お止めくださいエスデス様! 作:絶対特権
Karuma_Lv5様、弁当様、寧寧亭屋様には十評価いただきました!感謝です!
待たせました。が、その分長いです。
「ふふん、ふふーふふふー、ふふふ……」
黒髪黒目黒制服という如何にも黒な少女が乗るのは、二輪。
彼女は盗んだ二輪を己の死体人形に操縦させながら、後部座席でカレーパンを食べていた。
隣には彼女の操る死体人形の中でも白眉の実力であるナタラ。前方の操縦席には常に両手に持っている二丁拳銃を腰のバックルに挿してステアリングを握っているドーヤ。
ハクがチェルシーと共にコウノウに墜落した時に使っていたメンバーそのままである。
彼女の帝具は、『死者行軍』八房。この武器を使って自らの手で討った生物を八体まで死体人形にして操ることができるという強力無比な帝具だった。
もっとも、それは例に違わずノーリスクではない。使っている間は使っている死体人形の数に応じて術者の力が落ちる。
だが、それを加味しても相当に使える帝具であることは間違いがなかった。
使用者となる条件も『不適合者が付けると一回戦った後に自動的に解除されて灰になる。一応適合しても使い過ぎると灰化が進む』とか『飲んだら気が狂う。適合しても狂うことがある』とか『装着したら体力を絞り取られて死ぬ。無理に使うと一体化、ないし吸収される』とか『不適合だと喰われ、死ぬ』とかではない。単純に切れ味のいい刀としか機能しないだけで済む。
因みに今紹介されたデメリットを貸された帝具たちは一番目から『玄天霊衣』クンダーラ、『魔神顕現』デモンズエキス、『悪鬼纒身』インクルシオ、『魔獣変化』ヘカトンケイルである。
アカメの『一斬必殺』村雨、レオーネの『百獣王化』ライオネル、ラバックの『千変万化』クローステール、チェルシーの『変身自在』ガイアファンデーション、ブドー大将軍の『雷神憤怒』アドラメレク並に良心的な帝具であった。
黒い鞘が前方からの光に照らされ、妖しく光る。
発展している街特有の不夜とも言える光は、キョロクの繁栄を如実に示していた。
「さーて、今度こそ会えるかなぁ……」
武装車は遠くからでも見える程に巨大な二脚二腕の機動兵器目指して走行し続けている。
今回の任務は撤退の掩護であって戦いではないが、一目合わすことくらいはできなくもないと、彼女は冷徹に考えていた。
薬を服用してきた時の彼女が持っていた人外めいた耐久力・直感は無いが、その分思考能力と持久力が上がっている。
幾分か理性的かつ健常になっているとはいえ、自分の身体は未だ長期の剣戟に耐えうるものではないことくらい、自身のことだけに彼女にもわかっていた。
後、半年。長くて一年。その時間が経てば嘗ての力を取り戻し、姉を己の死体人形にすることができる。
今回は偵察であり、死体人形を何体か使用して撤退を掩護すること。
クロメは、何回目かになる自戒を為した。
その頃、彼女が駆けつけんとするかの地。つまり元ナイトレイドアジトでは、一進一退の攻防が行われている。
逆手持ち―――凄まじく変則的な軌道を描き、順手と似通った点を探すことが馬鹿らしくなるほどの異質な剣術に、ブラートは防戦を強いられていた。
順手ならば、彼にも最初の動作の予兆を見れば次の動作を予測することができる。
そもそも彼の帝具である『悪鬼纒身』インクルシオは一般的には知られていないが、待機状態は剣なのだ。
インクルシオを解除されたらその武装のみで戦わねばならないブラートが、鍛練を怠るはずがない。
だが、その剣をとっても達人であるという腕前が現在の彼の苦戦の元となっている。順手と重ねるようにだぶっている構えから全く違う斬撃が飛んでくるのだから堪らない。
身に染み込んだ順手持ちの剣士との戦闘経験が身体を咄嗟に動かし、彼は斬撃を目の端で視認してからの修正を強いられていたのだ。
「動きが鈍っているぞ、ブラート」
任せろと言わんばかりの親指を胸に当てるような構えから曲げた肘を伸ばすようにして突きが放たれ、インクルシオの胸部装甲を貫かんと火花を散らす。
何回か斬られても装甲を貫き切れていないのは燃費を重視するあまり光の持つ攻撃力を抑えている所為だろう、と。
ブラートは刃が踊っているような剣戟の後にいつでも退いて防げる構えをしながら何回か喰らうことによって実証された事実を、非常に慎重に現状として捉えた。
普段と立場が逆転していると言ったら、わかりやすいだろう。
現在のところはブラートのインクルシオがハクの鎧型クンダーラであり、ハクの槍型クンダーラがノインテーターであった。
つまるところ、常に決定打に困らなかったハクには決定打がなく、常に決定打に困っていたブラートには一撃一撃が決定打になり得る。
ハクが死ぬかどうかは別として、腕やら何やらの機能を停止させることもまた、できた。
動かなくなるかは別として。
「フッ」
ストンと空気を吐き、インクルシオと距離を取ったハクは刺突と装甲の力比べのような身体の捌きから小技で圧していく構えへと身体を変える。
息を吐き、無駄な力を抜いた今の彼の眼は、装甲の薄いところを狙い撃つかのような鷹の眼であった。
「ッ!」
鎧の縁に刃が触れ、掠めるような音が鳴る。
鎧の防御力を少しずつ削いでいくと言っても、相手がそれを許すとは限らない。ブラートにも彼の狙いは見えていた。
クンダーラは物理的に削れないが、インクルシオはできなくもない。刃の重みで触れるだけで豆腐のように斬ることのできる程度の腕と、機を見極める眼。それと名刀名剣と呼ばれるものレベルの切れ味があればできなくもないのである。
ハクの技量は我流ながら槍と見劣りしないような腕前に見えたし、燃費を重視しているとはいえ剣もそれなりの鋭さがあった。
弱体化に次ぐ弱体化を強いても尚、一瞬足りとも油断できない。そんな風格とそれに相応しい実力を、彼は兼ね備えている。
実力を知らないままに一見すると貧乏学生か不景気に悩むサラリーマンでしかないが、彼は実際強かった。
「む」
何かを感じたのか、或いは何かのフェイクなのか。ハクは右眼の黒目をちらりと西方へとやり、唐突に弱所破壊を止める。
次なる狙いは、頸部。そう察知したブラートは一つ思案し、思考した。
装甲の力を信じてカウンターを行うか、避けて一動作遅らせた上でカウンターを行うのか。
何か隠していた場合、前者を採れば下手すれば死ぬ。後者を採ればカウンターにカウンターをぶっ込まれる可能性が五割を超え、どちらも採択せねば迷いにより一動作遅れた上で、後者で喰らうカウンター以上の一撃を喰らうやも知れなかった。
もはや正規の剣術とは言えない我流の逆手の『次』が読めなかったブラートは、決断する。
彼は、装甲の力を信じた。
「オォ!!」
迫る刃を無視して気迫と共に渾身のカウンターがハクに向かって繰り出されるというこの一幕には、前回の攻防に於けるブラートの得た情報がある。
――――ハクの剣は、頸部装甲に次いで硬い胸部装甲を貫けていない。そして、確実に致命傷を与えられたであろうあの状況で貫こうとしない理由がない。
即ち剣の切れ味を増させる力は彼には無いと、ブラートは判断していたのだ。
「良くないな」
身体の黒鎧に施された太陽を思わせる装飾に光が通り、鎧に黄金の光が指す。
ブラートがそれに気づいた瞬間には、その光は右手の甲から指の甲を伝い、鈍い金色の刀身が描く弧を霞んで見せながら頸部に迫る刃にまでわたっていた。
鋸で以って金属を切っていくような灼くような、叫ぶような音がインクルシオの頸部装甲から鳴る。
確実に、溶かすようにして迫りくる黄金の刃は数秒の後にブラートの頸動脈を束にして灼き斬る、はずだった。
「やらせねぇ!」
首を挟み斬るように開き、突き出されたのは大型の鋏。一瞬で展開した黄金の鎧すら穿ち斬るであろう切れ味を持つソレは、確かにハクの動きを止める脅威となり得る。
ブラートがハクの描く致死の軌道から逃げるように同方向に回避行動をとったこともあり、ハクはさらりと切り替えた。
死ぬなと言われている。この命は有意義に散らせるには惜しくはないがそう言われたら死ぬわけにもいかないし、首を叩き斬られれば流石に死ぬ。
前蹴りでブラートを後方に蹴り飛ばし、空いた鍔無しの剣刃をエクスタスにぶつけた。
灼き斬る刃と、挟み斬る刃。切れ味では挟み斬る方に軍配が上がるが、強度と技量では灼き斬る方に軍配が上がる。
ハクはもはや気違いじみた冷静さと沈着さで、エクスタスの弱点を刹那の内に見抜いた。
鋏の、中央部。留金の部分に刃がない。しかもそこを突破すれば首が挟み切られることはなくなり、鋏として動かしていたが故に二刀となったエクスタスは殺傷力を失うだろう。
二刀は二刀として、鋏は鋏として使わなければ人を殺すことはできない。
横から突き出された留金を刃と刃の間を斬るようにして、分断。運動能力を伝えていた機構である留金を斬られて運動能力を失ったエクスタスを持った使い手の首に目掛け、ブラートに対して描いた軌道を焼き増ししたような斬撃がタツミの首から下と上を両断せんと薙ぎ払われた。
が、ナイトレイドにはブラート並の使い手がもう一人いる。
「ハァァァア!」
天叢雲剣。ハクを腰斬せんと長大な剣を振るっているスサノオの一撃をもろに喰らい、ハクはタツミの頸部に触れるか触れないかというとこらで、逆ベクトルに吹き飛ばされた。
「……一寸、足りんか」
不完全に、しかも一時的に纏った鎧が完全にその斬撃による外傷を阻む。
使い手吹き飛ばされて仰向けになって寝転ばされても、やはり彼の鎧は頑強であった。
そして何より夜の闇の中に在っては、まるで誘導するかのように光っている。
仰向けに倒れ込んだハクにトドメを刺さんと駆けるアカメとラバックの足元に、鉛製の銃弾が突き刺さった。
放たれた先に目を向ければ、そこには無音で近づいてきた武装車。
その武装車の上には、ガンマンハットを冠った金髪の女性が立っている。
運転をクロメに変わった武装車は、そこで反転。いよいよ近づいてきた二メートル半はあるであろう機体の右脇に武装車を止め、《HydrangeaMotors》とデカデカと印された扉を横付けにして停めた。
「ラバック、私の後ろに!」
反転する際にスタリと降り立った西部劇風の茶色の革製の服を着、お洒落なブーツを履いた金髪の女性の手にあるそれぞれ二丁拳銃を見て、アカメは鋭く警告する。
ラバックの帝具は銃弾に対して相性が悪く、彼自身の身体能力も弾丸を見極められるほどではない。
ここは、銃弾に対して回避という手段を取れるほどの敏捷性を持つアカメが適任だった。
「頼んだ、アカメちゃん!」
軽い破裂音と共に発砲された二発の弾丸を切り落とし、アカメは村雨を構えて目の前の銃士の隙を伺う。
彼女は明らかな遠距離型の戦士でありこちらの間合いに入れれば鎧袖一触にケリがつくように思えた。
しかし間合いに入らせないような鬼気からは、近接戦もできるような強かさが伺える。
暫しの沈黙と、停滞。互いに武器を構えて硬直状態にありながら隙を伺う静かな戦いを破るように、砂を踏み締めて歩くような音がやけに響いた。
「久しぶり、お姉ちゃん」
「クロメ―――」
僅かな、動揺。
生き割れ、自分が置き去りにした形になってしまった最愛の妹との再会があることは、アカメは流石に予期している。
だが、まさかここで相見えることになろうとは、彼女は予期していなかった。
「アカメちゃん!」
一瞬戦闘から離れかけたアカメの意識を、後方のラバックの声と前方からの破裂音が引き戻す。
空気を読まないドーヤの、隙を見つけての射撃だった。
「早かったな」
顔見せだけでよいと判断したのか、或いはまだ自分では姉に太刀打ちできないと直感したのか。
姉を見つめる姿勢から後方へと身を翻したクロメに、ハクは静かに感想を述べる。
「誘導してくれたから、ね」
近寄ってからは巨大な機体ではなく、闇の中に浮くように光る剣と鎧に這う装飾を目印に来た為、視認と追突を恐れずに近づくことが出来た。
「じゃあね、おねーちゃん。もう少しで、私の物にしてあげるから―――」
ドーヤに後方を任せながらナタラがステアリングを握る武装車へと戻り、ハクが己の馬の左脚の脇に退いた瞬間、チェルシー操るハクの馬の左腕に相当する六連装ミサイル砲から六本のミサイルが発射され、六本が六本とも空中で更に細かい弾子となってナイトレイドに迫りくる。
スサノオが八尺瓊勾玉で迎撃し、爆炎と煙が晴れた時には、彼等は既にいなかった。
ワイルドハント
シュラ
HP:500/500
TP:600/600
特性:慢心(Level10)
ハク
HP:920/1000
TP:240/400
SP:8000/8000
特性:加速(Level10)
:庇う(Level10)
チェルシー
HP:14/20
TP:785/800
特性:はりきり(Level10)
:騎乗(Level10)
:危機打破《他力本願》(Level15)
クロメ
HP:300/500
TP:250/400
特性:不調(Level2)
剣戦闘(Level9)
ドーヤ
HP:500/500
特性:射撃(Level10)
連撃(Level9)
近接戦闘(Level9)
ナイトレイド
ナジェンダ
HP:300/300
TP:280/500
特性:指揮官(Level9)
スサノオ
HP:1000/1000
特性:自動回復(Level9)
ブラート
HP:610/900
TP:350/500
特性:近接戦闘(Level10)
アカメ
HP:190/400
TP:400/400
特性:剣戦闘(Level10)
ラバック
HP:410/450
TP:420/500
特性:抜け目なし(Level8)
マイン
HP:300/300
TP:720/900
SP:1820/2000
特性:狙撃(Level10)
タツミ
HP:180/600
TP:400/400
特性:大器晩成(Level10)
レオーネ
HP:70/700
TP:470/500
特性:自動回復(Level4)