「『コンティニュー』します?」
「......え?」
突然の選択肢に戸惑う。しかし鬼灯さんは構わずに説明を続ける。
「そもそも、貴方の死に関係する事件ですが、あまりにも発生のタイミングが重なりすぎているでしょう?これも、貴方を誤った世界に転生させてしまったことで生じた歪みが集約した結果発生してしまったようなものです。本来なら違う場所や時間帯で発生していたはずだったのですが」
「......ということは、俺が居なければあのような事件は起きなかったということでしょうか?」
俺が居たせいで発生した歪みであるなら、俺の責任もかなりあるように思う。あの女子高生とか、確実にトラウマものの光景だったと思うし。
「いや、それは違うよ。そもそも君が居なくてもあの事件自体は起きていたみたいだしねぇ。歪みの影響は、事件が同時に発生して君を巻き込んだことのみにしかでてないみたいだからね」
「それに、貴方が巻き込まれたことで、本来死亡するはずだった3名の人の命が救われているんですよ。最初のトラックに轢かれそうだった少女、建材の下敷きになりそうだった少年、それから最後の女子高生は貴方の存在があったからこそ助かったといえるでしょう」
俺を気遣ってくれたのか、閻魔大王と鬼灯さんがすぐに説明をしてくれた。......お陰でだいぶ精神的に楽になった気がする。正直自分のせいで死人が出そうだったなんて、ちょっと受け止められる自信がないです。
「つまりですね、貴方はこちらのミスで3度もの死ぬほどの苦痛を味あわせてしまった上に、家族とも死に別れる結果となってしまいました。それだけでなく、3人もの未来ある人間の命を救うという功徳まで得た状態で今ここに至るわけです」
ですので、『コンティニュー』できるわけです。と鬼灯さんは再びこちらに問いかけてくる。
「因みにご家族の方には今回の加害者側から賠償金などが出ましたので、貴方を亡くした痛みは癒えることはないでしょうが、生活面では一生困ることはないでしょうね。このことで、親より先に死んでしまった罪科の方は帳消しとなっております。さて、どうなさいますか?」
「あの、コンティニューというのは、死んだところから生き返る的なものと考えていいんでしょうか?」
コンティニューて、『続きから』って意味だから、今回の場合だとあの立ち往生の状態から奇跡的に息を吹き返すとかになるんだろうか。
「いいえ、違います。この場合は『本来』の貴方がいるはずだった世界に生を受けることになります。その際に、貴方の記憶などはそのままの状態になりますので、貴方の感覚的にいうならば今までの人生の『続き』を『本来の世界』で過ごしていただく形になります......貴方の体質や魂などの在り方を考えるとこれが最善の形だとおもいますね。今までの世界で生き返ったとしても、まず間違いなく今回のような事件に巻き込まれてしまう事になるでしょう。貴方がどうしてもと仰るならそちらでも構いませんし、転生せずに輪廻の輪に加わっていただくことも可能ですが」
......要するに、『本来の世界』とやらで今の意識を持ったまま生活するか、記憶を消してリスタートか、わざわざ今回のような目にあいに『今までの世界』にもどるかの三択ということになる。ほぼ一択のように思えるけど。
「......コンティニューでお願いします」
さすがに今の自分の意識がなくなるというのは、感覚的に許容できないし、わざわざ酷い目にあうためだけに生き返りたいとは思わない。
「そうですか。まあ、そうなりますよね。それではコンティニューの方向で手続きいたします。ただ、今回はほぼ前例のない特殊な形式の転生となりますので、そちらの感覚で一週間ほどの時間がかかってしまいます。その間は、此方(地獄)の方で過ごしていただくことになりますのでご了承ください。もちろん部屋も用意いたしますし、なんでしたら此処の案内などもいたしますよ?」
「そうだね、この機会に見て回るといいと思うよ?何なら案内し「私が案内しますので、大王はさっさと仕事してください」っええ!?」
バッサリと閻魔大王の発言を切り捨てる鬼灯さん。どうやら地獄を案内してもらえるらしい。それは嬉しいといえば嬉しいが、一体どんな所を回るんだろうか?......血の池地獄とか?
「今日の予定としては、あと一つだけ説明があるんですが......そろそろ来るはずですね」
そう鬼灯さんがつぶやいた時、入り口の扉が開く音がして誰かが此方に歩いてくる。
「ニーハオ!!お香さん!今日はデートの誘いをありがと......ぁあ゛!?なんでお前がいるんだよ!?お香さんは!?」
なんか、軽薄そうなイケメンが入ってきたと思ったら、突然鬼灯さんに向かってキレはじめた。手に持ったバラの
花束が痛々しい。
「馬鹿がのこのこやって来ましたね。ああ、お香さんなら此方には居ませんよ。いつもどおり衆合地獄のほうで勤務中ですから。あの手紙は記録課の葉鶏頭(はげいとう)さんに書いてもらったものです。達筆だったでしょう?」
「巫山戯んなああああ!!僕のワクワクドキドキを返せ!!お香さんかと思ったら実はハゲが書きましたって詐欺もいいとこじゃねーか!!どんな罰ゲームだよ!?」
「そもそも、地獄の裁判所で待ち合わせの時点でおかしいと思わなかったのですか?女性からの誘いというだけで不用心に信用するからこういう目に合うんですよ。それでも神獣ですか?」
「っく!確かに今考えると妙に文面がクソ真面目だったし、便箋も無地の色気ないやつだった!!それに、いつものお香さんの字じゃなかったし嫌に達筆だった。いつの間にか机の上に置いてあったし、なんか今日はやたらと桃(タオ)タロー君の視線に憐れみのようなものを感じたのはそういうことだったのか!!」
むしろ何故気づかなかった?ヒントめっちゃ出てましたやん。ほぼ気づいてたのに差出人が女性というだけで騙されてんじゃねーよ。
「さて、ようやくコレ(白澤)も来ましたので本日最後の説明に入ります。今回の手違いが起きたそもそもの原因は白澤(はくたく)とかいうなんちゃって神獣のせいなんですよ」
「「え?」」
鬼灯さんが、今やってきた白澤さんの方を見ながらそう告げる。いきなりの新事実に、自分のせいだと指摘された白澤さんと思わず同じリアクションをしてしまった。
「確かに、閻魔大王が書類を見落としていたのは事実ですが、五道転輪王の書類がこちらに紛れ込んだことがそもそも今回の件の原因です。......さて、そこのロクデナシ色魔、五道転輪王の泰山庁ときいて何か思い当たりませんか?」
「おい、そのロクデナシ色魔て僕のことかな!?......ん?五道転輪王?......もしかして、いや、でも、そんな......まさかね~」
あるのかよ、心当たり。
「......キョンシー」
「っつ!!もしかして、チュンが関係してたりするのかナ?」
鬼灯さんの呟くような一言に観念したように白澤さんが聞き返す。
「ええその通りです。五道転輪王の補佐官の中(チュン)さんは昔とある性悪神獣に乙女心を弄ばれたせいで、その神獣を見かけると我を忘れて襲いかかってしまうんですよ。そして、今回の書類があった場所で運悪くその神獣(ハクタク)を見てしまい、大量の書類がめちゃくちゃになってしまったんです。その際にチュンさんの服に貴方の書類が挟まってしまっていたようで、それが投げ飛ばす際にこの淫獣の服の方に移ったらしく、その後すぐに性懲りもなく閻魔殿の女官を口説きに来たコイツが、確認もせずに書類を適当にチェック済みの筈の資料棚に戻したせいで係の職員がそのまま閻魔大王に提出してしまったんですよ」
「アハハー......マジで?」
「ええ、大マジですよ。貴方、ほんとに吉兆を司る神獣なんですか?不幸運んできてどうするんです、この役立たずが」
どうやら、原因は白澤さんの女性関係のだらしなさにあったらしい。確かに、本当に神獣なのか疑ってしまうのもしかたがないと思えるレベルの理由だと思う。鬼灯さんはそのまま白澤さんに今回のことをひと通り説明している。てか閻魔大王様悪くなくね?なんで謝罪させられた上に金棒で潰されてたんだ?
「イヤ~、うん、そうみたい。......君には悪いことをしてしまったみたいだ。すまなかったね」
説明を聞き終わった白澤さんは真剣な表情で謝罪してくる。まあ、理由はどうしょうもなかったけど、悪い人?(神獣?)ではないみたいだ。
「気にしないでください。確かに痛い思いをしたみたいですけど、俺は覚えてませんし。それにこれまでの人生はそれなりに楽しかったですし、3人も助けられたんで結果的には間違って転生して良かったんじゃないですかね」
まあ、残してきてしまった家族とかに心残りがないと言えば嘘になるけど。
......実際、映像を見せられた今でもあんまり死を体験した実感がわかないので、白澤さんを責める要素がないんですよね。
「......君が転生する際には力の限り祝福させてもらうよ。これでも吉兆の印とされる由緒ある神獣だからね。なにかのご利益くらいはあるだろうからさ」
申し訳無さそうにそう告げてくる白澤さん。何やら転生時に祝福してくれるらしい。
「まあ、こんなの(白澤)の祝福でもないよりはマシだと思いますよ......もしかしたら、下手な呪いより厄介なものになるかもしれませんが(小声)さて、これで本日の説明は終了となります。部屋に案内しますのでついてきてください。此処(地獄)の案内や、残りの説明は明日からおこないますので」
鬼灯さんに促されて裁判所を後にする事になった。別れ際に「またね~」と手を振るフレンドリーな閻魔大王が印象的だった。「今度会うときは桃タロー君も連れてくるよ~」と白澤さんも見送ってくれた。
そして、俺はーーーーーー
「オギャアァアアアアアアーーー、オギャアァアアアアアアアーーー」
と泣き叫ぶ奇妙な植物?の前に居ます。
「どうです、見事な金魚草でしょう?」
そこはかとなく自慢げな鬼灯さん。閻魔殿の中庭にあった菜園のようなスペース一面に広がるビチビチと蠢く謎の植物?達。なんだこれ...なんだこれ!?金魚草てこんなのじゃなかったよね!?
「そ、そうですね~。現世の金魚草とはずいぶん違うのですね」
「ええ、地獄に咲いていたものを私が此処に移し替えたらこのように。あ、よかったら触ってみますか?」
鬼灯さんはそういうと手を軽くパンパンと叩いた。
カッ!カッ!カッ!
鉢植えに植えられている金魚草が『歩いて』こちらに近づいてきた。正確には歩いてというよりは茎のしなりを利用して飛び跳ねるように移動してきた。...触らないといけない流れですよね、コレ。
「...では失礼して」
鬼灯さんの
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
そんな、声まで変わって...
「む、これは!」
金魚草の色が変わったことに鬼灯さんが気づいたみたいで、驚きの声をあげる。
......
......転生する前にまた死んでしまうかもしれない。
「間違いありません。これは『ざわめくトルコ石』!それもここまで色鮮やかになるなんて......。すいません、もう2,3匹触って頂いてもよろしいでしょうか」
なんか喜ばれました。なんでもこの色の金魚草はマニアの間で珍重されているそうな。なぜ触った金魚草が変色したのかはわからないが、どうやら助かったみたいだ。
......死んでいるのに寿命が縮むかと思った。
その後、本日二度目となる期待の眼差し(無言のプレッシャー)を受けて、10匹ほど「ざわめくトルコ石」とやらを作らせていただきました。3メートル位のやつは、かなり時間がかかったけど。
その後も、閻魔殿を中心に色々と案内してもらいました。途中で仕事を休憩(サボり?)していた閻魔大王が、釜茹でにされてたような気がしたけど、きっと気のせいだと思うんだ。
「ねえねえ鬼灯さま、このひとだ~れ?」
「おい、シロ失礼だろ。鬼灯様が案内されてるんだぞ。VIPとかだったらどうするんだよ」
「まあ、見慣れない服だけど、現世の人っぽいから違うと思うけどな」
......普通に動物がしゃべっている。植物?が鳴き声をあげるくらいだし、不思議ではない...のか?
それにしても、犬に猿に雉って、まるで桃太郎のお供のような組み合わせですよね。
「ああ、シロさん達ですか。こちらの方は訳あって転生なされるのですが、その準備で待たせてしまっているので地獄を案内しているところなんですよ。あ、こちらの三匹は、昔話の桃太郎でお供をしていた犬猿雉です。いまは等活地獄にあります不喜処地獄で働いてもらっています」
「あの、いきなりで申し訳ありませんが......
モフモフさせて頂いてもよろしいでしょうか?自分、そういうのに目がなくてですね」
目の前の白いモフ☆モフ。これはもうモフリストとしては見逃すわけにはいくまい。犬!モフらずにはいられない!!!伝説?おそらく自分より年上?それがどうした!!!俺は自重をやめるぞぉーーー!!J◯J◯ーーー!!
この後めちゃくちゃモフモフした。もちろん、猿と雉も。あと、偶然通りかかったアヌビスさんもナデナデさせていただいた。スベスベでした。周囲の鬼の方々が若干引いていたみたいだが、なに、気にすることはない。
二日目以降も色々と案内していただきました。
たとえば、
「鬼灯様、絶対自分で桃源郷案内したくないからって俺らに押し付けたよな」
「まあまあ、いいじゃんか唐瓜~。おかげで楽ができるんだからさ~」
子鬼の二人に桃源郷を案内してもらったり、
「やあ、いらっしゃい。待ってたよ。おーい
頬に見事な紅葉(手形)をつけた白澤さんが迎えてくれたり、
「ああ、あの白澤さんのせいで酷い目にあったていう人ですか。どうもここで薬師の修行してます、桃太郎です。よろしく」
「ハハッ!手厳しいな~タオタロー君は。ちゃんと僕だって反省してるんだよ?」
「頬にそんなの(ビンタのあと)つけてたら説得力ゼロですよ」
「そんなことはないよ!普通なら男なんてただそこに居るだけとしか認識してないけど、彼のことはちゃんと悪いことをしてしまったと思っているさ!」
「そもそも、アンタの女癖の悪さのせいでそうなったんでしょうが。すぐに女遊びしてんじゃねえかよ。反省どこいった」
「それはそれ、これはこれ」
(昔話の)主人公きちゃった!それと、白澤さんェ...
そんなこんなで桃源郷を中心に色々と見学して二日目は終了しました。お酒の滝とか、桃の木の林とかすごかったなー。あとたくさんいた兎が可愛かったです。桃太郎さんが俺に桃をくれたので一緒に食べたけど、桃を食べる桃太郎って絵面的にかなりシュールですよね。
三日目以降も様々な所を回った。基本的には鬼灯さんが案内をしてくれて、子鬼の二人や時々白いモフモフ(シロ)が一緒についてきた。天界の案内は白澤さんや桃太郎さんがしてくれて、様々な人?達と出会えたり、珍しい場所などもみることができた。
以下、ダイジェストでお届けします。
「儂のオススメはシーラカンス丼だね。食べてみる?」
「タヌキこ◯す」
「ちょっ!鬼灯君何これ!?すごく痛いんだけど!?」
「あらあら、貴方が今噂になってる転生待ちの方かしら?はじめまして、衆合地獄で働いているお香です。宜しくね」
「葉鶏頭と申します。......ハゲではありませんよ」
「タヌキ◯ね」
「あ、鬼灯様。おはようございます。この間の金魚草大使の衣装がまだ家にあるんですけど、どうしたらいいですか?」
「おはようございますだニャーン、鬼灯様。今日は視察か何かですかニャ?お連れの方は初めましてだニャン?マキちゃん、質問する前にちゃんと初めての人に挨拶するニャーン」
「裂けるうぅぅぅ!!!裂けちゃうからアアアアァァァーー!!鬼灯君!!止めてぇーーー!!」
「アレは
「これは鬼灯様、お疲れ様です。自分は今この辺りの見回りの最中なんですよ」
「今の方は源義経さんです。烏天狗警察の長をしてもらっていますね」
「その時はあちらをおもいっきりお噛み申し上げる」
「あらー、鬼灯様じゃない。そちらの方はどなた?はじめましてよね?」
「ああ、カマーさんですか。此方の方が件(くだん)のトルコ石の方ですよ」
「まあ!あのトルコ石(金魚草)の!!ぜひ今度の金魚草コンテストにゲストで来てほしいわ~」
「これ絶対拷問だよね!?鬼灯君!?どこが現世式マッサージなのさあああああー!!」
「おや、コレは鬼灯様。ニャンかいい特ダネでも知りませんかニャ。おっ?ソッチの旦那はどなたで?」
「またアナタですか小判さん。いい加減にしないと、本来の意味での猫鍋にしますよ」
「なんだい鬼灯様じゃないかい。え?EU地獄まで送ってほしい?よし任せときな!さあさっさとコイツ(火車のバイク)に乗った乗った、全力で飛ばすからねぇ!振り落とされるんじゃないよ!」
「げぇ!?テメエ何しに
「あらん、鬼灯様じゃない。ゆっくりしていってね。ダーリン(ベルゼブブ)がうるさくてもきにしないでね」
「---え~、という訳でして、私は自分の姿を鏡で見た時、ありだな!と思ったわけなんですよ。だから----」
「あれがサタン様ですよ。え?イメージと違う?」
「タヌキコロ◯タヌキシ◯タヌキシスべ◯タヌキケスタヌキキエロタヌキハゼロ」
「あれぇ?鬼灯さんだぁ。こんな
「苦しいぃ、鬼灯君、首がしまってるからぁぁー」
「アナタが私が迷惑をかけてしまった人?ホントにゴメンだよ。アイツが目の前で他の女とイチャイチャしてたから、つい」
「ああ、君がチュンが迷惑をかけてしまった人だね。僕からも謝らせてもらうよ。元々は僕(五道転輪王)の管轄だったはずの案件だしね」
......本当に色々あったなぁ、、地獄の人たちキャラ濃すぎるよ、マジで。というか、タヌキに対して殺意の波動に目覚めてるっぽい兎と、お仕置き(という名の拷問)をされている閻魔大王との遭遇率がすごく高かった気がする。まあ、大王の方は鬼灯さんが俺と一緒に行動していたから目撃してしまうのは仕方なかったのかもしれない。兎の方はわからんが。
そんなこんなで、転生待ちの数日間は、地獄(時々桃源郷)にしては、面白おかしく過ぎていった。