ウチの真姫がファーザー・コンプレックスを患ってしまった件について 作:うなぎパイ
とは言っても、これを投稿したのは12月30日午前3時
メリー苦しみましたを見事にぶちかましたアタリですね
今回、グダグダな部分が多々あると思いますが、ご了承下さい
今年も、『ウチの真姫がファーザー・コンプレックスを患ってしまった件について』をよろしくお願いし
私は今、絶賛テンパリ中である
「うぅ~……」
目の前に並ぶのは、明らかに単品で1000円越え確実の上物
給仕する店員さん達は、礼儀正しく、品性を感じる
店内は、女性が好むようなお洒落な感じだ
駄目だ
私はどうすればいいのだ?
確か、まずはナイフとフォークを持って……あれ、どっちがナイフで、どっちがフォークだっけ?
右?左?いや、その前にいただきますを忘れていた
挨拶をしなければ失礼……いや、待つんだ辰宮楓。こんなお洒落なお店で学校給食が如く挨拶をしていいものなのか?こんな所で『おいしいお食事、いただきます!』なんてやってみろ
周りにいるお客さんが、私の食事光景をTwit○erで動画投稿することになるぞ
でで、でも食事の挨拶は大切だから-----------------
「辰宮さん?どうかしましたか」
「ひゃひゃい!?あっと、えっと、いい、いいただきます!!」
『…………………………』
…………………………あ、やってしまった。思っていた事を、あまりの慌てぶりで口から出てしまい、見事な爆心地を作り出してしまった
やっぱり『いただきます』は駄目だったんだ。その証拠に、今の彼は眼をまん丸にしてキョトンとしている
でも、その表情も崩れ、途端に笑いを堪え始める
「くくく………ッ!」
「わ、笑わないで下さいよ!!」
「いやいや、あまりに予想外すぎる言葉だったもでつい、はは………ッ」
「しょうがないじゃないですか!こういうお店、友達とだって来たこと無いんですよ!」
「別に、そんな深く考えなくて良いですよ。同年代との食事に、そんな堅苦しい礼儀なんて無用です」
若干、涙目になりながら、あまりの恥ずかしさに顔を真っ赤に染める
少し睨むように彼を見ると、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる
そんな顔されると、怒るに怒れませんよ………
「それで、その………大丈夫なんですか?」
「大丈夫………?」
「体の事です。試合が終わったばかりで、痛いとか違和感があるとか無いんですか?」
「その事なら問題はありません。それに、見てたでしょ?その理由」
「まぁ………それは」
圧勝だった
相手の実力もネットで知れべたけど、日本王座にいっても不思議ではないと言われるほどの実力だったらしい
なのに、今自分の目の前に居る彼は、そんな相手に1ラウンド中に勝利をした
殆ど被弾せず、自分の攻撃だけを当てて
「今回は辰宮さんが見に来てくれましたからね。思いの他、力が入ってしまいましたよ」
「力が入ってしまたって………」
そんな言葉で片付けられるのだろうか
確かに弱っている所でしたけど、顔に一発で一回転してましたよ?
まるでダンプカーに引かれる人間みたいでした
もう一種のショッキング映像ですよ
「それに、体の事は心配しなくても大丈夫です。これでも医大の主席ですし、スポーツ医学や整体医学も大体理解してますから。大抵の事は自分一人で解決出来ます」
「スポーツ医学に整体医学にまで………」
「まぁ本職の人には負けますが、それなりにね」
もう、この人は本当に自分と同じ人間のカテゴリーに入れていいのかすら、不安になってきました
ここで、自分から話を振ろうと前から疑問に思っていた事を伝える
「前から疑問に思ってたんですけど、いいですか?」
「自分で答えられる範囲なら」
「その、なんで医者だけでなく、ボクシング選手にまでなろうとしたんですか」
「なんで………」
予想外だったのだろうか
一度眼を見開いて、顎に手をやり考え始めた
彼は数秒考えると、まるで呟くように答え始めた
「女性の貴方からしたら分からないかも知れませんが、男というのは強さに憧れるんですよ。例え幼児だろうと、大学生だろうと、家庭を築く父親になったとしても。だから、もし自分が行動を起こす事によって、最強という称号が手に入るとしたら、男なら誰もが手に入れようと躍起になるんですよ」
「最強、ですか?」
「言葉に起こすだけなら何とも青臭いですが、世間から認められる程の称号にしてみれば変わります」
こちらに自信に満ちた微笑を浮かべながら答えた
「世界王者、ですよ」
「世界王者………」
「他のスポーツでも同じ称号がありますが、自分の肉体一つでその称号が欲しいんです。ボクシングが単純に性に合っている、っていうのもありますけどね」
「なんか、壮大なお話ですね」
「我が侭なだけなんですよ。あれも欲しい、これも欲しい。我慢するという考えが出る前に、行動に移してしまうんです」
言葉だけ聞けば、確かに子供っぽいように感じるが、やる事のスケールが大き過ぎる
どこの世界に、医大の主席をしながら世界王者を目指す人間がいるだろうか
医大の主席という地位を獲得する事ですら、人生全てを勉強に費やす人間はいるだろう
「医者、というのは生まれる前から決まっていたことです。病院の院長の一人息子ですからね、別にそれは嫌じゃありません。父の姿を子供の頃から見ていたから憧れている部分もありましたし、むしろ自分からなろうという気もあります
ただ同時に、ボクシング選手にもなりたいと思ってしまった、ただそれだけの事です」
「ただそれだけって………」
「両親に納得して貰う為に、自分が学ぶであろう事を先に勉強して、学校では復習する程度で済ませて空いた時間をボクシングに費やしましたよ。いやぁ案外いけるもんですね」
「は、ははは………」
もう空笑いしか出てこない
やはりこの人は完璧超人か何かなのだろうか
ここで「実は私、薬で若返っているんです」っていうコナ○君みたいな状況の方がまだ納得できる
だが、直に彼の表情は途端に曇り始めた
思わず、「西木野さん?」と尋ねた
「………でも、自分のボクシング選手としての時間は限られてるんですよ」
「限り?」
「大学を卒業したら、病院の跡継ぎとして色々と父から学ばなければならないんです。最初の方は齧る程度なので両立は出来ますけど、本格的になっていけば責任ある立場になりますし、余裕が無くなってしまいます。あくまで、自分本来の将来の仕事というのは医者です。それを自分の我が侭で始めたボクシングで疎かにしてしまうのは、両親に申し訳が立ちません。だから自分がボクシング選手としてやっていけるのは後数年程度、『世界王者』の名を手に入れるにはあまりにも短い」
「たった数年で………」
「手に入れるには『最低条件』であり『絶対条件』である、『最短ルート』と『無敗』を実現させないとなりません。」
………その言葉には重みがあると感じた
私はボクシングの知識も無いから、その『条件』というものがどれだけ難しいか実感出来ない
だが、全てのスポーツにおいて『世界王者』という座につくのは至難
ほんの一握り、いや、それ以下の人間しか手に出来ない
それを最速で無敗のまま実現させるなんて、普通の人間に出来るとは、到底思えない
「なんで西木野さんはそこまで………。キツイとか、辞めたいとか思わないんですか?そんな実現させる事が難しい事をやっていて」
「止めたい、ですか………」
再び考え始める
私には興味があった
これまで私はいくつも諦めた事や、避けてきた事があった
なるべく楽な人生を歩みたかったから
唯一頑張ったといえば、医大へ入学できた事くらいだろう
そんな私とは違う、挑戦を諦めない人の心内を知りたかった
「確かに練習はキツイですし、気を失った方が楽なんじゃないかって、思ってしまう事はあります」
「だったら」
「でも、だからこそ、自分はやり遂げる事に意味があると思うんです。今やらなければ手に入らない、今やらないと後悔する。なら、いくらツラくても、いくら辞めたくなったとしても………その先で手に入れたものは、これからこの先手に入れる何よりも価値があると思えるから」
「………………………」
そして彼は微笑みながら、答えたのだ
「男が一度やると決めた。男なら諦めるという選択肢は無く、それを実行するのみ。それだけですよ」
その彼の表情は、私の頭の中から当分離れる事は無かった
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ねぇ、和泉ちゃん。こんなんで良いかな?」
「お、出来た?」
ジューという音をたてるフライパンから、炒めていた料理を小皿に入れて和泉ちゃんに渡した
彼女はそれを手にして、味見をした
私はどんな評価を下されるか、ドキドキしながら彼女の返答を待つ
「ん、味付けも結構良いね。これなら大丈夫だよ」
「良かった~」
向けられた微笑みに安堵を覚え、胸を撫で下ろす
これで駄目と言われれば、またやり直しだとこのガラスの如く強固な心が折れるところだった
………あれ、ガラスって堅かったっけ?
まぁ、あの紫信ちゃんの手だけでなく、お腹まで痛くした私が叩いても割れなかったんだ
きっと堅い。うん、そうに違いない
そんな事を考えるとテーブルの椅子に腰掛けていた紫信ちゃんが声を掛けてきた
「………あのさ~」
「何?紫信ちゃん」
「思ったんだけど、これってやる意味あるの?」
まるで、意味不明の行動でも見たかのような表情でそう尋ねてくる
私達が今居るのはいつもの大学の中でなく、私の家の台所
そして、私は和泉ちゃんに教わりながら料理をしている所なのだ
紫信ちゃんは、そんな2人を近くのテーブルの椅子に座りながら見ている形だ
作っているのは昼食ではなくお弁当
彼に渡すためのお弁当を作っているのだ
「これって………このお弁当の事?」
「そうそう、なんで態々弁当なんて作ってるの?」
なんでって………
「そりゃぁ、この子があの人にアピールする為でしょ」
「………なんか不味かったかな?」
「いやいやいや、別に悪いとか不味いとかじゃなくてさ。確かにアピールする為に弁当を用意するってのは分かるよ?でもさ、それって意中の相手を射止める為にやる事でしょ?なんで射止め終えてる相手にアピールしようとしてるの。まぁ付き合ってて愛妻弁当みたいなノリだったら分かるけど」
「それは……なんで?」
「え!?そ、それは………その」
まるで裏切るかの様に、疑問を投げかけてきた和泉ちゃんに後ずさる
「告白して曖昧な答えを言ってきた相手から、しっかり答えを貰える訳でもないのに、まるで好意があるかの様に弁当作って貰ってさ。これじゃぁ生殺しも良い所だよ。相手側はどう楓に接したらいいか分からなくなるよ」
「………まぁ、確かに。好意を持ってくれてると思っても、答えてくれてなきゃ相手が自分をどう思ってくれてるか分からないね」
「楓の恋のキューピットにハートの矢で撃たれた!なら撃ち返そう!と思って、いざ撃ち返したらたらスパーン!って地面に叩き落されて、無言でまた何度も矢を放ってくる感じ。」
「なんだい、そのファンシーな例えは。それに、なんで楓のキューピットはそんな強力そうなの」
「もうゴルゴ○3の様に正確無比な射撃で、あっちの心臓に矢が刺さりまくってるみたいな」
「一種の殺人現場みたいになってるじゃないか。後、ゴルゴ○3は弓じゃなくてスナイパーライフルだよ」
「ゴルゴ○3はゴルゴ○3じゃないんだよ。通称、デューク・東郷って名前があるんだよ。後、スナイパーライフルじゃなくてアサルトライフルね」
「え、何その西洋かぶれみたいな名前。あの顔でハーフなの?」
「あ、あの~」
「あ、ごめん。話逸れちゃったね」
「まったく、アンタか変な豆知識を披露するから」
「べ、別に大丈夫だけど………」
「それで、ゴルゴ○3になんで弁当作ってるかだっけ?」
「違う、デューク・東郷」
「あぁそっか。じゃぁ改めて、なんで楓はデューク・東郷にお弁当を---------」
「違うよ!相手は西木野 宗一郎さん!!なんで私がデューク・東郷さんにお弁当作らなきゃならないの!?」
2人とも、どれだけ言葉の掛け合い巧いの!?
まるで漫才でも見ているかの様だったよ!!
私がツッコミを入れるなんて凄い久しぶりの事だ
私は諦めて、話を戻すと同時に言葉を濁し続けた何故弁当を作っているかを答えた
その答えを聞いた途端、2人は意味が分からないと言いたげな表情で此方を見てくる
………まぁ、思った通りだったけど
「はぁ?OKが言えない?」
「………うん」
「どういうこと?」
「いや、その……返答するっていう事は自分から相手に言うってことでしょ?」
「そりゃぁまぁ」
「だから、ね?」
「いや、ね?って言われても困るんだけど……」
流石の2人も、私の言葉に困惑気味らしい
悔しいけど、2人がそんな反応を示すのは当然とも言えるから、反論はしなかった
「つまり、アンタ自身の中ではOKだけど、それを言葉に出せないから困ってる。だから、相手からもう一度告白される様にしようと……こういう事?」
私は彼を気にし始めてる
昨日の彼のあの微笑みを見てから
彼の目指している夢の実現を近くで見たい
きっとそれは、これまで私が見てきた景色とはまったく違うもの
これが恋というものなのか、それは正直まだ分からない
でも、素直に彼と一緒に時間を共にしたいという気持ちがある
彼と一緒にいる時間は、他の何よりも楽しくドキドキするから
でも、ドキドキの度が過ぎて何も言えない自分が恥ずかしい………ッ!
「まぁ概ね………」
「どんだけヘタレなのさ………」
無慈悲に放たれる言葉の矢が容赦無く私を襲う
助けてデューク・東郷風の天使さん!矢が心に刺さっていたいよ!!
そう心で念じたけど、幻想として現れた彼は手を横に振りながら「無理無理」と言っていた
今回の矢は彼の守備範囲外らしい
心の内の天使にまで見放された私はどうすればいいのだろうか
「だって、楓から告白すれば相手はOKが確実なんでしょ?勝ち戦もいいところだよ」
「勝ち戦に戦いに行かなくてどうすんのさ………」
「で、でも」
「敵前逃亡の死刑だよ」
「うぅ~」
死刑を示すかのように、デューク・東郷風の天使さんが今度は此方に矢の狙いを絞っていた
なんということだ。私は心の内の天使に見放されるだけでなく、裏切られて攻撃される程にまで追い詰められているのか
止めて天使さん!心臓は止めて!
「いっその事、無理矢理襲われる様にする?」
「ふぇ……ッ!?」
不意打ちな紫信ちゃんの発言に、思わず驚いてしまった
あまりに大人な考え過ぎて、心臓がドクンドクンと激しく脈打つ
天使さんにやられる前に、心臓が止まるかと思った
「待ちな、脳筋細胞。なんで折角良い感じに青春ラブコメやってんのに、いきなりサイコかましてんのさ」
「いやだって、考えてみなよ?仮に都合よくあっちが告白してくれるとするとして、この子がちゃんとOKって答えられると思う?あの辰宮楓だよ」
「……そこを突かれると痛いね」
私の存在自体を突かれると痛いんですか……
元々自信があった訳では無いが、そこまではっきり言われるとショック
台所に手を付いて頭を垂れた
「まぁ自分なりに行動を起こそうとしたことには、評価できるけどね」
「和泉ちゃ~ん」
「はいはい」
「この子が独り立ち出来る未来が見えないんだけど……」
何だかんだで優しい和泉ちゃん
思わず彼女に抱きつき、顔を豊満な胸に埋める
あぁ暖かい
何か紫信ちゃんが言っているか聞こえないが、きっと私を応援する言葉だったのだろう
「だから大学卒業前に、この子を西木野さんに引き取って貰えば安心なんだよ」
「……なんかこの年で子供を世話してる気分だよ」
「ま、無邪気さと精神年齢の低さは子供だね」
「む!今の悪口でしょ?私だってそれ位は分かるんだからね?」
「楓も成長したんだね~」
「えへへ、そうでしょそうでしょ?」
「ちょっろッ」
やっぱり持つべきものは頼りになる友人、というのを実感したのだった
次回で過去編の学生編が終了
その次は過去編の真姫誕編になる………筈です
感想などの返信は、里帰りから帰ってきてからになります
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よろしくお願いします