ラフィンアート・エイトライン   作:狂笑

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第三話 喪失と高揚

SAOが始まり、早三週間が過ぎた。

 

「くらえッ」

 

はじまりの街から遠く離れたフィードで、俺はオオカミ型のモンスターに向かって槍のソードスキル、《ツイン・スラスト》を放つ。

ちなみに俺が使っている槍は《ダーリングスピア―》という下層最強の槍。

長さは三メートルほどである。

俺が槍を選んだ理由は簡単だ。

槍は戦闘時に相手との距離が取れ、また突くだけでなく斬る、叩くなど様々な用途があるからだ。

詳しく説明すると、槍は突き刺す以外にも、叩く、薙ぎ払う、掠め・叩き斬る、絡める、引っ掛ける、フェイント的に柄の側を使う等様々な用法が開発されている。

そもそも槍は戦闘時に相手との距離がとれることによる恐怖感の少なさや、振りまわすことによる打撃や刺突など基本操作や用途が簡便なため、練度の低い徴用兵を戦力化するにも適した武器であり、洋の東西を問わずに戦場における主兵装として長らく活躍した武器である。リアルで武器を振り回したことのない俺にとってぴったりなのだ。

 

断末魔とポリゴンの破砕音が聞こえ、アイテムに新たなドロップ品が加わる。

俺は三週間前、茅場晶彦が“あの宣言”を行って以来、寝るとき以外は常にフィールドまたは迷宮区に繰り出し、視界に入ったモンスターを一匹残らず駆除している。

自棄になっているのか。それともただ楽しんでいるのか。あるいは現実を受け入れることができなくて、それを考える暇すら与えないようにして現実逃避しているのか。自分のことなのに、自分がわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ。私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 

三週間前、つまりSAOの正式サービスのチュートリアル初日の午後五時半ごろ、プレイヤー全員が突然《はじまりの街》に強制転移させられ、茅場のアナウンスを聞かされた。

茅場晶彦。

数年前まで数多ある弱小ゲーム開発会社の一つだったアーガスが、最大手とよばれ、東証一部上場企業まで登りつめた原動力となった、若き天才ゲームデザイナーにして量子物理学者。

彼はこのSAOの開発ディレクターであると同時に、ナーヴギアそのものの基礎設計者でもあるのだ。

各研究機関や大学、政界からもアプローチを受けているものの、アーガスから離れるつもりはないと明言していることでも有名だ。

そしてその言葉をもって、茅場のデスゲーム宣言が始まった。

曰く、俺ら一万人弱のプレイヤーはこのゲームに閉じ込められた。

曰く、ナーヴギアを外そうとしたり、分解、破壊しようとすると脳がナーヴギアによって焼き切られる。

曰く、もう二百十三人が死んでいる。

曰く、HPが0になったらリアルでも死ぬ。

 

それを聞かされれば、人によっては発狂してもおかしくない。

それに追い打ちをかけるように、自分で作り出したアバターから、現実での自分の姿にアバターを変更させられた。

それは否応なく、これが過剰なオープニング演出ではなく、現実であるということを意識させられる。

 

『……以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤーの諸君の――健闘を祈る』

 

この言葉を最後に、茅場は消えた。

それを機に、多くのプレイヤーの感情が堰を切って溢れ出て、はじまりの街は阿鼻叫喚の地獄と化した。

その時俺の心にあったのは

――小町、材木座、一人にしてゴメンな――

罪悪感と喪失感

――もうこれで、完全にあの部屋に行くことは無くなったぞ――

解放感、そして

――デスゲームか何だか知らんが、ものすごく楽しくなってきた――

高揚感だった。

 

四つの感情に支配されるがままに動き、気付けばはじまりの街から遠く離れたフィールドでアインクラッド初の夜明けを迎えていた。

夜はちゃんと寝るようにしたとはいえども、四六時中狩りばかりやって今に至る。

 

前方の方で、次々とポリゴンの破砕音が聞こえてくる。

おそらくプレイヤーとモンスターの交戦中なのだろうが、何故か気になってその音源の方に近づいてみる。

そこで目撃したのは――

コボルトを全て倒し終えたプレイヤーが、不可視の麻痺攻撃を受けたかの如く、緩やかに地面へと崩れ落ちていく場面だった。

 




非常に遅くなりました。しかもいつもよりクオリティ低いです。すいません。

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