ウチの真姫がファーザー・コンプレックスを患ってしまった件について   作:うなぎパイ

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お久しぶりです
それはもう超お久しぶりです

あれ、俺こんな小説お気に入りしてたっけ?て思っている方が殆どだと思います
もうね、仕事がね、忙しいのね

台詞は出来上がっていたんですけど、地の文がまったく書けなかったんですよ
正直、クオリティーが下がっているのが否めません

ま、最初からクオリティーなんて無いんだけどな!!


第5話 スタートライン

「はぁ……はぁ……」

 

冬の朝は寒い

走りこんで体が温まっても口から白い息は出て、手が悴んで仕方が無い

普段なら面倒な事この上ないが、今回は違う

 

「もう少しか……」

 

そろそろ目的の場所に着ける距離にまで来ている

証拠に、今霧に覆われている道の先に人影が見えた

シルエットにしか見えないが、それはぴょんぴょんと上に飛び跳ねていて見ているだけで可愛らしくて、思わず笑ってしまう

間違いなく、あの人だと

見間違えることが無い、あの人だと

 

「おはようございます」

「おはようございますッ」

 

辰宮楓さん

相も変わらず、その美貌は輝きを失うことは無い

だが美貌だけではない

子供っぽさ、可愛らしさ、美しさ、妖艶さ、まるで女性の望む全てを一つの器に隙間無く詰め込んだような、自分の望んだ女性像を具現化したような女性

挨拶をすると、彼女は未だに緊張した面持ちで返してくる

服装は完全フル装備の防寒具

耳あてまでしていて、全体的にモコモコしたような印象を受ける

羊の様に可愛い

モコモコしたい(意味深)

 

「態々すみません、こんな朝早くにまで来て貰って」

「いえいえッ、気にしないで下さい。私が好きでやってることなんで。此方こそスミマセン、こんな場所まで来て貰って」

「走る道を変えてるだけで、特に苦労する事じゃありませんよ。それに、今は調整する時期ですからね。軽い運動をする位しかしませんから、少し長い位が丁度いいんですよ」

 

頭に掛けたフードを取る

休憩に入るのだと分かった彼女は『ハッ』と気づいたような顔をして、テクテクと芝生の上に敷いてあるビニールシートまで歩いていくと、キラキラした表情でペシペシと叩く

一杯の花柄のシート、そしてこのペシペシという叩き方

子犬の様に可愛い

なでなでしたい(意味深)

 

「こ、こちらにどうぞッ」

「ありがとう御座います」

 

そのまま持ってきてくれた弁当を食べる

こっちの事を考えてくれたササミや玄米などを使ってくれているようだ

その間『美味しく出来てるかな?』という不安そうな表情で見てくる

天使の様に可愛い

抱きしめたい(意味深)

 

「……調整、っていう事はもうそろそろって事ですよね?」

「そうですね」

 

先程と違った不安そうな表情で聞いてくる

少し潤んだ目が綺麗だ

子猫の様に可愛い

サワサワしたい(意味深)

 

「体調はどうですか?」

「特に問題はありません、メンタルの方にも余裕は十分ありますから」

「まぁ目標が『世界王者』って言う位ですからね、これ位じゃ動じていられないって所ですか?」

「そうですね、『日本王者』は自分にとってただの前座でしかありません。こんな所で躓いていてはどうしようもありません」

 

少し驚いた様な表情をするが、すぐにクスクスと笑い始める

カピバラの様に可愛い

トウモロコシをカリカリと食べて欲しい(意味深?)

 

「少し、調子に乗り過ぎですかね……?」

 

若干後悔しながらも尋ねると、彼女は首を横へ振り答えた

 

「大丈夫ですよ、だって私は西木野さんが『世界』のテッペンに行ける人だって信じてますから」

「……それはまた」

「それに、そういう夢を語ってる西木野さん……私、カッコよくて好きですよ?」

「-------------------------------」

 

その笑顔

その笑顔を見た瞬間に、疲れも邪な考えも全てが失っていくかのように感じた

まるで浄化されるような感覚

先程まで邪な考えをしていた自分が恥ずかしくなってくる

 

「弁当、ありがとう御座いました。また気が向いたらお願いします」

「また作らせて貰いますね」

 

恥ずかしい気分を振りほどくように立ち上がる

彼女はそんな俺をキラキラとした様な顔で見続ける

 

「辰宮さん」

「はい?」

「今度の試合、絶対勝ちますよ」

 

自分が出来る今精一杯の言葉

そんな言葉に彼女は満面な笑みで答えるのだ

 

「はい、頑張って下さい!」

 

そして俺は再び走り出す

彼女の期待を裏切るわけには行かない

 

 

 

「シャァッ!!」

 

 

今日の出来事

 

相も代わらず女神は可愛かったです、まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ドクンッドクンッ

 

あぁ煩い

心臓の鼓動が全身に響き、鼓膜を揺らす

 

「……大丈夫か、西木野」

「えぇ、大丈夫ですよ……」

 

控え室で椅子に座り、俯きながら答える

聞こえるのは鼓動の音だけでない

これから行く会場の声が騒音が届いてくる

 

「日本チャンプが何だってんだ」

 

世界に行くとほざいている人間が何を怯えている

今からやっとスタートラインに立とうとしてる所じゃねぇか

これまで試合、緊張なんて殆どしなかったってのに今回に限って襲ってきやがる

鬱陶しくてたまらない

そんな時に、ノックが掛かった

 

「西木野選手、時間です」

「……分かりました」

 

係りの人に呼ばれて立ち上がり、歩き出す

無言のままの俺に会長は何も言わずについて来てくれる

気を使わせてしまっている事が分かる

そういう所にはいつも感謝している

普段ならこのままリングまで会話をせずに集中するだけだった

だが、今日は、今日だけはどうしても自分の一つの我が侭を聞いて欲しかった

 

「会長」

「……なんだ?」

 

会長もまさか、こっちから話を掛けられるとは思ってなかったのか、驚いた表情をする

だが、真剣な声質から察したのかすぐに引き締めた表情へ戻した

 

「今回の試合の勝者インタビューの事なんですけど、少し私的な事に使っても良いですか?」

「……本来なら、止めるのが正しいんだがな」

 

会長は少し苦笑しながら背中を叩いた

 

「これまで、これと言った我が侭を殆ど言ってこなかったお前がそんな真剣な顔で言うんだ。今回位は大目に見よう」

「……ありがとう御座います」

 

これまでは自己満足でしかなかった試合

ただ自分の力を実感する為だけだった

それ以外のものなんて求めてなかった

だが、今日の試合は違う

 

「……やりますか」

 

これは彼女に捧げる、最初の俺からの贈り物だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ワアァァァァぁぁぁあッ!!!!!!!!!!

 

会場に入った瞬間、観客の声援の音量が一気に上がった

皆が俺に対して片手を上げ、声を張り上げて声援を送ってくる

これまでなら、それに笑顔で答えていたが、今回はそれが出来ない

ただただ真剣な眼差しで前を見据えるのみ

 

リングに上がり相手側、つまり現チャンピオンと顔を合わせる

 

『………………』

 

確か年齢は30前半

身長は俺とほぼ同等

体格的にはこっちの方が多少、分がある程度

だが、やはり場慣れをしているのか落ち着きが此方にも感じる

無言のまま互いに10秒程睨むと、弾ける様に離れ自分のコーナーへと戻る

 

「大丈夫か」

「緊張してないかって言われると、首を縦に振れないのが悔しいですよ」

「まさか、お前が緊張するなんてな」

「俺だって緊張の一つや二つしますよ。人の子ですよ、俺。」

「世界戦に行っても、いつも通りへらへらとやるもんだと思っていたよ」

「ま、その予行演習が今回ですよ」

「それだけ減らず口が叩ければ十分だ」

 

「行ってこい」と肩を叩いて、会長はリングを降りていった

俺はそれに「うす」と短い返事をするだけだ

 

そんな時にふと、ある一点に目がいった

 

「………………」

 

此方を不安そうな表情で見てくる辰宮さん

その両隣には忍崎さんと大獄さんも居た

辰宮さんと眼が合う

その瞬間、耳に入ってきていた音が全て止んだように感じた

それと同時に緊張も不安む全てが消えていた

 

やっぱ、アンタは天使かなんかだよ

 

笑いそうなのを堪え、最後に彼女に微笑んで振り返る

相手は既に準備万端と言ったところ

今にでも襲い掛かってきそうな顔をしてやがる

こっちだって準備万端なんだよ

ゴングなった瞬間にそのツラに拳叩き込んでやる

 

辰宮さんとのラブコメも、いいもんだが

やっぱ

 

 

カァンッ!!

 

 

 

 

相手と殴り合うこの瞬間の血の滾りは堪らない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『西木野 宗一郎』は攻撃を防ぎながら敵を追い込み、捕まえた瞬間に仕留めに掛かる

『チャンピオン』は敵の攻撃を受けてもその隙を突いて一撃を叩き込む

互いにタフさと攻撃力に自信がある選手のタイプ

この2人が闘うとどうなるか

どちらかが小手先頼りの戦いに転じる?否

どちらかが防御に徹する?否

 

自らの矛を必殺と誇るなら

 

「オォぉぉぁッ!!」

「フンッ!!」

 

肉を切らせてでも相手の心の臓に矛を突き立てるのだ

 

「ブッ!」

「グッ!」

 

互いの拳が相手の横顔を殴る

体が後ろへ飛ばされ、片足が浮く

だがすぐにその足を地面へ叩きつけるように踏み込み、再び相手の顔面へ拳を叩き込む

 

「ァッ!!」

「カッ!!」

 

同じように繰り返されるやり取り

受け流す事はあっても、防御などしない

防御という後手に回った瞬間、相手に攻められ続けて地に伏せるのが目に見えているから

少しでも多く相手に一撃を喰らわせる

それだけが彼等のやるべき事だった

 

『ッ!!』

 

再び彼等の拳が交わろうとした瞬間

 

「ストップッ!!」

 

間にレフェリーが割り込んできた

互いに呆気を取られた様な表情を浮かべ、ゆっくりと掲示板の方へ向ける

すると時間は0を示していた

 

「もう、そんな時間か……」

 

納得するように自分のコーナーへと歩き出す

用意された椅子へ倒れ込むかのように座る

 

「ハァ……ハァ……」

「大丈夫か、西木野」

「大丈夫っすよ……これ位」

 

とはカッコつけたはいいものの、3RD特攻同然の殴り合いを続けるというのは尋常ではない程にキツい

それも相手は日本一の男だ

やはりこれまでとは格が違う

 

「くそったれが……ッ!」

 

あまりの自分の実力不足に苛立ちが込み上げてくる

こんなレベルで躓いている訳にはいかない

スタートラインにつく前に躓く馬鹿がどこにいる

そんな悠長な事は言ってられない

 

「決めます」

「………いけるのか?」

「えぇ、こんな所で躓いていちゃぁ世界なんて夢のまた夢っすからね。即行で決めます」

 

『セコンドアウト』の合図を聞いた瞬間に勢い良く立ち上がる

マウスピースを噛み締めて構えを取りながら前へ進む

相手は此方の表情を読み取ったのか、真剣な表情で構えをとった

互いにこれが最終RDと決めたのだ

 

ゴングが鳴り響く

 

 

 

 

『………ッ!!』

 

 

 

 

 

その瞬間に駆け出す

一秒もしない内に互いの距離が0になる

先に迎え撃ったのはチャンピオンのストレート

それを左手で強引に受け流すと、相手の顔面へ拳を叩き込む

 

「グッ!!」

 

 

 

まさにクリーンヒットだと思った

 

 

しっかりとした感触が拳に伝わっている

 

 

確実に相手より優位な位置に立ったと確信した

 

 

次で止めだと、追撃の体勢を作ろうとした

 

 

だが

 

 

 

「つァ……ッ!?」

 

先に体勢を崩したのは俺だった

膝がガクッと折れる

唐突に右の脇腹、助骨に強烈な痛みが走った

視線を下げると、自分の脇腹に相手の左拳が突き刺さっていた

 

「がァ……ッ!!」

 

あまりの痛みに後ろへ下がる

呼吸が止まる

思考が止まる

何故今あの一撃を喰らったんだ

あの一撃はいつ撃ってきた

想定外の攻撃に頭が追いつかず、混乱が起きた

だが、ここで相手が黙っている筈が無い

混乱している俺を他所に、相手は体勢を整えて再び拳を振りぬいてくる

 

「フンッ!!」

 

相手の必殺とも言える一撃が襲ってくる

ビデオで何度も見たその一撃

何人もの選手がその一撃に倒れた事か

その一撃が無防備な俺の顔面へと迫ってくる

 

「ブぐッ!!」

 

まさに会心の一撃

相手側からしたら、これ以上に無いほどに気持ちい一発だっただろう

顔面が上へと吹き飛ばされる

 

「------------------」

 

世界が白く染まった

意識が薄まり、脱力感が襲ってくる

先程までの痛みも、苦しさもまるで嘘だったかのように消えていく

ただただ眠い

体は浮遊感に包まれながら、重力に逆らう事無く下へと落ちていく

このまま倒れて寝てしまおう、この脱力感に包まれながら眠ってしまおう

そう考え、視線を横へと向けた

 

そこには一人の観客が必死に声を上げていた

 

『--------------ッ!!!』

 

聞こえない

その観客が何を言っているのか分からない

まるで世界の音が止んだかのように何も聞こえない

 

『-------んッ-------でッ!!』

 

涙をためながらその人が叫んでいる

何かを訴えているかのように

なんとか声を拾おうとするが、巧く聞こえない

 

『に-----きのさんッ!!負----ないでッ!!』

 

彼女・・は誰だ

何故、彼女だけがこの真っ白な世界で見える

分からない、分からないが

 

彼女・・だけは、忘れてはいけないと心が訴えてくる

 

辰宮楓・・・だけは、何よりも大切な存在なのだと心が叫ぶのだ

 

 

 

 

 

 

『西木野さんッ!!!負けないでッ!!!!』

 

 

 

 

 

 

「………ッ!」

 

世界に色が戻る

眠気は無くなり、全身に痛みと疲れが戻ってくる

倒れ落ちそうだった体をなんとか立て直し、その体勢で固まる

 

「なにが…ッ!」

 

姿勢を戻そうと全身に力を入れる

それだけで全身に痛みが走る

 

「なにが眠いだ……ッ!!」

 

彼女は泣いていた

何よりも大切な彼女が泣いていた

俺が不甲斐無い姿を見せたばかりに

 

彼女を泣かすなど断じてあってはならない

痛みが走る、それがなんだ

体が動かない、それがなんだ

痛いなら歯を噛み締めて耐えろ

体が動かないなら自分をぶん殴ってでも動かせ

腕が折れれば、もう片方で敵を殴ればいい

足が折れれば、もう片方で立てばいい

 

この程度で彼女の涙が釣り合う訳が無いッ!!

 

「な………ッ!?」

 

チャンピオンは俺が、体勢を立て直した事に驚く

殴りかかってくる俺に対応しきれないと分かったチャンピオンは前をガードで固める

ガラ空きなんだよ!!脇腹がッ!!!

 

「っらッ!!」

「くァ……ッ!」

 

ガードで覆い切れなかった脇腹に、仕返しと言わんばからに全力の一撃を放つ

相手は堪らず体勢を崩し、ガードが落ちる

 

もう一発ッ!!

 

「ぁッ!!」

「ッ、オぉッ!!!」

 

相打ち

2人の顔面に拳が突き刺さる

 

「が…ッ!」

 

再び膝が折れる

すぐに体勢を立て直し、攻撃をしかける

だが、そこに待っていたのは視界一杯に広がるグローブ

 

「ぁ゛……!!」

 

相手の右ストレートが刺さった

再び脱力感に襲われそうになるが、なんとか踏み止まる

衝撃を後に逃がさなかった事で、首がビキビキと嫌な音をたてる

そんな事はお構い無しに、顔面に拳が刺さっている状態で前へ、、前へと動き出す

 

「ッ、ア゛ぁぁァァあッ!!!」

 

その体勢のまま右拳を相手の顔面へと叩き込む

 

「かは………ッ!!」

 

相手が体勢を崩した

残りの体力なんて知らない

次のラウンドなんて知らない

このラウンドで相手を沈める事だけを考えろッ!

 

右拳で相手の側頭部を殴り、左へ吹き飛ばす

それを掬い上げるように、今度は左拳で右へ吹き飛ばす

何度も、何度も、例え途中でガードが入ってきても、構わずそれごと吹き飛ばす

相手に手を出させる隙を与えない

この体力が持ち続けるまで、何度も何度も

 

とうとう腕と足に力が入らなくなったのを確認した

仕上げだ

左拳で右へ吹き飛ばす、そして相手は倒れ込むかのように足から下へと落ちていく

相手の顔面は右拳の直線状の下

左足を前に出し、右を下げて右腕を引く

体を斜めにし、右拳をリングの床の上を走るかのように下から放つ

その拳は見事に相手の顔面を捉えた

 

「ラストァ゛ッ!!」

 

相手は顔面を上へ持って行く

まるで首から上が吹き飛ぶかの様に首を伸ばし、体をロープへと預けた

もう手は出さない

もう手を出す必要は無い

 

「ニュートラルコーナーへ!」

 

ロープに寄りかかりながら、相手はズルズルと下へと降りていく

そして、尻からリングの床へと着いた

相手はもう下を向いたまま動かなくなった

 

 

 

会場にゴングと歓声が鳴り響いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「西木野選手、勝利おめでとう御座います」

「ありがとう御座います」

 

勝者インタビューを受ける

その腰には今手に入れたばかりのチャンピオンベルトが巻かれていた

いつもと変わらず、聞かれたことを愛想良く答えていく

 

「何か一言、いただけますか?」

「はい」

 

待っていたと言わんばかりにマイクを強く握に前へ歩み出る

 

「会場の皆さん、応援ありがとう御座いました。皆さんのお陰でこうして日本王座で勝つことが出来ました」

 

その言葉に多くの観客が歓声を送ってくる

これを聞くと、自分は勝ったのだと改めて実感できる

だが、ここからは完全に私的な事をしようとしているので、少し申し訳なく感じる

 

「勝ったから、と言う訳では無いんですが、この場で私的な事を喋ることを許してください」

 

周りの人間がザワつく

それはそうだ、この事は会長と数人にしか言っていない

スタッフ辺りは予想外の行動で驚いている

マスコミの人間は何だ何だと慌てて準備を始める

 

「すぅ……」

 

深呼吸をし、俺は叫んだ

 

「辰宮楓さんッ!!」

 

会場のザワつきが尋常ではなくなってきた

特にマスコミとスタッフが慌て始めた

明らかに女性の名前だったから無理もないか

だが一番慌てているのは呼ばれた本人

実際口を両手で塞ぎ、オロオロとし始めている

そんな彼女を両隣に居る忍崎さんと大獄さんが客席から連れ出し始める

マスコミも彼女等が何かしら関係あるのか察したのか、カメラを向け回しはじめた

途中でスタッフからマイクを貰い、リングの上へと上がってくる

少し苦戦したものの、なんとかリングに入れた彼女は俺を見たまま固まっていた

震えるマイクをしっかりと握り、言葉を続ける

 

「私は貴方が……、いや、俺はアンタが好きだッ!!」

 

その言葉を聞いて、彼女が驚いた表情を浮かべる

これが嫌々な気持ちでの表情なら、悲しくなってくるな

これまで丁寧だった口調を崩して、いつも通りの雑な言葉遣いを使う

俺は覚悟を決めて言葉を続けた

 

「アンタに会ったあの日から、その気持ちは変わらない。短い期間だとしても、俺はこれから先でアンタ以上に好きになれる女性には出会えないと断言できる。例え断られようと俺はアンタを好きでい続ける。」

 

近くにいるスタッフから、用意して貰っていた小さい箱を受け取り、彼女の元へ歩き出す

 

「俺はこの手で世界の座を手に入れる。この手で『最強』の座を手に入れてみせる。アンタにはその時も、そしてその先もずっと俺の傍に居ていて欲しい」

 

手を取り、開かせる

 

「難しい言葉なんて言う気は無いし、そんなまどろっこしい事をするつもりは無い」

 

彼女の手に、そっと箱を乗せる

そして箱を開ける

 

 

「俺と結婚してください」

 

 

箱の中に納まっていた指輪を見て、彼女の体が揺れた

彼女は箱を両手で包むと、自分の胸元まで持っていき、大事そうにしてくれる

だが、彼女の顔を下に向けてしまって表情が見えなくなってしまった

 

「えっと、あの……」

 

第一声は、とても不安そうで震えた、か細い声

すぐにでも消えてしまうのではないのかと、思ってしまう程に

 

「な、なんで私なんですか……?」

 

顔を少し上げてくれたが、浮かぶ表情は今にでも泣きそうだった

 

「だ、だって私何も出来ないんですよ?料理だって一人でまともに作れませんし、何をしたって鈍臭いんです」

 

とうとう目尻から涙がツーと流れる

 

「貴方の事が好きです…私もあの会った日から、日に日に貴方に好意を抱き始めました。でも……」

 

バッ!と顔を上げて此方を苦しそうな表情で見てくる

その表情を見るだけで俺の胸が締め付けられる様な感覚が襲った

 

「西木野さんは知らないかもしれませんけど、嫉妬とかいっぱいしますし!我が侭だって言ってしまうかもしれません!貴方に好かれようと隠していた部分もあります!めんどくさいって思われる所なんていくらでもあります!!」

 

大声を上げ、髪が振り解こうとしているかの様に激しく揺れる

涙もそれに付き添うかのように宙を舞う

これが彼女の本心

これが自分の知らなかった彼女の部分

俺はそんな彼女の本心に、自らの本心で答える

 

「関係ありませんよ、そんなことは。隠している部分?そんなものは、誰だってある。俺だってアンタに必死に好かれようと隠していた部分なんていっぱいある。」

 

彼女は呆気に取られたかの様な表情で見てくる

 

「だったら辰宮さん、その隠している部分をこれから先を共に生きて、教えてくれ。アンタの全てを教えてくれ。それだけで、俺は幸せになれる」

 

彼女に握られている箱を受け取り、中から指輪を取り出す

そして彼女の前で膝をつく

 

 

「私の人生を貴方に捧げます。代わりに、貴方の人生を私に下さい」

「……ッ!」

 

 

その言葉と共に、彼女の左手を此方へゆっくりと引き左薬指へ嵌める

彼女の涙が溢れんばかりに流れ出す

 

「ほんとうに……?本当に私なんかでいいんですか……?」

「貴方がいいんです」

「これを私が貰ってもいいんですか?」

「貴方だけに貰って欲しいんです」

 

彼女は流れる涙を拭くと、此方の胸元にそっと抱きついてくる

これまでにない程に、彼女の顔を近くに見れて彼女の温もりを感じる

 

 

「キス……して下さい」

「喜んで……」

 

 

『西木野 宗一郎』に生を受けて初めてのキスは涙の味がした

ここで断言できる、俺はこれからの一生は世界の誰よりも幸福な世界であると

誰よりも幸せな人生を、誰よりも愛する女性と一緒に歩むのだ

 

 

 

会場の歓声を背に、俺の人生で最初で最後のプロポーズは成功で幕を閉じた




どうだったでしょうか

眠い中書いてるもんで色々と変な所があったと思います
何か見つけたらご報告お願いします

批判は辞めて~
僕は褒められて伸びるタイプなのですよ


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