の力を確かめるための実験材料』として殺害していまして。余りに酷すぎる有り様を見かねて、地獄側が動く程の騒動になったのですよ。本来地獄は現世には干渉できないんですが、特例として私が現世に行って叩き潰してきました。現在も地獄で拷問中で、輪廻の輪に戻れるのはまだまだ先です」
「あ!それもしかしたら噛んだことあるかも!!なんかモブを殺してなにが悪いとか、俺はオリ主なんだぞ!とか叫んでた!!」
うわぁ......痛々しすぎる。そういう踏み台転生者的思考の人間は二次創作の中だけだと思ってたけど、マジで居いたんですか。というか、転生者だからといって人を殺していいなんて理屈にはならないと思うんだけど。
「あれは酷かったねぇ。仕事柄、罪人と接することは多かったけど、まさか転生者を裁くことになるとは思わなかったよ。凄い後味の悪い事件だったよね」
「ええ、本当に。それに、適当に転生させた責任者を吊るし上げるのは少し骨が折れましたね。本来、記憶を持った状態での転生は特例中の特例なんですよ。軽々しく行ってもらっては困ります。しかも、わざわざアレな性格の魂を選んでましたからね。まあ......相応の地獄を見ていただきましたが」
どうやら関係者(転生者含む)には天罰(の形をした拷問)が下ったらしい。インガオホー。
「さて、これで後は転生するだけなのですが......今回は
「お、ようやく僕の出番だね。本来僕は為政者の瑞兆を司ってるんだけど、それじゃあ微妙だと思ったから別の祝福をさせてもらうよ」
そういえばそうだった。さっきまで床で悶えてたからちょっと忘れかけてました。それにしても、どんな祝福なんだろうか?
「あんまりやりすぎなのは認められないけど、どう云う祝福をかけるんだい?本来の形でないのならそこまで強力なものにはならないだろうから、大丈夫だと思うけど」
「なに、それほど大したことはないよ。精々ほんの少し初対面の人の印象が良くなる程度の祝福だから」
なるほど、なんとなくいい人っぽいオーラがでるとかそんな感じになるのかな?......犬とかの動物にも効果があればいいな。
「......まあ、それくらいならチートのうちには入らないでしょう。さっさとかけろスケベ大魔王」
「スケベなのは否定しないけど大魔王じゃないし!!神獣だし!......ゴホン。さて、じゃあ今から祝福するから動かないでね」
言い終わると白澤さんはなにやら桜色の液体の入った瓶を腰につけていた袋から取り出し、おもむろに空中に放り投げた。俺の頭上で静止した瓶の栓がひとりでに抜けて、中の液体が零れ落ちる。零れた液体は空中で淡く輝く粒子となると、俺の周囲を旋回するように漂い始めた。それと同時に白澤さんがどこの言語かもわからない呪文のようなものを呟く。あ、この粒子ほんのり桃の香りがする。
「ーーーーーーーーーーこんなとこかな。うん、もう動いても大丈夫だよ。今は変化はないけど、転生したらちゃんと効果がでているはずさ!」
「そうですか。ありがとうございます」
「もともと僕のせいだからね~。礼をいわれるとちょっと申し訳ないよ」
なにかが変わったかとかの実感はないけれど、多分大丈夫なんだろう。
「終わりましたね。それでは転生の儀に入りたいと思います。少し場所を移動しますのでついてきてください。あと、申し訳ありませんがシロさん達はここまでとなりますので」
どうやら此処でシロや白澤さん、座敷わらし達とはお別れらしい。
「そうなんだ。また地獄に来たら遊ぼうね!!あ、お土産は食べ物がいいな!!」
「軽いな、おい。なんかちょっと旅行に行くみたいな感じになってるぞ、シロよ。でも地獄では貴重なモフモフ成分だったからだいぶ癒やされたよ、ありがとな」
とりあえず、最後なので撫でておこう。もふもふ。
「......がんばれ?」
「......負けるな?」
なんか違う。てかなんで疑問形なんだ座敷わらシーズ。
「まあ、あんまり一緒にいた感覚はないけど、ありがとう。多分、お守り的な感じで守ってくれてたんだよね?」
「「じゃあね」」
そのまま、別れの一言を告げるといつの間にか二人は消えていた。最後、ちょっとだけ照れていたように感じたのは俺の気のせいだろうか。表情は変わってなかったけど。
「......君には迷惑をかけたね。転生先での幸せを心から願っているよ」
「ありがとうございます、白澤さん。でも、ほんとにあまり気にしていませんから。祝福してくれただけで十分ですよ」
逆に言えば白澤さんがいなっかたら今までの俺の人生ははなかったわけだから、その点に関しては感謝さえしているくらいだ。ただ、女性関係はちょっと自重してくださいね。
「それは無理だね!!」
「心を読むな。そして、少しは懲りないとまた中(チュン)さんにどつかれますよ」
なんだかグダグダになったが白澤さん達との別れを済ませ、鬼灯さんの先導で「転生の儀」とやらが行われる場所に移動しました。
「それじゃあ、今から君を転生させるよ。自我が目覚めるのは産まれてすぐだから、体の感覚とかがだいぶ違うから混乱しないようにね」
「では、その台座の中央辺りに立っていただけますか。......はい、そこで結構です」スチャッ(金棒)
「......あの、なんで金棒を構えてるんでしょうか?」
何故か金棒を取り出しブンッ!ブンッ!と素振りをし始める鬼灯さん。凄く、嫌な予感がするんですけど。
「ええっとね、その......ホントは転生って仏様とか神様の担当だからさ。ちょっと、今その辺の人達の都合がつかなくて......転生の方法がちょっと地獄式になっちゃたらしいんだよ」
地獄式って金棒使うの!?いくらなんでも物騒すぎるだろ!!おお、ブッタよ寝ているのですか!?
「あ、このちんちくりんステッキ(金棒)は気にしないでください。それと、ブッタ様は現在立川でイエス・キリスト様と一緒に休暇中です。転生関係の神様たちも今ちょっと中ですので、力不足かもしれませんが私が儀式を進行させていただきます」
さらっと凄い情報が混ざっていた気がするが、ちんちくりんステッキ(金棒)が気になってそれどころではない。
「鬼灯君、あんまり脅かしちゃダメだよ。実際金棒なんて使わないでしょ」
「ステッキです。まあ、転生の儀には使いませんね。これは閻魔大王用ですし」
えっ!?と驚いている閻魔大王を無視して鬼灯さんは儀式を再開する。なんだか不思議な呪文のようなもの紡ぐと、俺の足元に陰陽道の陣のようなものが現れる。どうやら、本当に金棒は使わないようだ......良かったぁ。
「それではこれで暫くはお別れですね。次会うときは容姿などが変わっているのでしょうが、地獄での就職の件はかなり本気ですので考えておいてくださいね。でも、あまり早く此方に来るようなことがないように。転生した人がすぐに死んでしまうと、此方の落ち度となり仕事が増えてしまいますので」
鬼灯さんらしい別れの言葉である。素直に「気をつけて」って言わない辺りが。
「ありがとうございます。ここで過ごした時間はとても有意義で、楽しかったです。案内してくれたり、色々と良くしてくださったことに感謝しています。此方(地獄)の方にこういうのもおかしいかもしれませんが、どうぞお元気で、また会いましょう」
「色々と大変だとは思うけど、向こうに行っても頑張るんだよ。力にはなれないけれど、ここから君の無事を祈らせてもらうよ。あ、悪いことはしちゃだめだよ?君を裁きたくなんてないからね」
「はい、閻魔大王も......その、(金棒とかに)お気をつけて。ありがとうございました」
「さあ、仕上げに移りますよ......無事に転生しましたら『力』の使い方をよく練習することです。それではまた。......はあっ!」
鬼灯さんが力を込めると、段々意識がぼんやりとしてくる。周りもなんだか光りに包まれている感覚がある。そして、俺はーーー
「......行きましたね。無事に成功したようでなによりです」
「大丈夫かな、彼。確か、彼の世界では『すとりーとふぁいたー』ていうゲームになってるんだよね、転生後の世界」
「まあ、彼なら大丈夫なんじゃないでしょうか。......さあ、そんなことよりさっさと仕事に戻ってください」
「そんなことって......。まったく、君も素直じゃないよね~。ちゃんと最後にしっかりアドバイスしてたじゃないか。そんなだから白澤君に『つんでれ』とかっていわれるんだよ」
「さっき言いましたよね......このステッキ(金棒)は大王用だと」
「え、ちょっと待って。なんで振りかぶっ「ちちんぷいぷい!!」プギャ!?」
「......さて、仕事に戻りますか。大王も寝てないで早く仕事してください」